2012 Fiscal Year Research-status Report
真胎生魚をモデルとして一次造血機構の意義と進化を探る
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24657161
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
飯田 敦夫 京都大学, 再生医科学研究所, 助教 (90437278)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 繁殖 / 胎生 / 魚類 |
Research Abstract |
2012年度は主として南米産胎生魚類ハイランドカープの飼育・繁殖法の確立を実施した。ペットショップより購入したハイランドカープは従来のゼブラフィッシュ向けの集合型小型魚類水槽で飼育・繁殖可能であった。次にハイランドカープの交尾行動のビデオ記録を行い、妊娠期間の調査を行なった。妊娠期間には個体差があり、おおよそ30-40日であった。産仔数も親のサイズにより10-40匹とばらつきがあった。出生した稚魚は約3ヶ月で性成熟を迎え、次世代を採取できる。以上から、飼育下でのハイランドカープのライフサイクルはおよそ4~5ヶ月となることが分かった。 次に妊娠雌個体から胎仔を摘出し観察を行なった。ハイランドカープの属するグーデア科の胎仔は「栄養リボン」と呼ばれるリボン状の構造を肛門周辺から伸長させ、母体からの栄養供給を受ける。栄養リボンは母体とは繋がっておらず、分泌された栄養分を吸収していると考えられる。交尾後2週、3週および4週でそれぞれ摘出した胎仔の比較から、栄養リボンは受精後の形態形成ですぐに形成されるのではなく、10日前後から伸長を始めることが示唆された。それまでの期間は卵生魚類と同様に、自身の卵黄成分に依存して成長していると考えられる。栄養リボンは表面に上皮様の細胞が密に存在し、内部はECMに満たされ細胞は疎な間充織様の構造をとる。また栄養リボン内には血流を伴う血管が走行している。血管造影実験により、栄養リボンと胎仔本体の間で血流を介したガス・栄養分の供給が行なわれていることが示唆された。また栄養リボンは出生時には退縮しているが、これがアポトーシスによる細胞死であることも明らかにした。 以上、現在までにハイランドカープの飼育・繁殖法の確立と、ユニークな発生様式の一端を明らかにすることができた。今後、胎仔の発生様式の更なる解析に加え、成魚の繁殖行動の調査を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は本来、胎生魚ハイランドカープでの初期造血の解析を主たる目的として立案された。これは当初、ハイランドカープが哺乳類と同様の、母体と連結した臍帯様構造による栄養供給方式を保持していると見込んでいたためである。しかし予想に反して、ハイランドカープは受精直後には卵生魚類と同様の卵黄依存型の発生を行い、その後に母体からの従属栄養供給に移行することが示唆された。受精後間もない胚のサンプリングが出来ていないため、直接的な証明は出来ていないものの、未受精卵(卵母細胞)などの形態から現時点ではそのように考えている。 その反面、栄養リボンが発生の途中から新たに形成される器官であり、出産直前にアポトーシスにより退縮する仕組みは、別種の胎生魚類(ウミタナゴ(スズキ目)、ヨツメウオ(カダヤシ目ヨツメウオ科)、※ハイランドカープはカダヤシ目グーデア科)にも見られないユニークなものである。栄養リボンについての構造的・機能的解析はほぼ完了し、来年度は伸長や退縮の仕組みにさらに迫りたいと考えており、順調に進捗していると考えている。 また、成魚の繁殖行動に興味深い点を見いだしており、生殖器の構造と交尾行動の関連などについて調査する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点で採取・解析できていない受精後まもない胚の解析を行なう。この解析により、ハイランドカープが受精直後から一定期間は卵生魚類と同様の卵黄栄養による発生を行なうことを検証できる。また、栄養リボンが伸長を始める時期と、その起源を明らかにする。ハイランドカープはメダカおよびプラティと近縁であるため、これらの生物のゲノム情報を元に遺伝子発現解析を実施する予定である。これにより栄養リボンがどのような機構により伸長し、維持され、アポトーシスによる退縮に向かうのかを明らかにしたい。 成魚の繁殖行動については、外部生殖器の左右性と交尾行動との関連に着目している。同じカダヤシ目の胎生魚でヨツメウオでは、外部生殖器の非対称性と交尾行動の左右性の関連が示唆されているが、その点に着目して解析を行なった報告は無い。小型淡水魚であるハイランドカープには、これらを検証するモデル動物としての可能性を見いだしている。現在、外部生殖器のタイプ別の交配・繁殖を開始しており、これらが遺伝形質であるかどうかの検証と共に、今後の実験の材料として育成中である。今後、外部生殖器のタイプの差異が繁殖の可否および交尾行動に与える影響の調査を行なう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ハイランドカープ胎仔を用いた分子生物学的解析を行なうための試薬、キットおよび抗体などの購入を予定している。具体的には「遺伝子抽出用試薬・キット」「whole-mount in situ hybridization用試薬一式」「魚類での組織染色が可能な抗体」である。また、使用個体数の増加に伴って飼育用のアクリル水槽、および繁殖・維持に関わる飼料・濾過材などを購入する。胎仔、成魚の形態観察用の組織切片作成の外部委託を行なう。また、学会発表および共同研究(北里大学医学部)のための旅費としての使用も計上している。
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