2012 Fiscal Year Research-status Report
動作の習熟過程におけるボディバランスの変化と注視位置の関係に関する研究
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24657180
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
西岡 基夫 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 助教 (90347500)
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Project Period (FY) |
2012 – 2014
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Keywords | 人間工学 / 人類学 / バイオメカニクス / 生活科学 / リハビリテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
研究を進めるに当たり、まずこれまでの習熟に関する研究についての推移と動向について調査を行なった。動作・姿勢など人間の身体特性に考慮した習熟に関する研究は、労働産業分野において作業効率や労働環境の向上を目的とした評価・検証を対象に人間工学的手法が1960年代から活発に行なわれており、モノや環境が進化し多様化する現代においても継続的に研究がおこなわれている。 「人間中心のデザイン」に対する意識が強まる中で、人間の機能や能力を把握することは、より人間に快適かつ安全な生活環境を提供することが可能であり、習熟においても、人間中心と言う考え方を無視は出来ない。超高齢社会を迎え、高齢者が快適かつ安全に暮らせるような社会環境の整備が急務である現況では、作業効率という観点だけでなく、身体能力が低下し生活行為にサポートが必要とされる場面でも「ヒトが慣れる」という状態を出来るだけ早急にかつ分かりやすく提供できることが重要である。そのためには習熟のプロセスで取り扱われることの少なかった人間の生理的メカニズムを明らかにし、「人間の変化」を把握することが、生活支援への基礎データとなると考えた。 研究遂行上、タスクの単純さと集中力の持続を考慮して用いたのが家庭用ゲーム機である。インターフェースとセンシングシステムが進化し、家庭用ゲーム機は難しい操作を必要とせずにおこなうことが可能になり、没入感の高いリアリティを得ることができる。またユーザの身体機能を活用し、重心動揺や赤外線センサを用いてゲーム上にユーザとほぼ同じ体型・動作を画面上に投影することができ、その動作データなどの導出も可能になっている。平成24年度は学内の実験室にてこれらの家庭用ゲーム機を用いて、どのような動作が測定可能か、各種センサがどの程度の精度で計測可能なのかをこれまで実験で使用してきた機器と比較し、確認をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの習熟に関する研究内容は、作業者1人が一つのタスクをどれくらいの時間をかけて習熟していくのかをタスクスピードや移動量から判断し、モデル化することで習熟前後の作業量の予測を立てるものが主体である。また、タスクとスペース・工具や材料のレイアウトとの関係など、「モノと人」との関係についても取り扱われ、1990年代からはITなど産業分野での機器の発展に伴ってその評価手法などが応用されてきているといえる。 近年では特に後継者育成が懸念されている伝統工芸など、日本古来の労働産業を対象とした習熟に関する研究テーマが散見され、これまで経験値にのみ頼ってきた習熟へのプロセスを「如何に効率よく習熟状態を提供できるか」の提案を目的とした研究が活発に行なわれていることが明らかになった。 本研究の特徴は習熟のプロセスを生理的データやボディメカニクスを用いて評価する試みと加齢による習熟プロセスの違いについて基礎的知見を得ることである。そのためには出来るだけ単純な繰り返し作業を行なう中で集中力を保持した状態が必要であり、平成24年度は習熟過程を再現できる実験条件の検討をおこなった。 重心動揺に関してはデータ精度は問題なく得られるものの、動作範囲が狭くボディメカニクスの観点から習熟の過程を把握することは難しいと考えた。一方動作解析に関しては若干精度は落ちるものの、人体の動作を分析する上での支障はなく、動作範囲もある一定のエリアを確保できることから実験装置として利用可能と判断した。 次にゲームの選定をおこなった。当初かがむ・身体を屈曲させる・ジャンプするなど、日常でおこなわれる動作へのイメージが可能であるゲームを検討したが、筋活動量や関節角度などの生理的データの比較も対象とすることから、左右の動作を中心とするゲームを選択し、動きの切り替わるタイミングや移動量などの変化から習熟の指標を得ることとした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に予備実験として、若年(大学生)を被験者とし、実際にゲームを一定のスコアが得られるようになるまで繰り返し行なってもらった。回数を重ねるごとに移動量などに減少がみられ、1回のゲームタスクの中でも無意識にクリアできるパートと意識的に操作することでスムーズになるパートがある。それぞれのパートで生理的データとの違いを検討する必要性がある。動作解析については身体の関節角度変化・身体部位別の加速度・上半身下半身のねじれなどを分析する。同時に筋電図を用いて身体各部位の筋活動量を測定し、タスクを繰り返す中で導出される筋部位の選定と、各部位の関連性を明らかにする。さらに、研究テーマの一つである習熟度の違いと視線の動きについても検討し、アイマークレコーダを用いて被験者がタスク中にモニタのどこを注視していたか、習熟の過程で注視位置や切り替えのタイミングがどのように変化したのかも併せて導出する。その際の画面の大きさや角度なども今後は検討対象とする必要があると考える。タスク内容によっては、本学所有設備の視環境評価システム(VEES)を用いて、タスク内容の再現性にも配慮しながら習熟との関連性を追跡する。 また、動作解析センサのプログラム開発は現在も進行中であり、研究会なども活発におこなわれていることから、情報収集や研究者ヒアリングを進める。集中力を保持する、かつ対象とする動作内容の妥当性という観点からも継続的にゲーム内容についても検討する必要があり、見識者から情報を得ながら動向を把握する。 これらの実験データを収集・分析し、習熟を再現するタスク条件および評価内容をを設定し、被験者の属性別に実験をおこなう。予備実験では若年者が対象であったため、高齢者も対象とした被験者の性差・年齢差などからのデータについて分析をおこなう。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究費については、平成24年度の計画のうち、実験被験者への謝金として計上していたものの繰り越しである。次年度も継続して被験者を用いた実験をおこなう予定であり、また解析上のデータ整理などでの謝金も発生する予定があり、充当させる計画である。
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