2012 Fiscal Year Research-status Report
非平衡エネルギーを用いた非加熱形成による透明酸化亜鉛膜の創製
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24656373
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 泰光 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (50624003)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下位 法弘 東北大学, 環境科学研究科, 助教 (40624002)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 酸化亜鉛 / 錯体 / 非平衡エネルギー |
Research Abstract |
太陽光発電デバイスに使用されている半導体膜はSiが一般的であるが、より高い変換効率を得るために金属酸化物の半導体膜をSiと併用することが有効である。その金属酸化物半導体膜の候補の一つが酸化亜鉛であるが、従来のスパッタやCVDでは大面積かつ安価な高性能酸化亜鉛膜を生成することは不可能であった。そこで均一に分散した酸化亜鉛ナノ粒子の塗布をベースに、電子線ビームあるいはプラズマなどの非平衡エネルギーを利用した非加熱結晶成長プロセスによる、透明酸化亜鉛幕の製膜法を確立することを目的としている。 現時点では、当該生成膜を構成する酸化亜鉛ナノ粒子を径50~100ナノメートル程度に均一に生成する手法を確立した。さらに当該ナノ粒子を界面活性剤を用いて均一に分散する条件も確立している。酸化亜鉛膜の導電性を制御する方法として、添加する酸化亜鉛ナノ粒子の密度の制御があげられるが、本実験ではナノ粒子の液中密度を適宜変化させても、液中で沈降することなく分散する条件を見出すことに成功した。 均一に分散した酸化亜鉛ナノ粒子添加溶液を任意のプラスチックフィルム上に、グラビアコーターにて厚さ数10ミクロン程度に塗布している。さらに一様な酸化亜鉛の連続膜として構成すべく、塗膜に電子線およびプラズマを照射した。本研究では、電子線の照射エネルギー量(ドーズ量および加速電圧)とプラズマ出力値を制御することで、均一に塗布された膜中に存在する酸化亜鉛ナノ粒子を非加熱で架橋化する条件を見出した。本実験結果により、酸化物系ナノ粒子を加熱することなく連続な一様膜に形成する手法の原理を確立することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度における本研究は、非平衡エネルギーで連続金属酸化物膜を形成すべく本プロセスの根幹をなす膜構成物の組成設計および金属酸化物ナノ粒子の架橋化の基礎条件を見出すことに研究の主眼を置いた。高品質かつ低コストな金属酸化物膜を構築するべくロールtoロール等をベースにした非加熱型塗布プロセスでの膜形成を目指しており、塗料の設計は本研究において必要不可欠なファクターになる。この塗料組成設計に関して、金属酸化物ナノ粒子を添加する溶剤、及びナノ粒子を効率よく分散する界面活性剤については電子線照射・プラズマ雰囲気暴露において効率よく蒸発もしくは雰囲気中に霧散する材料の選定を行った。 また低融点なプラスチック基板上における電子線照射及びプラズマ雰囲気暴露における金属酸化物ナノ粒子の架橋化は本研究が世界初の試みであり、非平衡エネルギーを塗膜に供給する方法はエネルギーの供給過多による材料の燃焼消滅を起こさぬよう、高エネルギー電子線およびプラズマ雰囲気の安定的な供給方法の確立に腐心した。電子線照射に関してはTEMの電子照射システムをベースにし、高エネルギーに加速された電子をサンプルに均一照射できるようサンプルステージの改良を施し塗膜サンプルに電子エネルギーを供給するシステムを構築することに成功した。また、プラズマ雰囲気はRFスパッタ装置を利用し、水素等のラジカルをプラズマ雰囲気中に投入できるシステムを構築した。このラジカルは塗膜に含まれる界面活性剤の除去およびナノ粒子間の架橋化に有効であることを見出した。 これら結果より、本研究の当初の目的であった膜構成物の組成設計および金属酸化物ナノ粒子の架橋化の基礎条件を見出すことを達成したと判断した次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
金属酸化物ナノ粒子をベースにした塗膜の架橋化基礎条件の確立に成功したが、透明性及び導電性の制御に関しては今後検討すべき余地は多分にある。透明性・導電性を確保するためには、非平衡エネルギーの供給による金属酸化物ナノ粒子の架橋化メカニズムをより詳細に把握する必要があり、今年度は当該メカニズムの解明に本研究の主眼を置く。本研究ではナノ粒子の架橋前駆体として金属錯体を利用しているが、この金属錯体と金属酸化物の架橋メカニズムに関する研究報告は皆無である。 1.電子線、プラズマ雰囲気のハイブリッド処理による金属酸化物の架橋メカニズムの解明:初期実験結果より、金属酸化物ナノ粒子に電子線・プラズマ雰囲気を照射することにより、導電性が変化する知見を得ている。本結果を基にさらに条件の改良を重ねて、透明性・導電性の条件依存性を確認する。そして、合成膜の結晶性・組成解析(使用装置:XRD,TEM,EDX,XAFS等)で合成膜の物理状態を確認する。さらに、粒子同士の架橋の状態に関して、電子線加速電圧の依存性を高性能LC-TOF質量分析に、極低温イオン源を併用する手法で解析する。上述の解析を重ねることで、金属酸化物ナノ粒子の結合メカニズムを解明していく。 2.透明導電膜形成のための塗料の開発設計:サイズ1.0×1.0m2超の透明導電膜を作製するために、塗布プロセスを採用する。当該プロセスに対応した塗料組成に関する開発設計を行う。 3.透明性・導電性を制御するためのプロセスの確立:電気伝導性および光学透過性の最適化を図るべく、塗膜の電気伝導性評価(四端子法)、光学特性評価(分光器、Hazeメータ、積分球)結果をフィードバックしながらプロセスの条件を改良していく。上記要素技術の確立により、塗布プロセスを応用した、非加熱かつ非平衡エネルギーの利用による酸化亜鉛膜の形成技術を確立する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である。平成25年度は、電子線照射装置および水素ラジカル含有プラズマ雰囲気照射装置に関わるプロセスの改良のため、金属酸化物ナノ粒子結合に関する研究項目が多岐に渡り複数回の装置改造が必要になると考える。 またそれと並行して、プロセス条件の改良を繰り返しながら膜形成実験を行うため、多くの材料・薬品も必要になり、今年度未使用額とあわせ平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
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