2013 Fiscal Year Research-status Report
葉緑体の遺伝子組換えによるストレス耐性パンコムギの育成
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24658010
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
寺地 徹 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (90202192)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山岸 博 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (10210345)
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Keywords | パンコムギ / 葉緑体 / 形質転換 / ボンバードメント / アスコルビン酸 |
Research Abstract |
本研究は、モデル植物のタバコで確立された葉緑体の形質転換技術を作物であるパンコムギ(Triticum aestivum)に適用し、葉緑体の遺伝子組換えコムギを安定的に得る方法を確立することを大きな目的とする。また、この方法を用いて適切な遺伝子を葉緑体内で強発現させることにより、最終的には、強光や乾燥など、非生物的ストレスに強いパンコムギを育成することをめざしている。具体的には、葉緑体のアスコルビン酸-グルタチオン回路の酵素のひとつ、アスコルビン酸パーオキシダーゼの遺伝子(apx)を、パンコムギの葉緑体ゲノムに導入し、この遺伝子を強発現させることで、植物がストレスを受けた時に生じる有害な活性酸素分子種(ROS)を効果的に消去できる性質を付与しようとしている。 今年度は、昨年度に構築した、apx遺伝子導入用の異なる4種類の葉緑体形質転換ベクター(葉緑体との相同領域はrbcL-ycf4あるいはrps12-16SrRNA、選抜マーカーはストレプトマイシンあるいはカナマイシン)DNAを大量調製し、外植片(パンコムギの未熟胚由来のカルス)にボンバードメントした。 この実験に際し、昨年度に引き続き、今年度も鳥取大学乾燥地研究センターと共同研究を実施し、カルスからの再分化能力が高いとされるパンコムギの品種、アカダルマを夏から冬にかけて栽培した。この共同研究により、京産大のビニールハウスでは5月に、また鳥取大学乾燥地研究センターのグロースチャンバーでは12月に、それぞれ大量の未熟胚を調製可能な環境が整えられた。その結果、通算で約13,800個の未熟胚を調製することができ、70回を超えるボンバードメントを実施できた。 未だ葉緑体の組換え体を得ることはできていないが、パンコムギを材料に、ある程度の規模で遺伝子導入実験を継続的に行うことはでいている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の実験は、大きく、1)導入プラスミドコンストラクトの作成、2)遺伝子導入に用いる外植片の調製、の2つの過程に区分されるが、いずれの過程も、昨年度と今年度を通じて当初の目的を概ね達成できたと自己評価している。 すなわち1)では、コムギ葉緑体ゲノムの塩基配列情報(AB042230)をもとに、導入領域(rbcL-ycf4、23SrRNA-ndhH、rps12-16SrRNA)および抗生物質耐性(ストレプトマイシン、カナマイシン)が異なる、合計6種類のパンコムギ葉緑体形質転換用ベクターの構築を終えているし、導入遺伝子に相当するapxは、6種類のベクターのうち4種類に組込むことができている(対照実験に用いるGFPは6種類すべてに組込むことができている)。これにより、導入領域や選抜マーカーの違いによる葉緑体形質転換効率の違いを調べるなど、将来の実験の基盤が整えられたと同時に、今年度はapx遺伝子を含むベクターDNAを、実際にコムギの外植片へボンバードメントすることができた。 また2)については、昨年度に続き、鳥取大学乾燥地研究センターとの共同研究を実施し、現地のグロースチャンバーを借用して、パンコムギの品種アカダルマを栽培することで、12月に約13,000個の未熟胚を調製し、合計72回のボンバードメントを実施することが可能となった。また、次年度の5月に京産大のビニールハウスで栽培したアカダルマから未熟胚を大量調製するため、年末に植物材料の播種を終えている。 昨年度から、通算で30,000個以上の未熟胚調製と400回を超えるボンバードメントを実施している。未だ葉緑体の組換え体が得られていないのは残念であるが、ある程度の規模で継続的に遺伝子導入実験を行うシステムは完成した。これが最終年度につながる成果であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に昨年度と同様の実験を行う。すなわち、初年度に構築した葉緑体形質転換用プラスミドベクターDNAをアカダルマの未熟胚に由来するカルスへボンバード法により導入する。当初は実験材料にアカダルマとは別の品種であるBob Whiteも用いていたが、この品種は現在の培養条件では再分化効率が低いことから、今年度は主にアカダルマを実験材料とする予定である。ボンバードメント法による遺伝子導入実験の大枠は、これまでの実験方法を踏襲する。すなわちDNAの調製方法や未熟胚の調製方法などは特に変更しない。しかしボンバードメントの条件については、装置内でシャーレを置く段数を変えてみるなど、細かな変更を試みながら実験を実施する。5月の遺伝子導入実験の結果をふまえて、12月の遺伝子導入実験では、さらに条件を改善する。なお、長期的には、ボンバードメントでDNAを撃ち込まれる外植片に、何らかの工夫が必要と思われるので、例えばGlk遺伝子の共発現により、カルスが緑化する組換え系統(核遺伝子)を新たに作出するなど、この実験により適した実験材料の育成へむけた予備実験を開始したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
鳥取大学乾燥地研究センターとの共同研究により、現地で植物を一部栽培してもらうことができたので、植物調製にかかわる学生アルバイト代など、当初の見込みより、謝金が少なくてすんだ。 物品費、謝金、その他(英文校閲など)として、実験の遂行、とりまとめに使用する。特に謝金については、コムギの栽培方法を工夫して、未熟胚を調整する実験の実施回数を増やすことが可能となったため、来年度は実験を実施するための人件費に使用する予定である。
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Research Products
(5 results)