2012 Fiscal Year Research-status Report
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24656581
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
八尾 健 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (50115953)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
薮塚 武史 京都大学, エネルギー科学研究科, 助教 (20574015)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | リチウムイオン二次電池 / 電極材料 / 緩和解析 / 結晶構造解析 / リチウム挿入 / リチウム脱離 / 速度論的状態 / 平衡論的状態 |
Research Abstract |
電極材料において、リチウム挿入あるいは脱離後の開回路状態において、経時的に材料の解析を行うことにより、速度論的過程から熱力学的平衡に至る材料の状態変化を明らかにすることができることを、申請者は世界に先駆け発見し、この解析を「緩和解析」と名付けた。緩和解析は電極材料の動的状態変化を明らかにすることができる画期的手法であり、電極材料の研究に重要な知見を与えるものと考えられる。緩和解析を多くの電極材料に適用した。 γ-Fe2O3において、速度論的にはリチウムは8aサイト(酸素4配位)を優先し、平衡論的に安定なサイトは16c(酸素6配位)であることが明らかになった。第1原理計算を用いたシミュレーションにより、8aサイトの方が16cサイトよりも安定であることが示された。J-PARCにおいて中性子回折を測定し、リチウムのサイト占有率について解析した。 LiFePO4において、リチウム挿入停止後に、LiFePO4相のモル分率が減少した。リチウム挿入時には、リチウムの拡散を促進するために、欠陥を持つLiFePO4が多く生成するが、挿入停止後にそれが欠陥のないLiFePO4とFePO4に変化するためと考えられる。 LiMn2O4において、リチウム挿入後の緩和時間にLi-rich相の割合は増加し、Li-lean相の割合は減少した。リチウム挿入時にリチウムを含みながらも拡散に有利なLi-lean相の構造が優先的に保持され、これがリチウム挿入後の緩和時間に伴って熱力学的に安定なLi-rich相が増加したと考えられる。 LiCoO2 において、Li 脱離停止後に、Li-lean 相が減少した。Li の拡散を促進するため、Li を含みながらもLi-lean 相の構造が優先的に保持され、Li 脱離停止後、この相がLi-rich 相と過剰のLiを含まないLi-lean 相に分かれたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題は、平成24年度、25年度の2ヶ年にわたるものである。平成24年度において、①種々の酸化物系リチウムイオン2次電池電極材料について充放電(リチウム挿入脱離)を行うこと、②充放電停止後、直ちに回路を遮断し、開回路にしたときに起こる局部電池反応を避けるため、速やかにセルを解体して電極材を取り出し、Ar雰囲気下でX線回折測定を行うこと、③種々の緩和時間における精密なX線回折パターンを得、リートベルト法による結晶構造解析を行こと、④またXAFS測定装置を用いて種々の緩和時間におけるX線吸収スペクトルを測定し、各元素周囲の局所構造解析、原子価分析を行うこと、⑤更にはJ-PARCでの中性子回折の解析結果を総合し、それぞれの電極材料の緩和過程の挙動を、結晶学的に明らかにすること、⑥第一原理コンピュータシミュレーションを行い、理論的裏付けを行こと、⑦以上の結果をもとに、速度論的状態と平衡論的状態の関連について明らかにすること、以上を計画していた。 平成24年度においては既に、γ-Fe2O3、LiMn2O4、LiCoO2、LiFePO4、Li4/3Ti5/3O4、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、α-Fe2O3について、リチウム挿入脱離、X線回折測定、リートベルト解析を行い、緩和過程の挙動を結晶学的に明らかにしている。さらに、速度論的状態と平衡論的状態の関連について考察している。更にγ-Fe2O3については、第一原理コンピュータシミュレーションを行い、リチウム安定サイトを理論的にもとめ、実験との一致を見ている。またJ-PARCでの中性子回折の測定並びにXAFS測定を実施し、解析を行っている。これらの研究結果は、既に、5編の査読つき論文、1編の解説、2回の招待講演を含む21回の講演で発表している。平成24年度において、当初の計画通りに研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、種々の電極材料について、X線リートベルト解析、X線吸収解析を駆使して、緩和解析を行う。中性子回折により、リチウムの挙動を詳しく解析する。電極材料の速度論的状態と平衡論的状態の関連について明らかにする。 1.前年度に引き続き、種々のリチウムイオン二次電池電極材料を用いて、リチウム電池セルを組み、充放電を行う。酸化物系電極材料に留まらず、グラファイト等、電極材料の範囲を広げる。 2.緩和過程におけるX線回折測定を行い、リートベルト法による結晶構造解析を行う。測定結果を解析し電極材料の緩和過程の挙動を明らかにする。X線回折測定に留まらず、XAFS測定による各元素周囲の局所構造解析・原子価分析、可視・紫外あるいは赤外分光等による解析等、種々の測定を駆使して緩和現象を解析する。 3. 中性子回折を測定し、緩和過程におけるリチウムの挙動を詳しく解析する。緩和解析に適した粉末中性子回折リートベルト構造解析プログラムを開発する。 4.リチウム挿入脱離過程並びに速度、挿入脱離量等を種々変化させて、緩和解析を行い、緩和過程の挙動をより精密に解明する。以上の速度論的状態と平衡論的状態の関連について明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画を下記に示す。 1. 試薬、金属メッシュ、ガラス器具等、物品費:600,000円、 2. 研究成果報告のための国内外の旅費:700,000円(うち国内旅費200,000円、海外旅費500,000円) 3. 研究成果報告のための学会参加費等その他:100,000円
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