2012 Fiscal Year Research-status Report
細胞と組織の関係を明らかにする新規数理モデルの開発
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24657145
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石原 秀至 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (10401217)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 発生力学 / 統計学 / 国際研究者交流 / フランス |
Research Abstract |
本研究の前段階で行っていた「組織内の力場推定」に関連し、キュリー研究所(フランス)で異なる手法を用いてハエの背板組織の力場を見積もる論文が出版された(Bonnet et al. J. Roy. Soc. Int. 2012)。フランスグループとの共同研究をたちあげ、石原が7月から9月にパリに滞在した。彼らの手法(大域的レーザー切断法)と我々の手法を比較し、お互いの手法についてクロスバリデーションを行い、両者の推定結果が整合的であることを確かめた。同時に、我々の力推定手法の妥当性を体系的に調べ、論文にまとめた(Ishihara et al., Euro. Phys. J. E (2013), 同誌の表紙に選ばれた)。共同研究を進めているキュリー研のメンバーの中には、当研究で発展させようとしている細胞形態を連続体値で表すtexture tensorを提唱したF. Graner博士が含まれ、議論をすすめている。共同研究者である杉村がもつ実験データに加え(Ishihara and Sugimura, J. Theor. Biol. 2012)、キュリー研究所のもつデータ(Bosveld et al. Science, 2012)を用い、細胞レベルと組織レベルの力のマップをとっている。一方で、議論の中で、細胞接着面の曲率に注目すればこれまでの推定手法をさらに発展させることができるということがわかり、こちらの方も研究をすすめている。力の釣り合い方程式と統計的手法の定式化自体は終えたが、実際に行ってみると曲率自体をデジタルデータから見積もることが難しいことが解り、曲率も推定値として力学モデルと整合的に推定する手法を構築している段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的に書いた「細胞形状を考慮に入れた連続体モデル」の構築はできていない状態ではあるが、キュリー研究所(フランス)のグループとの共同研究を立ち上げたことにより、データとしても理論的方向性としても、細胞レベルと組織レベルを結びつけて理解をするための枠組みにむけた取り組みがより深くできつつある。実際、我々の持つ技術や知識(力推定、統計学的技術)と彼らのもつ技術(形態特徴付け、泡の物理などのソフトマターに関する知識)、また、それぞれが発展させた独自技術(画像解析や実験手法)相補的に提供し合える状態であり、発生組織内の力学に関して定量的な議論ができる体制にある。 また、議論の中で新しい力推定法や、Cell Vetex Modelの拡張のアイデアなどが出てきており、それぞれ十分新しく、分野に寄与しうるアイデアだと考えている。これらのアイデアについても詰めていくことで、もともとの等研究の目的であった「連続体モデルの構築」に関しては遅れが出るかもしれないが、より高精度の連続体モデル構築につながり得ること、「細胞から組織へ」を理解するという最終的な目的のためには重要だと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞集団の力学を研究するための新たなアイデアとして、①曲率を考慮に入れた力推定手法 と ②細胞のずり応力を表すCell Vertex Modelの拡張について進めている。これらを行うことで、より高精度のデータ解析および連続体モデルの構成につながる。 ①曲率を考慮に入れた力推定手法:これまで直線で近似してきた細胞接着面を、単曲率で近似する。これは直線よりよい近似であり、強い曲率を示す細胞集団へ手法の適用を拡張する。それのみならず、圧力差と張力、曲率の間に成立するラプラス則を考慮することで、この曲率が定性的に新しい情報を持つことを示すことができた。したがって、曲率を考慮することで、今までpriorに頼った不決定性の問題が解決する。ただ、一通りの定式化をおこない、実際にデータに真の値の解っている画像データに適用した所、デジタルイメージからの曲率の推定が難しいことがわかった。現在、この曲率を高精度でもとめるため、力との同時推定化を行っている。 ②細胞のずり応力を表すCell Vertex Model(CVM)の拡張:細胞集団をあらわすモデルであるCell Vertex Modelでは、細胞は圧力のみに依存するポテンシャルがわりあてられることが多い。これはCVMがreference stateがないモデルなので、ずり応力の解析的表現が自明でないことに起因する。現在、ポリゴン形状の二次モーメントの表式をもちいて、ずりを入れこむモデルを構築中である。これができれば「長細い細胞」等、異方的な細胞形状をもつ系の数理モデル化が可能になり、CVMの適用範囲を広げることができる。 ②に関して、ずり力がマクロにどう影響を及ぼすかを考えることで連続体化されたモデルへの寄与を考察、定式化していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度、時間調整ができずに回数が減ってしまった共同研究者との打ち合わせのための旅費に用いる(京都x2回)。
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Research Products
(11 results)