2012 Fiscal Year Research-status Report
狭バンドギャップ強誘電体薄膜における光誘起電気物性発現メカニズムの解明
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24656381
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
坂本 渉 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 准教授 (50273264)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 強誘電特性 / バンドギャップ / 光誘起電流 / 光起電力 / 薄膜作製 |
Research Abstract |
平成24年度は、主にBiFeO3系ペロブスカイト型酸化物薄膜に関する作製プロセスの最適化を行い、光誘起電流(+光起電力)特性評価法を確立する検討を行った。また、強誘電体薄膜の分極状態と光誘起特性との相互作用についても検討を行った。さらに、特性発現の鍵を握る構成元素の状態(酸化数)解析法についても調査を行った。 薄膜作製プロセスの確立については、他のペロブスカイト型強誘電体化合物との固溶体化、すなはちBiFeO3-ATiO3化合物系の化学組成に関する設計を行い、薄膜作製用コーティング溶液については化学的に制御して安定化した複合金属-有機化合物前駆体溶液の調製条件を確立した。さらに、薄膜コーティング条件および加熱処理条件など作製条件の最適化を行うことにより、化学組成、結晶構造および微構造を制御したペロブスカイトBiFeO3-ATiO3系化合物薄膜の作製に成功した。 作製した薄膜の光誘起電流(起電力)に関する挙動解析については、BiFeO3系薄膜の電気容量特性、強誘電特性、リーク電流特性など基本的な電気的特性を把握しつつ、様々な波長・強度の光照射下での光誘起電流挙動解析を行った。また、BiFeO3-ATiO3系化合物薄膜の組成設計を行い、強誘電特性(特に抗電界)を改善することにより、室温域での分極方位による光電流の方向制御に成功した。さらに、本研究で作製した薄膜の光起電力特性についても分極方位との関係を明らかにした。 薄膜構成元素の局所構造解析に関する基礎検討については、薄膜中の金属陽イオンの価数が影響を及ぼす欠陥構造と各特性との関係に関する考察に役立てるため、光電子分光分析により、特に構成元素中のFeイオンについて解析を行い、薄膜の電気絶縁特性と光誘起電流特性との関係を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
薄膜作製プロセスおよび評価法の確立においては、薄膜作製用前駆体溶液、薄膜コーティング条件および加熱処理条件など作製条件の最適化がほぼ完了しており、再現性の高いペロブスカイトBiFeO3-ATiO3系化合物薄膜の作製に成功している。 作製した薄膜の光誘起電流(起電力)に関する挙動解析においては、BiFeO3系薄膜の電気容量特性、強誘電特性、リーク電流特性など基本的な電気的特性を把握し、かつ様々な波長・強度の光照射下での光誘起電流挙動解析が行われている。また、他のペロブスカイト型強誘電体化合物との固溶体化、すなはちBiFeO3-ATiO3化合物系の化学組成に関する設計を行うことで、強誘電特性(特に抗電界)を改善し、本研究において重要な室温域での分極方位による光電流の方向制御に成功している。さらに、本研究で作製した薄膜の光起電力特性と分極方位との関係も明らかにしている。 薄膜構成元素の局所構造解析に関する基礎検討においては、光電子分光法により特に構成元素中のFeイオンについて解析を行い、薄膜の電気絶縁特性と光誘起電流特性との関係を考察している。 以上のことより、BiFeO3系薄膜の電気的特性および薄膜内部に生じる内部バイアス電界の存在に関係した光誘起電流の発生挙動が明らかになりつつあり、光起電力の見積もりにも成功している。また、目的とする強誘電体薄膜の強誘電分極反転と光電流の方向との関係を見出した。よって、本課題の研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進法策としては、BiFeO3系薄膜の特性発現の鍵を握る構成元素の状態解析データおよび微構造データをさらに充実させ、薄膜の微構造・欠陥構造と電気的特性および光学的特性が関与する光誘起特性間の関係について明らかにする。強誘電体薄膜の分極状態との相互作用については、走査型プローブ顕微鏡を応用した光誘起電流挙動解析データも加えて考察を行う。これらをもとに実際のデバイス化に向けた問題点と解決策を明らかにする。具体的には、以下について検討を行う。 強誘電体薄膜の電気的特性と光誘起特性間の関係の解明を行うため、作製したBiFeO3系薄膜の結晶配向、微構造、薄膜中に生成する欠陥の種類とその分布状況など薄膜の光照射下での電気的特性に影響を及ぼす重要な因子について検討を行い、光誘起特性の向上のための方策を明らかにする。 薄膜の分極状態と光照射下での特性との相互作用の評価と解析のため、走査型プローブ顕微鏡(微小電流検出プローブを使用)を応用した光誘起電流評価について検討を行う。この方法により薄膜中のマイクロ・ナノ領域(強誘電ドメインの状態解析は圧電応答検出機能を利用)の物性評価を行う。また、特性の発現および向上メカニズムについての考察を深めるため、理論計算データの収集も加えて解明に役立てる。 作製した薄膜のデバイス応用に向けた可能性探索については、得られた各種データをもとに、本研究で作製した強誘電体薄膜についてエネルギー(ハーベスティング)素子などデバイス化を考えた光誘起電流(+起電力)現象と分極反転現象の相互作用から生じる光照射下での応答に関する問題点と改善点を明らかにした後に、新規薄膜型エネルギーデバイスの提案を行い、実際の応用へ向けた指針を確立する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は前年度の研究成果をもとに、さらに本課題の研究を進展させるため、以下のように研究費を使用する予定である。 薄膜作製用金属-有機化合物試薬および基板を購入し、より多彩な組成系の薄膜について合成・評価が行えるようにする。特に、薄膜作製用基板については、シリコン系基板の他に、特性発現メカニズム解析用として結晶成長方位制御したモデル試料作製のための酸化物単結晶基板を購入する。また、薄膜の結晶化処理時の雰囲気(酸素分圧)が電気的特性に及ぼす効果について調べるためのガス供給系の部材の購入を計画している。さらに、より正確に光起電力が測定できるなど特性評価に対してより最適な計測器の購入を検討し、評価システムの充実を図る。 作製した薄膜の化学組成分析・微構造解析を行うための費用としての研究費も計画する。 共同研究者との連絡をこれまで以上に密に行うとともに、研究成果を積極的に学会および学術論文誌などを通じて広く外部に発表できるようにする。
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Research Products
(6 results)