2013 Fiscal Year Research-status Report
地下性甲虫の飼育法検討及び昆虫-微生物相互作用に関する基礎研究
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24657017
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
新部 一太郎 島根大学, 生物資源科学部, 研究員 (10613961)
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Keywords | 地下性甲虫 / 昆虫微生物相互作用 |
Research Abstract |
H24年度の段階で実験室での安定した低温高湿度環境が作出できたため、これを利用して地下性甲虫の飼育を継続し、前年度に引き続き餌と飼育床材を変えた試験を行った。長期間の飼育が可能になったことで、飼育中の死亡要因について検証することができるようになってきた。 生存に必要な要件の一つに餌の質があり、肉質系の餌を与えない場合には1,2ヶ月で死亡する個体が多かった。必須栄養素が不足するためだと思われるが、地下性動物は一般に飢餓耐性が高いと言われており、実験に使用しているタイシャクナガチビゴミムシは予想よりも飢えに弱いと思われる。さらに興味深いのは3種の抗菌抗真菌剤を施用した区で死亡率が大きく低下することで、中には1年以上飼育できた個体もあった。このことからは飼育下においては感染症で死亡が早まっている可能性が示唆され、すなわち野外においては共生微生物等の働きで病気から保護されているのかもしれない。 生息地における飼育実験は前年度に装置破損があって再試験中であったが1年間の継続試験の中で20匹中1匹は死体を確認し、上部を開放した容器で飼育していた2匹が所在不明だが残りの17匹は生存しており野外における死亡率は低く、おそらく寿命も数年はあると思われる。従って飼育下における死亡要因は上記の餌の質と感染症以外にもあると考えなければならないが、その寄与の程度については現在検証中である。 計画では飼育試験に加えて、野外での生存に重要な役割を果たしているであろう地下の微生物を単離同定し、また抗生物質等のコード遺伝子が発現しているのかどうかを追跡することとなっていたが、これについては現時点で有効な培養法が確立できておらず道半ばである。遺伝子発現の追跡も、成長速度から考えて発現量が非常に小さいために有効な量のサンプルが得られていない。RNAの分解を押さえながら濃縮する手法を現在検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
主目的の一つである地下性甲虫の飼育試験では、飼育床材と餌の質が死亡率に与える影響について重要なデータが得られており、また野外における飼育試験からも補助データが得られつつある。これに伴い、目的にある生態学的な視点から見た地下環境における昆虫と微生物の共生的な関係について、微生物によって感染症から保護される側面と餌の質の改善されるという側面が浮かび上がっており、これまでよりも視点を収束して検証試験を行うことができるだろう。 微生物側からのアプローチは培養の難しさのために当初計画よりもやや遅れている。計画段階から難培養であることは想定されており、常法でうまくいかない場合は野生コロニーからの抽出物を利用したり自生地で培養することによって解決できる見通しでいたが、それらについてもこれまでのところ有効ではなかった。難培養微生物を扱っている研究者に連絡させていただいてはいるが、場合によっては微生物側からのアプローチは多少の計画変更が必要かもしれない。 本研究のもっとも重要な点は、地下性甲虫の長期飼育法の確立と、さらには飼育下での繁殖ができるようになることであり、そちらを優先した対応をとっていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
H26年度も当初の計画に沿って進めていく方針であるが、現状を鑑みるに地下性微生物の単離培養に成功する可能性は高いとは言えないことから、微生物側からのアプローチとしては、単離できた場合は計画通り単離株の機能解析を行い、難しい場合は群集レベルでの解析や自生地コロニーから抽出した物質の質量分析とうに切り替えることを検討している。甲虫飼育からのアプローチは計画通り繁殖試験を行う予定である。産卵床の性質など未知のことが多いが、これまでに蓄積したデータを元に最適化した飼育環境で行うことと、野外においても類似の試験を並行することでリスクを分散しつつ試験を継続していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度に若干の残額があるが、計画通りに使用していたとしても通常生じうる程度の残額であり、基金化された助成金としては問題ないレベルである。 飼育試験が順調に進んでいるため、飼育規模を増加させるために設備を拡充したいと考えており、そのための設備や補助機器類を購入する予定である。また、規模の増加に伴って作業補助の必要性がより大きくなると考えられることからそちらへの充当にも配分したい。それらよりも金額は少ないが成果を発表するために各学会に赴くための旅費としても使わせていただきたい。
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