2012 Fiscal Year Research-status Report
遷移金属酸化物を用いた電界効果型スイッチの動作実証と輸送機構の解明
Project/Area Number |
24656200
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鳥海 明 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50323530)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 遷移金属酸化物 / TiO2 / HFO / FET |
Research Abstract |
24年度は,遷移金属酸化物薄膜,特にTiO2に関してプロセスからデバイス特性まで調べ,材料及びFET特性という観点から大きな進捗があった。具体的には以下のようである。TiO2を半導体として用いようとしたときに,キャリアはTiO2中にどのように誘起されるかというのは基本的問題点である。つまりTiO2は3eV以上のエネルギーギャップを持つ半導体であり熱的にキャリアは誘起されるとは考えにくい。そこで遷移金属酸化物では酸素欠損がドナーとして働き,電子を誘起してキャリアとなることが予測されている。そこで還元雰囲気で熱処理することでドナーを発生させ,電子を発生させることが考えられる。そこでH24年度の実験では,熱処理の雰囲気を徹底的に変化させて,Alをソース,ドレイン電極として用いたバックチャネル型FETを作製し,FET特性の違いを調べた。その結果,以下の重要な二点が明らかになった。(1)FETしきい値は酸素アニールしたときにほぼ理想値に近くなる,(2)FETにおける電界効果移動度は酸素アニールの時がもっとも大きく,10cm2/Vsec以上の値が得られた。この値はSiO2をゲート絶縁膜としたFETにおいては報告されている値の中でほぼトップに位置すると思われる。また,TiO2の膜厚を10nm以下から50nmあたりまで変化させても,この特性はほとんど変わらなかった。このことは今回得られたFET特性はTiO2のバルク特性ではなく界面の特性を見ていると考えてよい。この結果, SiO2とTiO2の界面を改善することによってさらなる移動度のさらなる改善が期待できる。 現在,これらのことをさらに他の遷移金属酸化物薄膜にも適用し調べている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
9で述べたように,SiO2上のTiO2をチャネルとして用いたFETにおいて,結果として得られた移動度の値は,世界最高レベルにあることを実証した。このことは当初の計画以上の成果である。また,しきい値が理想に近いということは欠陥が少なく,また熱処理の雰囲気依存性の結果からは酸素アニールが最もよいということがわかり,このことはTiO2中に酸素空孔は少ないことを予測させる。しかしながら,上記のことは結果としての数値がよいと言うだけでなく,酸化物半導体FETの性能限界,問題点の把握をするには,もともとの性能がよいもので調べないと本質が見えてこない点においても重要な点であり,今回の結果は世界トップレベルの移動度が出ているという点で極めて重要な進展であったと判断できる。また移動度が高いだけでなく,FET特性のオフ,オフ比は劣化することまったくなく,移動度の改善を実現することができた。つまり熱処理によってカットオフできないようなキャリアを誘起したのではなく,ゲート電界によって制御されたキャリアが誘起され,ゲートオフにするとFETは完全にオフできるということを意味している。これは通常の半導体のようにゲートでチャネルを完全に支配していることを示し,またしきい値が理想に近いということも,以上の考え方をサポートしている。 一方,物性的にもバンドギャップあるいは屈折率等の物性値も把握しており,またAlとのコンタクト特性も室温では極めて良好であった。これらの基礎物性及び極めて良質のFET特性は当初の計画を大きく上回るものであると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は上記の結果を基本して,TiO2に関しては,移動度の律速要因を明確にすることを第一の目的とする。続いて,FET特性の時間変化に着目する。つまり,一定のドレインバイアスとゲートバイアスを加えた時の電流の時間変化を調べる。これは次の観点からである。二端子素子における時間変化に関しては従来から報告例も多いが,三端子素子における時間変化,特にパルス電界に対する時間応答の報告例はほとんど無い。材料的には,すでに述べたように酸素アニールをする時によい特性が得られているということは,膜中の酸素空孔は他のアニール条件に比べてかなり減少していることが考えられる。そうは言っても,遷移金属酸化物中には本質的に空孔が存在することは間違いない。そこで,ゲート電界の効果として,この酸素空孔を電界で動かすことができないかに注目している。つまり,上記に述べたFET特性は電子の動きであり極めて速い時定数で動いているはずであるが,酸素空孔の動きは基本的に時定数の長い動きであることが予測される。このことによって,一つのFET特性の中に二種類の時定数をもった(速い時定数と極めて遅い時定数)状態を実現できるのではないかと考えている。このような状況を意図的に制御できれば,過渡的なメモリーもったスイッチを実現できることになる。このようなスイッチは従来のデジタルスイッチとはことなり,重み付きスイッチを実現できる可能性がある。これは通常の半導体スイッチではできない機能スイッチが実現できることになる。 またTiO2以外の遷移金属酸化物薄膜において同様の可能性があり得るのかに関しても材料の幅を拡げて調べていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H25年度は物品費としては主に製膜用ターゲット材の材料費,製膜用の真空備品,熱処理用のガス,薬品に使用する予定である。また成膜したサンプルに関して,自分たちでできない物理分析の外注費,等にあてる。また得られた成果の学会発表を積極的に行うための出張旅費(海外出張を含む),学会参加費,論文投稿費用に使用させてもらう予定である。
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Research Products
(11 results)