2013 Fiscal Year Research-status Report
貯水池管理に向けたカビ臭生産藍藻類の代謝特性の解明とそれを用いた増殖制御法の開発
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24656292
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
浅枝 隆 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40134332)
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Keywords | 2MB / カビ臭 / 藍藻類 / カビ臭代謝酵素遺伝子 / フォルミディウム / 遺伝学的同定 / 貯水池管理 |
Research Abstract |
本研究の目的の一つであったシアノバクテリアがカビ臭物質である2MIB(2-methylisoborneol)を産出する際に必要となる遺伝子はGPPTとMIBSであることが他機関から報告されたため、研究計画を多少先取りする形でこの遺伝子の発現頻度をマーカーに、シアノバクテリアが2MIBを発生させる環境条件について研究を進めた。既に2MIBを産出することがわかっているPseudoanabaena galeataを対象に、水温、リン及び窒素の栄養塩条件、乾燥負荷を変えて培養を行い、これらの遺伝子をプライマーに、RTPCRで増殖、発現頻度を測定した。 その結果、水温について25度程度までであれば水温が高いほど遺伝子の発現頻度が高くなることが確認された。これは平成16年に渡良瀬貯水池で観測された結果に符号し、同年の高濃度のカビ臭発生の原因が確定できた。栄養塩濃度については、窒素濃度とリン濃度の量及びこれらの比を変えながら培養により、リン濃度が低くなるほど遺伝子の発現頻度が有意に高まることが確認された。この結果は窒素濃度が高いと2MIB濃度が高まるというこれまでの経験的な結果と相通ずる部分も含まれる事実である。ビーカー中で水の量を変えて乾燥負荷を模擬した実験では、乾燥させるとこれらの遺伝子の発現頻度が減少することが確認された。これは渡良瀬貯水池で行われる干し上げが2MIBの発生を低減させているのではないかという仮説に符号するものである。なお、これらの遺伝子の発現頻度と実際に発生する2MIBの量には良好な相関が認められた。 以上のように、2MIB産出に必要となる遺伝子をマーカーにして2MIB発生能をモニタリングすることで、これまで経験的にしかわからなかった2MIB発生制御の条件が明らかになり、更なる分析を進めることで、貯水池管理の手法が提案できる見通しがついた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、2MIBの産出遺伝子の解明から始める計画になっていた。しかしながら、最近になって他機関によって産出遺伝子がGTTPとMIBSであることの報告があった。元々、遺伝子の解析に長期間を費やす計画であったために、これが省けることになった影響は大きかった。また、遺伝子を産出する遺伝子が明確になったことは、同時に類似の藻類の中で、2MIBを生産する藻類が初めからわかっており、これを用いることができたことで、2MIBを発生するかどうかの確認作業も省けた。以上のことから、当初の計画で最も重要な部分である、貯水池におけるカビ臭産生菌のモニタリング手法の開発から研究を進めることができ、上記遺伝子の発現頻度をモニターにして、2MIBを発生させる環境要因の特定に集中することができた。これが計画以上の達成度を得る原因となった。 2MIBの発生の環境要因の特定においては、様々な工夫を行った結果、予想以上に安定した結果を得ることができ、試行回数を減らすことが可能になり、これも計画をより速くすすめることができた原因である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の結果で、水温、栄養塩、乾燥ストレスに関して、2MIB産出遺伝子の発現頻度との関連が得られた。この結果より、当初の予想に反して、ストレスが高い方が発現頻度が高くなっているような結果が得られている。平成26年度は、この結果を踏まえ、当初予定していなかった環境要因に対する影響を更に詳細に調べる。具体的には、曝気循環による暗条件や圧力の増加が2MIB産出遺伝子に与える影響等である。この結果は、現在、アオコ対策として各地で行われている曝気循環の是非に絡むもので極めて重要な課題となる。さらに、当初の計画にあった、実際の貯水池の水についての解析を行い、2MIB産出遺伝子をモニターにして、2MIB産出種の季節変動等のモニタリングを可能にする手法の開発に取り組む。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の計画遂行中に、環境ストレスが遺伝子の発現頻度を増加させているのではないかという仮説を得た。これは、現在各地の貯水池で利用されている曝気循環の是非に直結する、極めて重大で緊急を要する課題である。そのため、当初の計画に入れていなかったものの、この現象の解明を平成26年度の計画の中に位置づけた。曝気循環で生ずるシアノバクテリアの生息環境の変化は、曝気循環の仕組みは水中に循環を生じさせ、表層に浮遊しているシアノバクテリアを深層に送り込むことから、周囲が光が届かない暗条件になることと水圧が急激に増加することである。そのため、培養の明暗条件ストレスと加圧ストレスが2MIBの産出遺伝子の発現頻度にどのような影響を及すかについて、実験を行い評価することにした。このように、平成25年度に得られた結果から、平成26年度にこのような課題を付加したことで、予算の利用法にも若干の変更を余儀なくされた。 上記の現象の解明のために、明暗条件及び異なる圧力の下でシアノバクテリアの培養を行えることができ、かつ、様々な量をそのまま測定することが可能な実験装置の開発が必要である。現在、加圧の装置を接続したチューブ等の利用を考えている。また、分析の回数も増加することになることから、薬品の量も増えることになる。こうしたことから、平成25年度の予算を若干切り詰め、平成26年度に回した。
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