2012 Fiscal Year Research-status Report
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24658053
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
早川 洋一 佐賀大学, 農学部, 教授 (50164926)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 寄生蜂 / 宿主昆虫 / ショウジョウバエ / 毒液 / 自然免疫 / 細胞生免疫 / 体液性免疫 |
Research Abstract |
寄生蜂Asobara japonicaは、寄生の際、宿主ショウジョウバエ幼虫にまず毒液を注入し、直後に卵と側輸卵管成分を注入するが、寄生開始後2-3秒後に宿主から寄生蜂を引き離すと宿主は数時間で100%死亡する。勿論、寄生を完了させた場合には、こうした宿主の個体死はない。これは寄生妨害により宿主体内に単独で注入された毒液に強い殺虫活性があり、本来なら中和活性を示す側輸卵管成分が注入されなかった為であることを確認している。 今年度は、以下の4項目の新知見を得た。1)毒液内成分がショウジョウバエ類において、種特異的な殺虫作用を示すことを証明した。すなわち、A. japonicaが寄生可能な宿主ショウジョウバエ幼虫には毒液による殺虫作用を示すが、寄生が成立しないショウジョウバエ幼虫には殺虫作用もない。2)毒液成分は、宿主幼虫の体液性免疫作用(抗菌ペプチド遺伝子発現誘導)には何ら作用しないのに対し、血球による細胞生免疫作用(包囲化や貪食作用)は劇的に抑え、宿主の生体防御系を抑制する。3)毒液成分は、血球の細胞死を誘導する。4)毒液成分を注射した宿主幼虫体液中では、キモトリプシン様のセリンプロテアーゼの顕著な活性上昇が観察される。 以上の4つの新知見は、寄生蜂A.japonicaの宿主キイロショウジョウバエ幼虫に対する寄生戦略を考える上で重要な示唆を与えた。すなわち、A.japonicaの毒液は、自信の宿主をも殺す危険な成分を含んでいる。なぜならば、宿主体内で発育する内部寄生蜂にとって、宿主の死は自らの死でもあるからである。しかし、この毒液成分は宿主の生体防御系(特に、細胞性自然免疫系)からの回避に不可欠な因子であることが明らかになった。また、宿主の個体死に、毒液成分が誘導するキモトリプシン様セリンプロテアーゼ活性上昇が何らかの関与を示している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、寄生蜂A.japonicaの殺虫性の高い毒液とその解毒効果のある側輸卵管成分の実体解明を主たる研究目標に研究を進めている。寄生蜂の毒液と側輸卵管の成分解析に関して、ほぼ計画通りに分析が進んでいることは、上記“研究実績の概要”の通りである。すなわち、昨年度の研究によって、宿主にとって毒性の高いA.japonica毒液成分の寄生戦略上の意義がほぼ明確になった。なぜならば、幅広く複数の昆虫を宿主として利用できる寄生蜂A.japonicaにとって、強毒性の毒液成分は宿主となる様々な昆虫の自然免疫活性を寄生直後に機能停止状態にする為に、必要不可欠な存在であることを証明することができたからである。しかも、毒液成分による実質的な宿主免疫抑制が、細胞性免疫活性の低下によって齎されており、体液性免疫活性(抗菌ペプチド遺伝子発現誘導活性)には有意な影響が生じていない点は興味深い結果と言える。このことは、宿主昆虫は寄生蜂に対して細胞性自然免疫によって生体防御を行っていることを強く示唆する結果と解釈できる。 さらに、昨年度は、寄生蜂の毒液成分による宿主の個体死誘発に先立って、体液中のキモトリプシン様セリンプロテアーゼの活性上昇が誘起されることを発見した。しかも、この毒液によるセリンプロテアーゼの活性上昇は、側輸卵管成分によって抑制されることも確認することができた。このことは、このセリンプロテアーゼの活性上昇が、宿主昆虫の個体死誘導に対して直接的あるいは間接的に重要な役割を担っていることを強く示唆する結果であり、極めて興味深い研究成果と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、寄生蜂毒液成分と側輸卵管成分の精製と構造決定を目標に研究を進める。まず、毒液内の活性成分はウィルス様因子であることはほぼ確認できているので、寄生蜂貯毒嚢を大量に調製し、そのゲノムDNAあるいはRNAを単離する。単離したゲノム核酸成分を精製し、次世代シーケンシングを用いて塩基配列を決定する。もし、分析に必要な十分量の核酸が得られなかった場合は、寄生蜂腹部からtotal RNAを調製しRT-PCRによってウィルス様塩基配列の決定を目指す。すなわち、寄生蜂雌腹部から貯毒嚢を完全に除去したサンプルと無処理の腹部内での発現遺伝子の違いを同定し、貯毒嚢内でのみ発現するウィルス様塩基配列を同定することになる。こうした毒液ウィルスゲノム情報の解析と並行して、透過型電子顕微鏡観察による形態分析も進め、そのウィルス粒子形状を明らかにする。 寄生蜂側輸卵管活性成分については、これまでの予備実験結果より分子量数10kDaで、しかも、熱に不安定なタンパク質様因子であることが分かっている。出発材料の制約から一般的なHPLCによる精製方法を適用するのは非常に難しい為、先ずはモノクローナル抗体を作成してその中から活性因子の抗体を単離し、最終的に因子自体の精製を試みる。側輸卵管液性成分を抗原とする免疫は、in vivo, in vitro両方法で進める。即ち、前者はマウス体内への抗原注射、後者は単離したマウス脾臓細胞の培養系で直接抗原を感作させる方法である。いずれも、ハイブリドーマのスクリーニングは、得られる抗体と側輸卵管成分を予め反応させた後、毒液と共にショウジョウバエ幼虫に注射することによって殺虫作用を指標に進める。目的の抗体が単離できたならば、抗体をアフィニティーカラムのリガンドに用い、毒液及び側輸卵管抽出液から活性因子を単離し、一次構造を決定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当無し。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Drosophila growth-blocking peptide-like factor mediates acute immune reactions during infectious and non-infectious stress.2012
Author(s)
Tsuzuki, S., Ochiai, M., Matsumoto, H., Kurata, S., Ohnishi, A. and Hayakawa, Y.
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 2
Pages: 210
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Activation of PLC by an endogenous cytokine (GBP) in Drosophila S3 cells and its application as a model for studying inositol phosphate signaling through ITPK1.2012
Author(s)
Zhou, Y., Wu, S., Wang, H., Hayakawa, Y., Bird, G.S., and Shears, S.B.
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Journal Title
Biochemical Journal
Volume: 448
Pages: 273-283
DOI
Peer Reviewed
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