2012 Fiscal Year Research-status Report
電子線結晶構造解析によるクーロンポテンシャルの可視化
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24657111
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
米倉 功治 独立行政法人理化学研究所, 米倉生体機構研究室, 准主任研究員 (50346144)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 構造生物学 / 結晶構造解析 |
Research Abstract |
生体マシンの作動原理の解明、創薬への応用を目指し、生体分子が機能を発現する上で本質的に重要な因子となるクーロンポテンシャルの可視化を行う。X線は原子の電子雲に散乱されるのに対して、電子は原子のクーロンポテンシャルに散乱される。クーロン力は長距離に渡って作用するため、いろいろな生命活動に大きな影響を及ぼす。例えば、プロトン輸送やイオンの配位、蛋白質の安定性、化学反応にも深く関与している。本研究では、蛋白質のごく薄い三次元結晶の電子線回折から、そのクーロンポテンシャルマップを得る新技術の開発を目指している。クーロンポテンシャルは、X線結晶構造解析では得ることのできない情報であり、これまでに実験的に測定する汎用的な手法は存在しない。 本年度は、肝臓カタラーゼ、筋小胞体Ca2+-ATPaseのごく薄い三次元結晶の電子線回折回転写真を撮影、回折パターンを、開発したプロラムで処理し、プロファイルフィッティングにより正確な強度を求めた。次に、結晶格子、方位を精密化するプログラムを新たに開発し、適用した。多くの結晶からの回折パターンを統合した強度データに対して分子置換を行うことで、カタラーゼとCa2+-ATPaseのそれぞれ3 Åと3.5 Å分解能のクーロンポテンシャルマップの取得に成功した。得られたマップでは、アミノ酸側鎖、金属イオン、水分子等が明瞭に解像できた(論文準備中)。現在、電荷の影響が大きく現れる低角側のデータを含めた密度マップと低角側を含めないものとの比較から、電荷を持つ残基を同定し、分子の作動機構をより詳細に解析することを目指している。また、重原子置換体から電子線回折を集め、位相情報の取得を進めている。結晶化の試みでX線回折には適さない非常に薄い結晶しか得られないこともある。開発する技術により、これらの結晶から新規の構造が解析可能となる汎用性の高い技術としても確立する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、牛肝臓カタラーゼ、ウサギ筋小胞体Ca2+-ATPaseのごく薄い三次元結晶の電子線回折の回転写真から、初期クーロンポテンシャルマップの取得を目標とした。電子線の波長はX線と比べて50分の1以下であり、X線結晶構造解析で用いられている回折データの処理ソフトを使用することができないことが分かっていた。そのため、電子線回折パターンからプロファイルフィッティングにより正確な積分強度を抽出するプログラムの独自開発を進めていたが、本年度はこのプログラムの改良に加えて、結晶格子、方位を精密化するプログラムを新規開発し、計画通りに完了することができた。次に、上記プログラムにより処理した多数の異なる回転シリーズの強度情報を、X線結晶構造解析で使われているソフトウェアにより統合し、分子置換により密度マップを計算した。以上から、薄い三次元結晶からのクーロンポテンシャルマップの取得に世界で初めて成功した。それぞれ、3 Åと3.5 Å分解能のカタラーゼとCa2+-ATPaseの密度マップには、アミノ酸側鎖、金属イオン(カタラーゼではヘム中心の鉄原子、Ca2+-ATPaseでは2つのカルシウム原子)、水分子を明瞭に解像することができた。電子顕微鏡では試料ホルダーの構造及び試料形態の制限から、試料を約±60°までしか傾斜できない。特に、薄い結晶のように支持膜に同一の面で吸着する試料では、データを収集できない円錐状の領域(ミッシングコーン)が残ってしまう。今回用いた回折データは全回折点の70%程度であったが、得られたクーロンポテンシャルマップでは、ミッシングコーンの影響は少なく深刻な問題とはならないことが分かった。以上から、当初計画した以上に順調に解析が進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
X線と比較して荷電粒子である電子の散乱因子は、電荷を持つ場合、特に低角側で大きく異なる。従って、この領域のデータを含めた密度マップと含めないものを比較することで、電荷の分布を解析できる可能性が指摘されている(1, 2)。今後、カタラーゼとCa2+-ATPaseの回折データを用いて、アミノ酸側鎖の荷電の状態を詳細に解析し、分子の機能に及ぼすクーロン力の影響を詳細に解析する。 結晶化の試みで、X線回折には適さない非常に薄い結晶しか得られないこともある。薄い結晶から新規の構造が解析可能となる汎用性の高い技術として確立することを目指して、重原子置換体からの電子線回折の集める他、電子顕微鏡で実像を一部撮影し、位相情報の取得を試みる。さらに、細菌のいろいろな生命活動にプロトンやナトリウムイオンの流れをエネルギーとして供給する膜蛋白質ファミリーの結晶化を行い、薄い結晶が得られた場合、電子線回折による新規構造の解明を目指す。 (1) Kimura Y., Vassylyev D. G., Miyazawa A., Kidera A., Matsushima M., Mitsuoka K., Murata K., Hirai T. & Fujiyoshi Y. Nature 389: 206-211 (1997). (2) Mitsuoka K., Hirai T., Murata K., Miyazawa A., Kidera A., Kimura Y. & Fujiyoshi Y. J. Mol. Biol. 286: 861-882 (1999).
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
重原子置換体や新規試料の結晶の回折データを測定するため、東京大学分子細胞生物学研究所への出張旅費に使用する。また、電子顕微鏡試料のサポートに用いる穴の開いたカーボン膜グリッド、結晶試料の調製のための試料調製、結晶化に用いる試薬等を購入する。他に、構造解析に用いるPCワークステーションを導入する。24年度は解析プログラムの開発に重点を置いており、回折データも以前から撮り貯めて置いたものを用いた。今後、多くデータ測定を要し、そのための消耗品、試薬、PC等を必要とする。
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Research Products
(13 results)