2012 Fiscal Year Research-status Report
非定常波動問題に対する時間域境界要素法の高速アルゴリズムの開発と応用
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24656072
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
高橋 徹 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (90360578)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 境界要素法 / 高速多重極法 / 波動方程式 / 補間 / 反復解法 / 音響問題 |
Research Abstract |
3次元スカラー波動方程式に対する時間域境界要素法の高速アルゴリズムを定式化し、その計算プログラムを作成した。まず、元来の多重極法に時間階層を加味した高速アルゴリズムを定式化した。具体的には、波動方程式の基本解を補間(3次エルミート補間)を用いて近似することによって基本解の変数分離表現を実現した。この表現を基に本(マルチレベル)アルゴリズムの構成に必要な諸公式を誘導した。これに基づいて遠方との相互作用の計算手法を構成し、これと従来法に基づく近傍との相互作用の計算手法を組み合わせることによって、時間域境界要素法を構成した。本境界要素法の計算量は、従来法が O(N**2*M) であるのに対して、O(N**{4/3}*M) に低減されることを理論的に示した。ここに、**は巾乗、Nは空間の自由度(境界要素数)、Mは時間の自由度(時間ステップ数)である。すなわち、本解法は本質的に従来よりも高速である。 続いて、本解法の計算プログラムを作成した。その際、OpenMPによるマルチスレッド並列化を行った。そして、テスト問題において数値実験を行った。その結果、本解法が理論通りの計算量を有することが示された。さらに、その計算精度は近似パラメータを増加することにより従来法に収束する様子が確認され、精度のコントロールが可能であることが示唆された。現在、より現実的な問題においても数値計算結果の検証を進めている。 以上のように、次年度以降に精査すべき事項は残されているものの、本研究が目標とする高速解法の土台は完成したと考えられる。本研究のような波動問題に対する境界要素法の高速アルゴリズムに関する研究は過去に少なく、学術的に見てチャレンジングかつ先駆性が高いと考えられる。さらに、提案する高速解法が従来は困難であった大規模な初期値境界値問題の実行への突破口となり得る点は、工学的にも重要であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の第一段階である定式化に関しては、本研究の開始以前に予備的検討を行っていたと言う状況もあって、おおむね順調に進行した。ただし、予備検討の段階においては、本手法は O(N*M) の計算量を有するものと試算していたが、実際には N の指数は 4/3(=1.33)であるとの結論を得た。この点は期待通りとはならなかったが、本手法が従来手法に対して高速であることに変わりはなく、実際、本手法の計算時間は現実的な N の範囲で従来法のそれよりも小さくなることが数値実験で示されている。 第二段階である計算プログラムの作成および検証の段階にあたっては、本計算アルゴリズムの複雑さもあって、軽微ではあるが重要なミス(バグ)に平成24年2月まで気がつかないと言うトラブルがあった。このミスの修正によって最終的には合理的な数値結果を得ることができた。しかし、計算プログラムが過度に複雑化して新たなミスを誘発することを畏れ、その後のプログラムの並列化は、当初計画していたよりも積極的には行わず、OpenMPを利用した最も基本的な並列化に留めた。ただし、AVX/SSE 拡張命令を利用したチューニングについては検討したことを付記する。並列化を含むチューニングについてはH25年度にも引き続き検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
【次年度に使用する予定の研究費に関して】当該研究費が生じた状況としては、「現在までの達成度」に記したように、計算プログラムの検証が予想外に長引いたため、当初参加予定であった国際学会の参加を見送ったことによる。当該の研究費は、次年度の学会発表のための旅費の一部として使用する予定である。 【今後の研究の推進方策】まず、H24年度の研究成果を論文としてまとめる。これは5月を目処に行う。付随して、幾つかの国際学会にて逐次発表を行う予定である(なお、国内発表はH24年度に実績あり)。 次に、副次的な計算量の低減を目指す。すなわち、本高速解法のボトルネックの一つとなり得る副次的な計算量(すなわち、空間および時間の補間点数を p、q とするとき、計算量 O(N**{4/3}*M) の比例定数が p**6 と q**2 の積を含むこと) を何らかの方法によって軽減し、より一層の高速化を図ることを目的とする。この軽減化の手法としては、研究計画の段階で有望と考えていた特異値分解による高速化(低ランク化)手法よりも、同種の問題において提案されている FFT を用いた高速化手法(対象となる計算(例えば M2L 計算)が離散畳込みであることに注目した手法)の方が簡便であると思われる。そこで、FFT を用いた手法を本高速解法に適用することを試みる。この高速化を達成し、より大規模は初期値境界値問題の実行可能性を広げ、さらに、近似精度に伴う数値不安定性の考察を深化させたい。以上を7月を目処に行う。 最後に、電磁波動問題への応用に取り組む。基本的な定式化はスカラー波動問題と同じであるため、計算プログラムの流用も可能であると考えられるが、従来法(近傍計算)に関しては新たに計算プログラムの作成が必要である。計算プログラムの作成および検証を翌年1月を目処に行う。その後は本研究を総括する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
●物品費:該当なし ●旅費:国際学会発表(Waves2013、チュニジア、6/3~7)、国際学会発表(USNCCM12、米国、7/22~25)、国内学会発表(日本機械学会計算力学講演会、佐賀、11/2~4)、国内学会発表(第63回理論応用力学講演会、詳細未定)、および、関連学会における情報収集 ●人件費・謝金:大学院生による研究補助(計算機環境の運用とメンテナンス、データ整理)に対する謝金 ●その他:バックアップメディア(外付けハードディスク等)の購入
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