2012 Fiscal Year Research-status Report
グラフェンを用いた革新的超高分解能低温電子顕微鏡法の開発
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24657104
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
難波 啓一 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (30346142)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2013-03-31
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Keywords | 極低温電子顕微鏡法 / グラフェン / 蛋白質 / 生体分子 / 構造生物学 |
Research Abstract |
クライオ電子顕微鏡法は、生体分子の機能状態での立体構造解析法として近年急速に発展した。クライオ電子顕微鏡自体の高性能化や自動化、画像解析法の高度化、計算機の高速化、画像検出器の高解像度化など、様々な面での技術改良や進歩が重要な役割を果たしている。数マイクロリットルの微量な水溶液試料で解析できるため、構造生物学、ひいては生命科学にとって必須の技術となりつつある。しかし、急速凍結試料の作成過程における問題点が、高分解能解析を困難にしていることも事実である。 観察試料グリッドの作成には、数マイクロリットル試料水溶液を、多孔カーボン薄膜を搭載した試料グリッドに載せ、その大半を吸い取ることで薄膜孔内に水溶液の薄膜を張り、液体エタンに突入させて急速凍結する。問題点の一つは氷薄膜の厚さ制御が難しいことで、厚すぎると分子像のコントラストが悪く高分解能の達成が困難で、逆に薄すぎると生体分子の立体構造に歪みを起こす。もう一つは、可溶化した膜タンパク質複合体試料など疎水性の強いものはカーボン薄膜に吸着しがちで、氷薄膜中に分散させるのが難しいことである。 本研究の目的は、試料グリッドの多孔カーボン薄膜上にグラフェンシートを載せ、その表面に生体分子を吸着させることで、氷薄膜の厚さ制御とともに、膜タンパク質複合体の効率的な画像データ収集を可能にすることである。残念ながらグラフェンシート搭載グリッドの作成を委託したメーカーの作業工程が大幅に遅れ、計画したとおりの実験は実施できていない。その代わり極薄のカーボン薄膜を独自に作成し、グラフェンシートの代わりに試料グリッド上に搭載することで、膜タンパク質複合体の画像データ収集を試みた。赤痢菌のニードル複合体では、市販の多孔カーボン薄膜では極めて困難であった像データ収集に成功し、これまでに他の研究グループにより発表されたものとは異なる立体構造の存在を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要に記載したとおり、グラフェンシート搭載グリッドの作成を委託したメーカーの作業工程が大幅に遅れ、計画したとおりの実験は実施できていない。しかし、独自に作成した極薄カーボン薄膜を搭載したグリッドで、技術開発方針自体の正しさを証明することはできた。
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Strategy for Future Research Activity |
グラフェンシート搭載グリッドの作成を急がせ、当初の計画に沿った実験作業を進める。それによりグラフェンシートの効果を確認しつつ、このグリッドの活用によって誰もがクライオ電顕像観察に最適な試料を再現性よく作成できるよう、汎用技術としての確立を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、その大半をグラフェンシート搭載グリッドの作成に使用する予定である。グラフェンシートの表面修飾についても、試料の疎水性などによりそれぞれに適した表面処理の可能性が複数あるため、様々な表面処理を試す。それにより、水溶性タンパク質複合体から膜タンパク質複合体まで、それぞれに最適なグラフェンシートを探索する予定である。
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Research Products
(22 results)