2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24656220
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
内田 紀行 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノエレクトロニクス研究部門, 主任研究員 (60400636)
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Keywords | 原子層シリサイド半導体 / ナノエレクトロニクス / 2次元キャリア輸送特性 / 半導体金属接合 / 遷移金属内包シリコンクラスター |
Research Abstract |
本研究課題では、Si表面上で遷移金属内包Siクラスター(MSin)を単位構造とする原子層シリサイド半導体を形成し、MSinの性質を利用することで、原子レベルの急峻性で1021-1022 cm-3の超高キャリア密度を実現し、フェルミレベルコントロール可能な原子層シリサイドとSiとの界面準位を持たない接合形成、電界や電荷注入による原子層シリサイドのバンドギャップ制御を実証することで、Siナノエレクトロニクスの革新的な要素技術の開発を目指してしている。 今年度は、極薄SOI(silicon on insulator)基板上にWSin層をヘテロエピタキシャルし、WSin層の2次元的なキャリア輸送特性を評価した。レーザーアブレーションで生成したW原子とSiH4ガス(50 Pa)との反応によりWSinHxクラスター(n=~10)を合成し、低ドープp型の厚さ12 nmのSOI基板(9 Ωcm)上に堆積して、400-500℃で熱処理によりWSin(n~10)を単位構造とする厚さ1 nm程度のヘテロエピタキシャル層が作製できたことを走査型透過電子顕微鏡観察で確認した。SOI基板を用いるために、フッ化水素溶液処理による清浄化を行い、表面平坦化プロセス温度も低温化し、デバイス作製プロセスに実装できるWSin/Siヘテロ接合の形成手法を確立した。WSin層の上にW電極を形成し、Hall測定でキャリア移動度と密度を評価した。その結果、WSin層が、8.3-8.8 cm2/Vsecの移動度を持ち、6.5-8.1×1019 cm-3の電子密度を持つn型半導体であることが判った。これは、これまでにWSin/Siの接合特性の解析から得られた、WSin層が、1.7×1019 cm-3以上の電子密度を持つ原子層シリサイド半導体材料であるという描像と一致した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、研究目的を達成するために、レーザーアブレーションで合成したMSinをSi基板表面に堆積する方法で作製した原子層シリサイド半導体(MSin層)の原子配列構造や電子状態を明らかにし、MSin層の2次元的なキャリア輸送特性や、MSin/Siヘテロ接合の接合特性を測定する必要がある。研究計画において今年度は、Si基板表面でMSin配列構造を形成し、2次元的なキャリア輸送特性を評価する予定であった。上述のように、WSinをSOI基板のSi(100)表面に堆積することで、WSin/Siヘテロ接合を形成し、Hall効果測定によりキャリア輸送特性を評価した。その結果、WSin層が、8.3-8.8 cm2/Vsecの移動度を持ち、6.5-8.1×1019 cm-3の電子密度を持つn型半導体であること実証した。観測された移動度は、WSin/Si界面に発生する界面状態による散乱で低下している可能性が高く、界面状態の改善によってさらなる移動度の向上が期待できる。2次元的なキャリア輸送特性が評価できたことで、26年度に計画している、外部電界によるWSin層のバンドギャップ変調の実証に予定通り進むことができる。 また、WSin層が、n-Siに対してオーミック接合、p-Siに対して高い障壁(0.80 eV)を有する接合材料であり、n-Siに対して、低抵抗かつ急峻な接合を形成できることの実証は、産業的に価値が高く、最近では、研究計画外であるが、ポストSi材料と目されているGeに対しても同様なコンタクト抵抗低減効果があることを実証した。これらの結果は、全く新規に創製されたナノ材料の電子材料としての有効性を実証したことを意味し、重要な科学的貢献となった。 以上のように、研究計画を順調に遂行しており、達成度は高い。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、WSin/Siヘテロ接合において、WSin層の2次元的なキャリア輸送特性評価をさらに進め、外部電界によるWSin層のバンドギャップ変調を実証する。そのために、WSin層をチャネルにした電界効果トランジスタ構造を試作し、電界印加によるキャリア輸送特性の変化を検出する。これを支援するために、デバイスシミュレーションによるトランジスタ特性の解析も試みる。また、ギャップ変調を直接観測するために、電界を印加しながら、WSin層の反射率や透過率を測定する。そのために、SOIだけでなく、SOQ(silicon on quartz)基板を用いて、WSin/Siのヘテロ接合の形成を行う。このために必要なSOI,SOQの極薄膜化や、表面を清浄化技術や平坦化するプロセスを確立する。 また、Si表面上に、種々のMSinを単位構造としたMSin層をヘテロエピタキシャル的に作製しドーピングを実証するために。これまで、MとしてWを用いた実証を行ってきたが、同じ価数でd軌道のサイズの異なるCrとMo、6価を中心に、価電子数の調整によるドーピングを行う目的で、4価(Ti, Zr, Hf)、5価(V, Nb, Ta)、7価(Mn, Re)を用いた実証を行う。そのうえで、Hall効果測定によるキャリア輸送特性評価を行う。 さらに、研究計画外ではあるが、MSin膜の熱輸送特性の評価も行う。MSin膜の熱伝導度が低い場合、自己加熱によるキャリア輸送特性の劣化が懸念される。最近では、熱伝導率の高いSiであっても、ナノ構造化することで熱伝導率が低下し、微細トランジスタでは自己加熱の問題が顕在化する懸念がある。熱輸送を考慮したデバイス展開を考える上で、MSin膜の熱伝導率計測は、新材料であるがゆえに特に必要である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
非常勤の技術スタッフを4月から1名雇用し(7.5時間×週2日)、測定用の素子の作製を行うことで研究をしたが、休暇等の関係で差異が生じた。 26年度は、本研究遂行にあたり、MSin層のギャップ変調を直接観測するために、電界を印加しながら、反射率や透過率を測定するため、(独)産業技術総合研究所に設置してある、反射率・透過率測定装置(島津製作所製SolidSpec3700)のサンプルホルダーの改造を行う。このサンプルホルダーは、マイクロプローブを2チャンネル備えたサンプルホルダーで、電界を印加しながら、直径2mm-5mmの範囲で反射率と透過率を測定できるようにデザインする予定である。この他に、研究成果を応用物理学会(9月開催)で発表する際の国内旅費、走査型透過電子顕微鏡と電子エネルギー損失分光、二次イオン質量分析などの外注の分析費用やレーザーアブレーションターゲットや固体基板など消耗品の購入に充てる。
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