2012 Fiscal Year Research-status Report
超短時間蛍光寿命を指標とする植物生理活性度のレーザ遠隔計測法
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24656256
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
齊藤 保典 信州大学, 工学部, 教授 (40135166)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 植物 / 生理情報 / レーザ誘起蛍光 / 蛍光寿命 / ライダー / 遠隔計測 |
Research Abstract |
最終目標を「地球環境要素としての植物機能の役割解明」におき、申請2年間での研究目的を「超短時間蛍光寿命を指標とする植物生理活性度のレーザ遠隔計測法」の提案と実証試験とした。平成24年度では「提案手法の原理確証実験:短時間蛍光寿命が光合成活性度の情報を含むか」の課題について検討した。 ①実験システム構築:500ps-1ns程度と推定される植物葉蛍光寿命を確実に計測可能な高速応答特性の実験系を製作した。パルスYAGレーザ(40ps, 532nm, 1mJ, 10Hz)、ストリークスコープ受光分光機器(時間分解能30ps, 検出波長域200-850nm, 波長分解能3.6nm)、高速オシロスコープ(帯域8GHz)、ガウス・デザイル法による蛍光寿命算出解析プログラムからなる蛍光ライダーシステムを完成した。送信受信系の理論的時間分解能は50ps(=√{(40×40)+(30×30)})と見積もられた。 ②屋外シミュレーション実験(植物短時間蛍光寿命が光合成活性度の情報を含むか):自然生育のプラタナス生葉、鉢植え枝豆生葉、採取したレッドロビン生葉を用いて、葉内クロロフィル蛍光である685nmと740nmでの寿命変化を計測した。プラタナス生葉では、朝8時から夕方16時までの連続観測を行った。日中変化よりも季節による変化(夏には蛍光寿命値の短時間化、秋には蛍光寿命値の長時間化)が見られた。枝豆生葉では、塩ストレス(温暖化による砂漠化シミュレーション実験)に依存した蛍光寿命値の長時間化が見られた。レッドロビン生葉では、水ストレス(温暖化による水不足シミュレーション実験)に依存した蛍光寿命値の長時間化が見られた。 ③まとめ:植物生葉の超短時間蛍光寿命は、生育環境、塩ストレス、水ストレスにより影響を受けることが実験的に示された。提案手法の原理と製作装置の有効性が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請時点における平成24年度の計画では「提案手法の原理確証実験:短時間蛍光寿命が光合成活性度の情報を含むか」を課題として、①実験システムの構築と②屋内シミュレーション実験の実行にあった。 ①実験システムの目標は、「植物葉の超短時間寿命計測に耐えうる500ps以下の時間特性を持ち、屋外計測に使用可能な遠隔計測装置を構築すること」にあった。これに対し、ストリークスコープを分光検出器とした製作計測装置の性能は、蛍光時間分解能50ps、計測可能距離20m以上であり、目標とした性能を十分満足することができた。検出においては(従来から申請者が行ってきた)短時間ゲート同期検出法を再適用することで、②に示す成果を得ることができた。 ②屋内シミュレーション実験は、より難度の高い「屋外」シミュレーション実験に変更された。最終目的は屋外に自生する植物の短時間蛍光寿命であることを意識して、1)屋内等で生育・観賞される植物を屋外に設置すること、または、2)外部におかれた反射ミラーにより再度屋内へレーザを折り返し、室内に置かれた植物に照射するもの、の二通りの「屋外シミュレーション」実験に再設定してその実験が確実に実行された。 ②1)では、屋外にて蛍光寿命値を得ることに成功した。弱い蛍光を太陽背景光の強い日中で得られたことは、短時間ゲート同期検出法の有効性を実験的に証明したことになり、非常に大きな成果である。②2)でもほぼ同様の結果が得られた。これらの結果は、各種生育環境の変化に応じて生じる植物の生育変化情報を、クロロフィル蛍光寿命の遠隔計測により取得することが可能、であることを示すものであり、まずは当初の目標が確実に達成された。さらに、申請時の計画よりもより「難度の高い」「屋外」ミュレーション実験によってその成果を得たことにより、「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
「超短時間植物蛍光を指標とする植物生理活性度計測法の確立」の最終目標を目指し、平成25年度は「蛍光寿命レーザ遠隔計測の実施と結果の指標の適応」を重要研究推進課題とする。 ①紫外線ストレスオゾン層シミュレーション(平成24年度の継続)実験:ブラックランプの強度を調整し、早朝、午前、太陽天頂時、午後、夕刻の疑似太陽光紫外線設定で蛍光寿命の変化を調査する。事例の多様化による超短時間蛍光寿命のデータベース化を試みる。 ②蛍光寿命レーザ遠隔計測システムのハードウェア開発:平成24年度結果と①結果を組み込んだ装置設計と製作を行う。ライダー方程式による計算結果を設計に反映させる。製作においては、平成24年度のシミュレーション実験と比較して受信蛍光信号がより微弱になると予想されるため、望遠鏡とマルチチャネルプレート内蔵型光電子増倍管を導入する。信号処理系には、現有の広帯域(アナログ周波数80GHz)デジタルオシロスコープを導入する。計測システム系の理論的時間応答は227psと見積もられ、平成24年度結果の蛍光寿命変化に十分追随が可能と思われる。 ③上記のソフトウェア開発:蛍光寿命解析およびデータベース化された短時間蛍光寿命との創刊適合ソフトウェアを作成する。蛍光寿命解析では、システム反応を考慮したコンボリューション解析を組み込んだソフトウェアとする。また実験で得られた寿命値と植物生育環境情報とを紐づけて理解するための相関適合ソフトウェアを作成する。 ④屋外生育植物を対象とする検証実験:「短時間植物蛍光寿命が光合成活性度の情報を含むか?」の屋外実験を実施する。生育自然環境での時間・日・月・季節変化を調査し、上記問題提起における屋外実験からの回答を出す。 ⑤提案手法の有用性、問題点、現場活用法を含めた全体的総括を行うとともに、論文投稿、学会発表により外部公開、外部評価とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、フィールド計測システム製作費が殆どである。この中で、MCP型光電子増倍管が特に高額であるが、検出器の感度と高速性が本研究成否の鍵を担っており、必須の光検出部品である。クロロフィル蛍光検出に使用する。干渉フィルタはクロロフィル蛍光波長(685nmと740nm)に設定したものが必要であり、特注品になるためやや高額である。その他、本結果と生育環境条件の比較などが必要なことから、気象測器やPAM等のレンタル費を計上した。旅費ついては、成果発表に国内(二件)、国外(一件)を計上した。
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