2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24656406
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山本 剛久 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20220478)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 転位 / チタン酸ストロンチウム / 酸化ニッケル / 強磁性 / STEM |
Research Abstract |
貫通転位もしくは粒界転位等を利用した機能性材料を作製するために、本年度は、代表的酸化物ペロブスカイト結晶であるSrTiO3の小傾角粒界、および、NiO結晶薄膜中の貫通転位について検討を行った。まず、SrTiO3については、小傾角粒界の作製ならびにその転位組織の解析を行った。用いた小傾角粒界は、回転軸が[100]で回転角度がおおよそ6°の小傾角粒界である。この条件となるよう、市販のSrTiO3単結晶を研磨し、高温下で接合を行い、小傾角粒界を作製した。電子顕微鏡で転位組織を解析したところ、粒界には刃状転位が一定間隔で配置し、そのバーガースベクトルは[001]であることが明らかとなった。しかしながら、この粒界転位のコアは1/2[001]に分解している可能性が認められたため、さらなる実験に進むためには、このコア構造の詳細な解析が必要となるものと判断した。一方、NiO薄膜については、PLD法を用いた薄膜作製により試料作製を行った。基板材には、(001)面を有したSrTiO3単結晶を用い、この基板上へNiOをターゲットとして薄膜成長を行った。成長は室温において行い、膜形成後、高温で熱処理を行うことによって結晶化を行った。薄膜成長後に組織観察を行ったところ、NiOとSrTiO3基板との格子不整合に起因し、薄膜結晶中には貫通転位が形成されることを確認した。NiO結晶は反強磁性であることを考慮し、まず、この貫通転位においてどのような物性が発現するかを詳細に調べたところ、この貫通転位においてのみ、強磁性が発現することが見いだされた。この内容は、投稿論文として投稿済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究の目的として、”その転位コアへ金属原子を強偏析させるという自己組織化を利用、の3つの概念を融合させて、バルク中に数ナノレベルの細線を作り込む技術開発 、構造解析、および、物性計測を行うこと”を設定した。この目的のために、SrTiO3小傾角粒界の粒界転位、ならびに、格子不整合に起因して薄膜中に形成される貫通転位、の二点に着目し、研究を進めてきた。SrTiO3については、小傾角粒界の作製ならびにその転位解析については終了している。これについては、当初計画した内容通りに進行しているものと考えられる。一方、薄膜結晶中の貫通転位については、予想していなかった極めて興味深い研究結果が得られた。当初、本申請課題に取り組むにあたって、転位をテンプレートとしてその転位のコアへ異種の金属、イオンを拡散させて、新たな機能を発現させる、と言うことを念頭に置いていた。しかしながら、異種金属等を拡散させなくても新規物性が転位のみにおいて発現することを見出した。すなわち、NiO薄膜結晶中に形成されている貫通転位においてのみ、強磁性が発現する。転位コアとして考えられる大きさは僅かに数ナノメートルスケールであること、薄膜中にはこのような貫通転位が非常に高い密度で形成されること、これら転位においてのみ強磁性が発現していること、これらの結果は、これまでにない新たな物性が現れることを強く示唆するものと考えられる。さらには、転位中への金属等を拡散させるための技術的な処理を行わなくても構わないという、新たな利点も得られた。これらの点を考慮し、現時点において、当初予想された研究成果以上の結果が得られているものと判断した。なお、この研究内容についてはすでに論文として投稿済みである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果のところでも述べたように、NiO結晶薄膜において予想以上の成果が得られた。この結果をもとに、次年度においては、このNiO結晶薄膜の貫通転位で得られた成果を参考として、他の単酸化物結晶薄膜について、同様な手法での研究を進めていく。手法としては、NiOの場合と同様に、PLD法により基板上へ薄膜堆積を行い、その後熱処理し、その薄膜中の貫通転位の解析、ならびに、その転位の物性評価を行っていく。また、前年度において基礎的な知見が得られているSrTiO3小傾角粒界の粒界転位について、転位コアの原子構造解析について取り組み、どのようなコア構造を有しているかを明らかにする。その後、この転位中への金属イオンの拡散処理を行っていく。研究方針としては、このSrTiO3小傾角粒界についてまず精力的に取り組み、ある程度の結論を得たいと考えている。それと並行し、上述したNiO以外の薄膜結晶についても取り組んでいく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
小傾角粒界作製のための接合炉、熱処理炉、研磨設備、また、薄膜作製用のPLD設備などの基本設備については現有設備を利用できる環境にある。そのため、経費の多くは、消耗品として使用する。消耗品としては、小傾角粒界作成のためのSrTiO3単結晶、異種金属イオン蒸着用の蒸着材料、蒸着用の金属原料などが必要である。また、作製した試料の構造解析で必要となる透過型電子顕微鏡観察用試料作製において必要な精密ダイヤモンドブレード、研磨砥粒、アルゴンイオンミリング用のガス、試料保持治具などが必要である。 研究成果のための学会発表のための出張旅費を計上している。
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Research Products
(1 results)