2013 Fiscal Year Research-status Report
常緑性C4植物トキワススキの耐冷性に関する基礎的研究
Project/Area Number |
24658016
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
青木 直大 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (70466811)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大杉 立 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (40343107)
|
Keywords | C4植物 / トキワススキ / 耐冷性 |
Research Abstract |
・本研究は、耐冷性の強いC4植物であるトキワススキ(Miscanthus floridulus)を近縁種で耐冷性の弱いススキ(M.sinensis)を多面的に比較することによって、トキワススキの形態、光合成、代謝生理における特徴を明らかにするとともに、耐冷性に関わる代謝レベルおよび分子レベルでの知見を得ることを目的としている。本年度は、初年度に得られたトキワススキの生理生態学的特性に関する知見を確認するとともに、耐冷性に関する生化学および分子生物学実験を進めた。 ・初年度に引き続き、東京大学弥生キャンパス内の圃場にてトキワススキ(3系統)およびススキ(1系統)を栽培し、年間を通して生育状況を比較したところ、初年度と同様の結果が得られた。すなわち、ススキは10月中旬に出穂後、徐々に葉色が薄くなり12月下旬から茎葉が枯れ始めた。これに対して、トキワススキは7月上旬に出穂し、以後冬期を通じて葉色は濃い緑色を維持し茎葉が枯れることはなかった。 ・前年度に確立したグロースチャンバー内での栽培法を用いて、冷温処理実験を行った。昼30℃(12時間)/夜22℃で生育させた後に、10℃(昼夜一定)の低温処理を2週間施し、葉色の変化や生育を観察したところ、予想に反して、ススキよりトキワススキの方が葉色の変化(アントシアニンの蓄積)がより顕著で、生育が明らかに悪くなった。このことは、圃場でみられるトキワススキの耐冷性をグロースチャンバー内で再現することが難しいことを示しており、生化学的および分子生物学的な解析に遅れが生じている。 ・圃場または大型ポットで栽培した株を用いて、冬季(1月)サンプリングした葉中の光合成関連酵素活性、遺伝子発現パターン、メタボライトの解析などを試みているが、これまでのところトキワススキとススキの間で明確な差異は認められていない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
トキワススキは研究例が非常に少ない植物種であり、これまでに他の近縁種と同条件化で栽培し生育等を比較した報告すらなかったが、2年間の研究によって、トキワススキの高いバイオマス生産能の一端が明らかになった。今後、研究成果を発信する上で重要な基本情報が得られたことは評価できると考える。 一方で、圃場でみられたトキワススキの耐冷性がグロースチャンバー内では再現できず、代謝レベルや遺伝子レベルでの特徴を明らかにするための生化学的・分子生物学的な解析に遅れが生じている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られているトキワススキとススキを形態・生理・生態学的に比較したデータをまとめ、本年度(最終年度)中に原著論文を発表する。投稿先は植物学(Botany)系の国際誌を予定している。 平行して、2種の違いを代謝レベルおよび遺伝子レベルで明らかにするために、路地栽培した植物体を用いて、7月から1月にかけて1か月ごとに葉のサンプリングを行い、代謝物(糖、アミノ酸、カルボン酸など)や光合成および糖・アミノ酸代謝関連酵素の活性および遺伝子発現の推移を調べる。また、グロースチャンバー内での低温処理試験については、ポットの大きさや低温処理の程度を変えるなどトキワススキとススキの間で生育に差が生じる実験条件を検討する。このようなグロースチャンバー試験の条件検討は本課題終了後においてもトキワススキの耐冷性に関する分子機構の解明に役立てることができると考える。
|