2012 Fiscal Year Research-status Report
光照射による機能切換が可能な金属製生体材料表面の創製
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24656420
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
上田 正人 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (40362660)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 光照射 / 機能切り替え / 生体材料 |
Research Abstract |
工業用純チタンをH2O2/HNO3混合水溶液に浸漬し,表面にTiO2ゲル膜を合成した。その膜にNH3水溶液を用いた180℃-6~24 hの水熱処理を施し,アナターゼ型TiO2膜を合成した。さらに,大気中で200~600℃の熱処理も施した。XRDピークの半値幅より推定したTiO2の結晶性は,12 hの水熱処理で著しく高まり,処理時間を24 hに延長しても大きく変化しなかった。熱処理後も大きな変化は観察されず,12 hの水熱処理で十分に結晶化されることが明らかとなった。化学処理後はスポンジ状を呈し,水熱処理後は立方体状の結晶に覆われた。表面の濡れ性はアパタイト形成,骨伝導,細胞の接着・増殖に影響を及ぼす。表面形態に大きな差異がない場合,水滴接触角は表面の水酸基密度の影響を受ける。接触角は水熱処理の時間増加と共に大きくなる傾向が観察された。ポスト熱処理では,温度上昇と共に接触角はわずかに小さくなる傾向が認められた。また,水熱処理後,300℃で等温保持した場合,接触角は初期に小さくなり,その後大きくなった。このようにTiO2の表面形態,水酸基密度などの表面状態を水熱処理とポスト熱処理で変化させることができた。また,酸化物薄膜の光吸収スペクトルを測定する装置を構築した。小型ファイバ光学分光器と重水素タングステンハロゲン光源を光ファイバで連結し,適切なレンズ口径を選択することで,金属表面の薄膜酸化物,石英ガラス上の薄膜酸化物の光吸収スペクトルを測定することが可能となった。これにより,合成した酸化物膜の光学特性が定量的に評価でき,光化学反応の詳細な解析が可能となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
酸化物膜の水熱合成とそのキャラクタリゼーション,ポスト熱処理,酸化物膜の光学特性の把握を予定していた。いずれも,概ね予定通り遂行できた。TiO2膜の光学特性,光化学特性を詳細に調査するため,予定には入れていなかったゾル・ゲル法によるガラス基板上へのTiO2膜の合成を行った。そのため,純Zr表面へのZrO2膜の合成は次年度に行うこととした。これは光吸収スペクトル測定装置を汎用性,発展性の高い構成にするために必要な措置であった。ZrO2の合成には,それほど時間を要さないことから,本研究の全体の予定に支障は全くない。遂行した実験では,想定していた結果が得られており,研究は順調に進んでいると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
水熱処理,ポスト熱処理によって表面状態を変化させた酸化物膜にXeランプ,Hgランプを用いて光を照射した後, 擬似体液(SBF, 例えばHanks溶液)に所定の時間浸漬する。重量測定によりアパタイトの析出量を定量的に評価する。さらに,マスクあるいは光ファイバーを用い,試料の一部に光照射を行い,局所的に水酸基密度を増加させ,その操作がSBF中のアパタイト析出に反映されるか確かめる。可視光応答性の付与と光化学反応の鋭敏化のため,ペロブスカイト型ATiO3膜を合成した後,A元素をリーチングし,Ti表面にTiO2-ATiO3複合膜を構築する。また,表面状態を変化させた酸化物膜上に細胞(例えば,線維芽細胞L929,骨芽細胞様細胞MC3T3E1)を播種し,所定の時間経過後,表面の被覆率ならびに細胞形態の観察を行う。さらに,可視光応答性を有する膜が得られた場合,細胞の播種後,単色化した可視光を照射する。これにより細胞の接着・増殖・剥離挙動に及ぼす光照射の影響を明らかにする。上記のTiをZrに置換し,同様の検討を行う。最後に,金属製生体材料表面の光照射による機能ON/OFF切換を体系化すると共に,各種生体材料への応用・展開における課題を抽出し,本研究課題を総括する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は主に,①インキュベータ周囲の装置整備,②光源関連,③細胞関連に使用する。具体的には,SBF浸漬試験と細胞試験の割合が比較的大きく,また,重要であるので,①においてSBFの自動定量交換システムや光ファイバによる光源の引き込み部を構築する。②では,電気化学測定用装置,光吸収スペクトル測定装置,光照射装置,それぞれにXeランプや重水素ランプを購入する。また,細胞実験関連では,ウェルプレートや血清等,非常に多岐にわたる消耗品,試薬が必要であり,これらを揃える。また,得られた成果に関しては,国内の学会で2回,アメリカで開催される国際会議で1回,研究発表を予定している。
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Research Products
(2 results)