2012 Fiscal Year Research-status Report
大気水収支法にGPS可降水量を適用した蒸発散量推定手法の確立
Project/Area Number |
24656295
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
萬 和明 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90554212)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | GPS 可降水量 / 移流モデル / 蒸発散 |
Research Abstract |
地球規模での水循環の理解を深めることは,喫緊の水問題への対応に必要不可欠である.特に水資源の入力となる降水については,蒸発散などの地表面状態がその規模や分布に影響することが指摘されている.しかしながら,蒸発散の観測値は少なく,蒸発散の時空間分析やモデル検証の障壁となっている.本研究課題では,モデル検証にも耐えうる時空間間隔の蒸発散推定値を出来うる限り観測値をベースに作成することを目的とし,大気水収支法を GPS 可降水量に適用する.平成24年度では GPS 可降水量の水平移流量を移流モデルで表現できるか,その適用可能性を検討した. 地上に設置された GPS (Global Positioning System) 受信機が GPS 衛星から受け取る電波には,大気による影響を受け真空中と比べ見かけ上伝搬距離が伸びたように見える大気遅延の効果が含まれる.この大気遅延と地上気圧,気温および可降水量との物理的な関係から推定されるのが GPS 可降水量である.本研究では国土地理院の電子基準点データ提供サービスから対流圏遅延量を取得し,AMeDAS の気象観測値から可降水量を推定した.推定した可降水量は,空間方向約 20km 間隔,時間方向3時間間隔である. ある物理量の空間分布が時間経過とともに変化する様子を,移流ベクトルによる移流と乱れの項で表現するモデルが移流モデルである.本研究では,GPS 可降水量の時間変化を位置座標の 1 次式で近似した移流ベクトルと乱れの項で表現し,1 次式中の係数は時々刻々と得られる GPS 可降水量分布から推定した.移流モデルでは,格子を超える物理量の移動は表現できない.そこで,可降水量データをアップスケールしながら,さまざまな空間間隔で移流ベクトルを求めたところ,100km 程度の空間間隔であれば移流ベクトルを適切に求められることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は,モデル検証にも耐えうる時空間間隔の蒸発散推定値を出来うる限り観測値をベースに作成することを目的とし,大気水収支法を GPS 可降水量に適用し,数日かつ 20km 間隔の蒸発散量の推定手法を確立することである.平成24年度はその目的を達成するために GPS 可降水量の水平移流量を移流モデルで表現できるか,その適用可能性を検討することであった. 対流圏遅延量と気象観測値から GPS 可降水量を 20km 格子,3時間間隔で推定し,得られたデータに移流モデルを適用した.20km 格子間隔の可降水量には移流モデルを適切に適用できなかったが,100km 格子までアップスケールすることで移流モデルが適用できることを示すことができたことから,平成24年度の研究目的は達成されたと判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
移流モデルによる GPS 可降水量の水平移流量の推定可能性について,平成24年度に引き続き検討を続ける.先行研究の結果から,GPS 可降水量の精度は 2mm 程度とされているが,蒸発散量は多く見積もって 0.5mm/hour であり,求める値よりも用いる変数の誤差の方が大きい.そこで,大気水収支法で考慮する期間をある程度長期間とすることを考える.しかし,積算期間を長くすれば GPS 可降水量の推定誤差に起因する大気柱内の水分量変化および大気柱の側面全体からの移流量の誤差が蓄積することが懸念され,大気柱の側面全体からの移流量については移流モデルによる推定誤差も検討する必要がある.また,1 ヶ月間隔以下の蒸発散量推定を本研究における挑戦的課題としていることから,積算期間は長くとも 10 日程度としたい.すなわち,積算期間の決定には,大気水収支法の誤差の大小関係に留意しつつ試行錯誤しながら,加えて移流モデルの誤差を小さくするために,移流モデルの非線形化などの飛躍的な改良が必要となり,それらを随時試行する.それらと平行して,GPS 可降水量の時間間隔の決定要因となっている,対流圏遅延量を独自に推定することに挑戦する.対流圏遅延量を1時間間隔以下で推定することができれば,移流モデルの適用格子サイズを小さくできるためである.しかしながら,対流圏遅延量を推定するための技術の習得には時間を要することが知られているため,上記課題の遂行状況をふまえながら取り組んでいく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
GPS 可降水量の推定に必要となる気象観測データを購入する.一部は平成24年度研究費で購入済であるが,平成25年度は対象期間を広げるため,追加でデータを購入する. 少しずつでも得られた成果は積極的に国内外の関連学会・会議で発表し,多数の研究者との研究討議を行うための旅費を計上している.
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