2012 Fiscal Year Research-status Report
博物館建築がポピュラー文化受容に果たす空間的機能の解明とその設計還元に向けた研究
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24656343
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷川 竜一 京都大学, 地域研究統合情報センター, 助教 (10396913)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山中 千恵 仁愛大学, 人間学部, 准教授 (90397779)
伊藤 遊 京都精華大学, 付置研究所, 研究員 (70449552)
村田 麻里子 関西大学, 社会学部, 准教授 (50411294)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | マンガ / ミュージアム / まちづくり / まちおこし / ポピュラーカルチャー |
Research Abstract |
大衆文化かつメディア・アートでもあるマンガが展示されるとき、博物館は建築空間としていかに対応して(時に齟齬をともなって)、それぞれの場で成立しているのか。本研究では、そもそもハイカルチャーの容器として成立した博物館建築が、ポピュラーカルチャーの容器としていかにして利用されているのかということを考察し、今後の建築設計に貢献することを目的としている。 本年度は、6回の研究会を開催し、現在の日本のマンガに関する研究・活用状況の議論・整理を行った。また各メンバーで分担しながら日本国内の20館程度のマンガミュージアム調査を行うとともに、研究成果を京都大学地域研究統合情報センターよりディスカッションペーパー(総頁数140頁)として刊行した。また研究成果を用い、日本建築学会・計画系論文集に論文を投稿・掲載された。 また、カウンターパートおよび本研究グループの研究体制の関係から、フランス・アングレーム市における国際マンガフェスティバルの調査を先行して行った。イギリス、ベルギー、フランスのマンガ関連文化施設と主要なミュージアム(全7館)で、インタビュー調査や建築・都市調査を中心に、フィールド調査を行った。フランス・アングレーム市においては、マンガミュージアムを用いた都市再生といった観点からの調査を行い、とりわけフェスティバル企画者へのインタビューなどを通じて、大きな収穫をあげることができた。 加えて、イギリス・ロンドン大学において研究グループのメンバーを中心にシンポジウムを開催し、100名近い参加者の中で、本年度の成果の一部を発表することもできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度においては、日本国内のマンガミュージアムに関する議論・調査・整理を行い、充実した成果を得ることができた。それを通して、単にミュージアムという器だけでなく、マンガそのもののコンテンツの利用などを具体的に考察することができた。例えばキャラの銅像を建てたり、萌えキャラを用いたショートストーリーを街中で展開することで、消費者であるファンの獲得に加えて、「聖地巡礼」を刺激したりするなどである。こうした知見を蓄え、イギリス・ベルギー・フランスの調査に赴いたことで、日本と同地域のポピュラーカルチャー利用に関する差異を、マンガミュージアムの設立・運営の差異からはじまり、建築空間の用い方に至るまで、広い視点から包括的に把握することができた。「第九の芸術」として展開しているヨーロッパのマンガミュージアムは、日本の方向性とはかなり異なっており、その点を観察することができたことは、今後の方向を絞る上でも、大きな成果・達成点となった。 一方、調査成果の還元という意味でも初年度から精力的に行うことができた。特にロンドン大の協力を得て行ったシンポジウムや、アングレーム市におけるフェスティバル期間内の企画コアメンバーミーティングへの参加などを許されたことで、欧米圏のミュージアム関連専門家とのネットワークができたことは大きい。また、ディスカッションペーパーや論文の配布、マンガミュージアム研究会のウェブサイトの開設(http://mangamuseum.blogspot.jp/)などを通して、研究成果の発信も強く進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度の調査・研究から、日本国内のマンガミュージアムが欧米圏との比較よりはむしろ、同じアジア圏や日本国内での差異を中心に整理していくことが大切であることが分かった。特にインタビュー調査で見えたことは、そもそもマンガミュージアムに対する各地域のプロデューサーや運営者たちの意識に、日本とは大きな差異があった点である。同調査では企画者に向けたインタビューなどを通して、これまでとは別の角度から基礎的なデータを有効に収集できたため、今後他地域で行う調査でも継続したいと考えている。一方、当初の計画を踏まえて建築空間の使われ方や都市空間内での位置づけなども、今年度調査する予定であり、当初の計画通り韓国漫画映像振興院(京畿道富川市)を対象地と定め、準備を進めている。そのための研究会などを今年度は前年度以上に充実させる計画である。 また各ミュージアムの調査報告をまとめた一般書の出版を、2013年度末に予定しており、マンガミュージアムの包括的研究の成果として、重要な成果となる予定である。2014年度以降の計画も練り始めており、建築の設計還元に向けた要素を抽出した成果として、マンガミュージアムに関する展覧会の開催などを議論している。魅力的な成果還元に努めたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、韓国漫画映像振興院(京畿道富川市)における調査を行う予定であり、そこに重点的に予算を使用予定である。具体的に記すと次の通り。韓国のマンガを用いた文化政策は大変力が入っており、2012年度のアングレーム市における調査でも、韓国の展示は際立っていた。韓国において十分な調査が必要と考え、同施設に加え、周辺施設や関係者から情報を収集するため、旅費・滞在費及び現地通訳代などに研究費を用いる。 また日本国内施設も含め、インタビュー調査の対象をミュージアム設置の企画者のみならず建築家などまで広げてゆくことで、マンガミュージアムの設立意図や設計意図なども収集することを計画している。前年度の調査成果も大変充実したものであり、それらの中でまだまとめられていない部分もある。そうしたものをもとにしたさらなる論文の学会への投稿費や成果物の郵送費などにも研究費を使用する予定である。 加えて、分析に必要な国内の調査対象地の地図や図面、建築情報(その土地の歴史や建設・設計の経緯などが記された雑誌記事など)の収集・複写、インタビュー成果のテープ起こし、調査図の加工・整理等に予算を割くと同時に、最終年度の成果物作成に向けて研究会などを充実させる。具体的には、年度後半に重点的に研究会を開き、講師として外部から専門家を招いた小講演会なども開催したいと考えている。そうした謝礼などにも用いたい。
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