2012 Fiscal Year Research-status Report
金属修飾有機薄膜表面における近紫外光誘起電子放出現象のフォトカソードへの応用
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24656037
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
田中 仙君 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (20397855)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 有機/金属界面 / フォトカソード / 光電子分光 / 電子放出 / 光電効果 |
Research Abstract |
本研究は、有機薄膜上に微量に銀を堆積させることで起こる異常な光電効果について、その起源の解明と、フォトカソードへの応用の検討を目的としている。 平成24年度には、異常な光電効果の生じる試料表面の条件について詳細な検討を行った。具体的には、電子放出現象の光強度・波長依存性、下地となる有機半導体分子の種類による光電子放出現象への影響、有機薄膜表面での銀粒子の形状、銀粒子の蒸着による表面電子構造の変化について実験を行った。 その結果、電子放出電流は光強度にほぼ比例して増加することがわかった。これは本光電効果が、2光子吸収による電子放出現象ではないことを強く示唆する結果である。また、光電子放出を起こす光の波長閾値は、亜鉛フタロシアニンと銀の組み合わせで370nm程度であることがわかり、銀の仕事関数や亜鉛フタロシアニンのイオン化ポテンシャルよりもかなり低いエネルギーの光で光電効果が生じていることがわかった。下地については、亜鉛フタロシアニン以外にも、銅フタロシアニン、ポリ3ヘキシルチオフェンにおいても、微量の銀を蒸着することで異常な光電効果が起こることを確認した。さらに、有機薄膜上での銀の形状について原子間力顕微鏡や透過電子顕微鏡によって観測を行い、数nmの粒子状で存在していること、また、光電子分光法により、銀の蒸着によって、有機薄膜表面の真空準位が大幅に低下することなどの事実も明らかになった。また、フォトカソードとして利用する際には、効率や寿命などが問題となるが、これに関連して、大気曝露により異常な光電効果は消滅してしまうことがわかった。 これらの研究成果について、国内学会(2013年春季応用物理学講演会)と国際会議(7th International Conference on Molecular Electronics and Bioelectronics)において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
異常な光電子放出現象の解明に向けて、初年度である平成24年度には、大きくわけて三つの目標があった。①試料作製および光電子放出効率測定装置の作製②表面構造測定③電子構造測定である。 このうち①試料作製および光電子放出効率測定装置については、光照射用の光学系の整備は完了したが、in situで試料作製を行えるようにする機構についての整備が年度内の完成には至らなかった。この点は予定より遅れている。ただし、②および③については、それぞれ初期の目標である試料表面での銀の形状と、銀蒸着による電子構造の変化を明らかにすることができたことから、ほぼ順調に研究を進展させることができたと考える。また、学外施設での測定において、効率良く測定を行ったことで予定以上の種類の有機薄膜についての光電効果についての結果が得られた。この点は評価できると考える。 以上を総合して、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究結果から、有機薄膜表面の真空準位の変化と、試料表面における銀粒子の形状が特異な電子放出現象の鍵となっていることが示唆された。ただし、真空準位の低下量および銀粒子の形状と光電子放出効率との定量的な関係については、より詳細な測定が必要である。そこで、これらの測定については、引き続き外部の実験施設での光電子分光実験などを用いて明らかにしていく。また、光電子放出効率の定量評価のために、in situでの試料作製が可能な量子効率測定装置をできるだけ早く完成させる。 本現象の応用例として考えているフォトカソードについては、最大電子電流量や寿命、エネルギー純度などが課題となってくると考えられるため、これらの測定についても上記量子効率装置を用いて観測していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度から研究代表者が他機関に異動することとなり、量子効率測定装置を新所属機関に移設することとなった。平成24年度予算で整備予定であった量子効率測定装置の光学機器および一部製膜装置は、量子効率測定装置を設置する実験室の環境によって調整する必要がある。しかし、新所属機関における実験室の割り当てが3月半ば以降となるため、平成24年度内に納品することは不可能となったため、これらの装置の整備に充てる予定であった予算が残額として生じた。そこで、この予算を平成25年度に繰り越し、新所属での実験室の環境に合わせて機器の整備を行うことで、効率的に予算を運用する予定である。
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Research Products
(2 results)