2012 Fiscal Year Research-status Report
原始地球環境で生成する素材だけを用いるRNA生命の構築
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24657166
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
川村 邦男 広島修道大学, 人間環境学部, 教授 (50204772)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 生命起源 / RNAワールド / 核酸化学 / 人工生命 / 実験進化学 / 化学進化 / RNAの自然選択 / 分析化学 |
Research Abstract |
RNAの試験管内分子進化法によって様々なRNAを進化工学的に創成できる事実はRNAワールド仮説を強く支持している.しかし,この手法では、RT-PCRやDNAランダムプールなどを必要とするので真に原始環境を再現したとは言えない。また、原始的に生成する化学素材だけを用いて複製系を構築することには誰も成功していない。そこで本課題では、原始地球環境で生成する素材だけで複製系を構築することを試みた。 第1に、ヌクレオシド-3',5'-サイクリックモノリン酸を原料とすると、比較的長鎖長のRNAが自発的に生成し得ることがMauroらによって2009年に報告された。この反応系をもとにして複製系の構築を試みた。しかし、本反応じたいが実験室で再現せず、Mauroの提案した反応に対する疑問点が見いだされた。 第2に、ヌクレオチド5'-モノリン酸のリン酸基をあらかじめイミダゾールで活性化したヌクレオチドモノマーを利用し、複製系の構築を試みた。本反応は、1980年代にOrgelらによって良く研究されたが、複製系が進行する条件は見いだされていない。例えば、ポリシチジル酸鋳型を用いて活性化したグアニル酸モノマーを用いるとオリゴグアニル酸が生成するが、それ以外の組合せでは、反応効率は極めて低い。そこで、本課題では、10種類程度の鉱物類、ペプチド類、インターカレーターなどを補助剤とする幅広い条件下で効率が向上する可能性を探索した。また、高濃度塩存在下、0度以下での低温条件での複製反応の効率アップを試みた。 以上の結果、たとえ鋳型が存在したとしてもモノマーからRNAが生成することはかなり困難であることを知った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度は、原始RNAの(A)ランダム生成、(B)自然選択、(C)複製・増幅・変異の3プロセスからなる進化モデルを構築するために、(C)のプロセスの構築をめざした。そこで、ポリシチジル酸鋳型存在下で活性化したグアニル酸モノマーが重合してオリゴグアニル酸が生成する反応、およびポリウリジル酸鋳型存在下で活性化したアデニル酸モノマーが重合してオリゴアデニル酸が生成する2種類のもでる反応を用いて、その効率を上昇させる条件を探索した。その手法として、(a)インターカレーターによるRNA二重らせんの安定化による複製効率アップ、(b)原始モデルタンパク質による複製効率アップ、(c)鉱物存在下での複製効率のアップ、の3種類の方法を検討した。 24年度は、これらの想定した条件下について、全て検討を完了した。さらに、高濃度塩類存在下、および、0℃以下での複製反応の効率アップを検討した。このように探索自体は網羅的かつ十分に行ったと言うことができる。しかし、実際に複製効率を飛躍的に向上する反応条件は現時点では見つかっていない。 反応を網羅的に探査したにもかかわらず効率的な複製系が見いだされなかった事実は、複製系が一足飛びにできたのではなく、あらたな生命出現のシナリオを立て直さなければならなず、実験による検証も、一段大きな枠組みから複製反応を理解するところから組み直さなければならないことを示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に複製系の構築を引き続き行うとともに、第2に原始的に生成するRNAの中に何らかの機能を持つRNAを見いだす課題を平行して行う。 (1)複製系を起こすためには、鋳型ポリヌクレオチドと活性化モノマーとの間に強い水素結合とスタッキングが起こらなければならない。これまでに行った系では、インターカレーターや鉱物などの補助剤と高塩濃度と極低温での反応を調べたが、それらの環境では十分な相互作用が起こらないことが確認された。しかし、これらの系は現在の生物と大きく異なり、分子2重膜やタンパク質状物質のポケットなどのミクロな反応場で検討した例はほとんど無い。そこで本年度は、リポソームやタンパク質状物質の存在下でミクロな反応場での複製系の構築を試みる。そこで、相補的な塩基対からなる2重らせんRNAの2重らせんの安定性をこれらの補助剤の存在下で観測する。その結果をもとにして、複製系の構築を行う。反応系の進行度は、現有のHPLCで分析する。 (2)一方、我々は、4種類の塩基をもつ活性化ヌクレオチドの混合物から、ランダムな配列を持つオリゴヌクレオチドが生成することを確認した。この手法を用いて、30鎖長程度の原始RNAを生成し、その機能を調べる。ただし、上述の複製系は現時点では確立されていない。そこで、既存のin vitro selection法を用い、大阪府立大学・加藤幹男博士の協力のもとに、耐熱性を持つ原始RNAのを選別を試みる。得られたRNA集団をRT-PCRで増幅し、生成物を80~100℃で加熱し耐熱性RNAのみを選別する。これを再びRT-PCRで増幅し、これらのプロセスを繰り返すことで、原始耐熱RNAを選別する。(1)の複製系が完成した場合には同様にして、原始耐熱RNAの選別を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は、物品費、旅費、人件費・謝金、その他におおむねまんべんなく使用する予定である。 物品費は、試薬類、HPLCカラム、実験用器具に用いる。 旅費として、9月にFlorenceで開催されるGoldschmidt2013国際会議においてこれまでに得られた成果を講演するために使用する。 人件費・謝金として、実験補助ができる技能を持つ研究補助員にあてる予定である。 その他として、学会会費、論文の英語校閲などにあてる予定である。
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