2012 Fiscal Year Research-status Report
カイコをモデルとした分散動原体型染色体における突然変異部位配列の特定
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24658046
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
佐原 健 岩手大学, 農学部, 教授 (30241368)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | カイコ / 染色体 / 突然変異系統 / 染色体付着 / 染色体転座 / NBRP / BAC / FISH |
Research Abstract |
ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)カイコを通じて九州大学保存の染色体突然変異系統であるr501, r52, r53の分譲を受けた。分譲されたカイコ品種は桑葉を与えて飼育し、突然変異表現型質をメルクマールとして染色体突然変異と正常個体を識別した。識別した個体の生殖細胞ならびに体細胞より染色体標本を作製してターゲットとなる染色体に座乗するBACをプローブとしたFISHを行った。生殖細胞由来の減数分裂前期パキテン期での検討から、r501系統には非常に長く、正常個体では認められない染色体対が観察された。この染色体へのFISHシグナルは表現型質の連関群に対応するBACプローブ由来のものであった。対をなした減数分裂では、関係する染色体の詳細が不明であったため、体細胞分裂中期において同様のBAC-FISHを行い、付着染色体が第23と第25染色体由来であることと、それぞれの正常染色体が2倍体核に含まれることを明らかとした。さらなるBAC-FISHによる染色体マッピング情報とカイコゲノム情報を統合して、r501の第23と第25染色体付着方向を解明した。 r52ならびにr53のパキテン期核には正常個体に認められない十字型をなす対が観察された。それぞれのBAC-FISHの結果、表現連関群との対応関係が認められ、4価染色体対形成の可能性が強く示唆された。そこで、体細胞中期染色体に対する同様のBAC-FISHを行い、r52では第6と第7染色体、r53では第6と第20染色体の相互転座染色体とそれぞれの正常染色体を認めた。 r52とr53の転座点の絞り込みは対象染色体由来のBACを用いたFISHによりカイコゲノム情報と統合した上で進めている。現在までにr52の2箇所の転座点までそれぞれ3Mbと2Mb程度の絞り込みが完了した。r53では3Mbならびに6Mb程度に絞り込んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H24年度の計画では(1) 4色のBACプローブを奇数と偶数コンティグに交互配置し、転座染色体部分を含むコンティグを知る。(2) 何れのコンティグ中のクローンが転座部位を占有するのかはコンティグが占める領域をすべてカバーするクローンをそれぞれ別色ラベルし、BAC-FISHにより解明する。コンティグ番号が特定されたところで、(3) 今度は4クローンに異なるラベルを施し、転座部位をブリッジするクローンの特定を行う。としていた。 (1)について従来のコンティグ情報からカイコゲノム情報統合データへとアップグレードして研究を進め、これらより、分譲を受けた3品種の変異の実体が染色体レベルで証明された。(2)についてr501では付着方向が判明し、H25年度のPCRによる付着点解明に向けた研究へと着手可能である。相互転座系統のr52とr53系統ではカイコゲノム情報のコンティグ内へと情報統合された結果が得られており、おおむね順調と判断できる。(3)のr52とr53に関するブリッジクローンは特定までには至っていない。 これらの状況から当初計画からやや遅れていると判断せざるを得ないものの、研究担当者はH24年度当初に所属変更となったため、新たなラボにおいて研究セットアップが必要となるといった計画当初想定され得なかった状況が生じた。本研究に必須の蛍光顕微鏡などの精密機器やBACライブラリーと保存用超低温冷凍庫の移動には3ヶ月以上を費やさざるを得なかった。よって研究使用した額も当初予定を下回り、次年度に盛り込んだ。これらことを加味すれば、実働時間に対する成果としてはおおむね順調と言っても過言ではない。
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Strategy for Future Research Activity |
r501の付着点配列解明については、当初計画通り進める。一方、r52とr53に関してはブリッジBACクローンの特定から早急に行う。万が一、相互転座に関わって非常に大きな欠失を含んだ染色体突然変異が生じていたとした場合、単一のBACによるブリッジングは当然不可能となる。しかしながら、2クローンでのブリッジは絶対に可能であるため、こうした想定も加味して研究を行う。 いずれかの方策により相互転座付着点に関するBACブリッジと対応するカイコゲノム情報を統合して、以下の通り研究を進捗する。(a) ブリッジすることが確認された2BACクローンの配列情報から方向と位置に関して5~10Kb毎にSTSプライマーを各ストランドに設計し、(b) 転座染色体系統のゲノムDNAをテンプレートとして、4方向の複数プライマーの2方向分全てを用いた、計4種類のPCRを行う。(c) PCR産物が検出された組み合わせについて、プライマーを絞り込み、転座部位を含むDNA増幅産物を得る。(d) 3品種の転座部位塩基配列を決定し、カイコゲノム情報と配列比較することで、転座部位の共通性および相違を解明する。 なお、(b)に関しては、突然変異染色体をホモに持つ個体が不可欠である。また、変異ホモ個体は致死とされる。このためNBRPカイコで配布する系統は変異ヘテロである。本年度配布の始まりともに各系統を入手し、配布を受けた個体の次世代のホモ胚子をヘテロ個体相互の交配から準備する。これらホモ胚子より個別にゲノムDNAを抽出することでテンプレートの調整が行えると計画する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度未使用となった研究費は上記したとおり、研究者と研究機器の移動による研究開始の遅れが原因である。このため、これら研究費はBAC-FISHに使用するDNAプローブ作製に関わる消耗品費とFISHデータの保管、解析に関する費用として使用し、早急にブリッジクローンの取得に勤める。
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