2013 Fiscal Year Research-status Report
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24658028
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
樋口 浩和 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50303871)
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Keywords | 熱帯果樹園芸 / 生態生理学 / チェリモヤ / レイシ |
Research Abstract |
2013年度においては、受粉後の低夜温がチェリモヤの果実品質に及ぼす影響、レイシの種子の形態形成に及ぼす気温と遺伝的要因の影響とレイシ花粉の発芽に及ぼす温度条件の影響について調査した。 チェリモヤでは、夕方の受粉から翌朝までの夜温が果実品質に及ぼす影響を明らかにするため、受粉後直ちに発泡スチロール製の小型温度制御装置を樹上に取り付け、受粉した花の周囲の夜温を4, 6, 8, 10, 12, 17, 22, 27, 32, 35℃に制御した。その結果、受粉後受粉後に夜温が8℃より下がると種子数や果実の対称性が著しく低下することが示された。また、受粉前の数日間の最低気温も種子数に強く影響した。これらのことから、夜温が低下しやすい春には、8℃以上に加温することが奇形果の発生抑制に効果的であることを指摘した。 レイシでは、2品種を用いて種子形態の違いによる果実特性の違いを明らかにしたうえで、種子形態に違いを及ぼす要因として、低温による胚発達の抑制、花器の形態異常、単為結果の可能性を検討した。受粉後3日間の夜温を発泡スチロール製の小型温度制御装置で7、12、17℃に制御し、受粉後2、3、4、5、8週間後の果実残存率を記録し、果実の形態と品質を記録した。放任受粉の別個体から発達段階の異なる花および幼果を採取し、パラフィン包埋後にミクロトームで切片を作成し、切片をマイヤー酸性ヘマラウン溶液で染色した。その結果、レイシは品種によっては一定温度で単為結果する性質を持つことを指摘した。また、顕微鏡観察の結果、委縮した胚や卵細胞のない胚が各発達段階でしばしば観察された。このような形態異常も痕跡程度の種子しかない果実の発生に関わっている可能性があることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた対象果樹のうち、チェリモヤとレイシについてはほぼ計画通りの進捗状況であり、今年度計画する研究成果をもって、計画以上の達成度となる見通しである。一方、マンゴーについては十分に進捗していない。これは、総状花序が温度制御箱にたいして大きくて、精度よく温度制御ができないことによる。制御装置は小型・軽量・ポータブルである点がポイントであるが、それに適した小型の花序が着生させにくい。マンゴーの結実と気温の問題は興味深い課題であり、ペルチェの出力を向上させて大きな制御箱を実現しつつ、コンパクトな花序を着生させる予定である。 タイ東部の農家圃場にてドリアンの実験をおこなっており、順調に進んでいる。商業電源のないところでソーラーパネルを用いる方法を計画していたが、長大な延長コードによって商業電源の届く範囲での実験を行っている。そのため、確保できるサンプル数に限りがある。しかし本研究課題は実験手法の開発も含むので、ソーラーパネルを用いて商業電源のないところでの測定を成功させたいと考えている。 当初の計画になかったパッションフルーツとサラッカの調査を加えた。パッションフルーツは近年生産が急拡大している蔓性の熱帯果樹であり、樹形の仕立てが容易であるために温度制御箱を装着するのに極めて好都合であるため材料に加えることにした。生理応答の面からも、夏の暑い間には結実しない性質やハウス栽培であっても雨天時に結実しない性質があって、その温度応答性には興味深い点が多い。そのメカニズムの解明は順調に進んでいる。サラッカは周年生産される熱帯果樹であるが、タイでは12月-1月の時期だけ収穫が激減する。5月頃の花に結実させにくいからであるが、その原因が明らかではない。現地農家の協力を得ながら、サラッカの結実性に関する温度応答性の実用的な研究を始め、すでに花粉の温度に対する反応性を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
チェリモヤに関しては、温度応答性についてはかなり詳細なレベルで解明されつつある。精度のよい温度制御と解剖学的なアプローチによって、雌蕊の受け入れ可能な温度帯を、花粉と雌蕊の共同作業である花粉管伸長と授精胚の形態形成とに分けて解明しつつある。今後は花粉稔性に及ぼす開花前の温度の影響と、受粉後の夜温が授精胚の発達に及ぼす影響についてさらに実験を進める予定であり、その準備は滞りなく進められている。これによってチェリモヤの受精についての温度応答に関する研究は一通り決着がつくと考えている。 レイシについては、単為結果性のある品種の存在をこれまでの研究で明らかにしており、温度応答性のほかに品種による影響が相当大きいと考えている。従って、今後はこれを他の品種と比較しながらその形態形成の品種間差をよりはっきりとさせる実験を行う。その際、無核果実の形成に関しては、温度による影響がどの程度関与するかについての結論がでることになる。 これらと平行して、アボカドの低温による無核果実形成の問題を扱う予定である。方法はチェリモヤやレイシに用いたものと同様であり、ペルチェによる温度制御箱を用いることになる。できるだけ有効利用したい。ただしアボカドには自家不和合性があるので、受粉に使う花粉については、品種ごとに影響が異なるかもしれない点を考慮する必要があるだろう。 さらにパッションフルーツでは、温度だけでなく光の関与が疑われる実験結果が出ている。従って、遮光して、受粉後の生理へ及ぼすを見る実験を設定する。 以上は京都大学の温室に用意した植物で行う実験であるが、海外で行うドリアンとマンゴスチンについては、ドリアンは予定通りの計画であるが、マンゴスチンよりもサラッカの商業的な重要性が増してきている状況に鑑み、サラッカに取り組むことになるだろうと考えている。
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Research Products
(5 results)