2012 Fiscal Year Research-status Report
宇宙農場のためのクリノスタット微小重力装置を用いた作物栽培基盤研究
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24658061
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
横山 正 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70313286)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梅田 倫弘 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60111803)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | クリノスタット / 宇宙農業 / 根の変異 / 微少重力 / 非破壊・経時的根伸長計測 / 静電容量の変化 |
Research Abstract |
国際宇宙ステーションや深宇宙探査など宇宙空間での長期間滞在に対応する食料確保の技術の1つとして宇宙農場の建設が提案されている。宇宙空間の特徴の一つである微小重力環境が農作物の生育に与える影響は殆ど分かっていない。申請者らは、微少重力下ではダイズの根が、地上1G区に比較して有意に伸長し、さらに、その側根発生数が有意に低下することを見いだした。そこで、微小重力環境下で生じるこれら根の変異を、形態学的・分子生理学的手法や本課題で新規に開発する植物根伸長状況のin-situ観察技術で解明する。本年度は、まず、クリノスタットを用いた疑似微小重力条件で、ダイズ生育の再試験を行った結果、クリノスタット区では相対的に根が伸長し、地上部長は抑制され、また、重さに関しては、クリノスタット区では根の重量が増加し、対照区では地上部の重量が増加した。根部の長さの増加に関して、根部の細胞観察により細胞数が増加する傾向が認められた。同様な実験を他の作物であるキビ、ソルガム、クロタラリア等で行った結果、キビ、クロタラリアでは、地上部と根部の長さや重さに明瞭な違いは生じなかったが、ソルガムは、クリノスタット区で地上部と根部の長さや重さが大きくなった。また、クリノスタットの微小重力環境下に設置した植物育成容器内で生育中の植物の根伸長状況のin-situ観察技術の開発では、成長過程において根伸長を詳しくモニタリングする必要がある。そこで本研究では、水分量と相関のあるコンダクタンスを別の電極を用いて測定し、水分量制御を行った上で静電容量を計測し、非破壊かつ経時的に根伸長を測定するシステムを開発し、ダイズを用いた育成実験を行い,水分量を制御した上で、ダイズの育成による根伸長増加に伴う静電容量の変化(0.52mm/pF)を検出することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クリノスタットにより、微少重力が植物の根の生育に、明瞭な影響を与えることは再確認できた。また、他の作物に対する影響では、植物種により応答が異なることが分かってきた。また、ダイズの根伸長の非破壊的な静電容量による変化を捉えられた。また、上記に記載しなかったが、ダイズの側根発生等に影響を与える遺伝子としてPGP1(PGP1が欠損している植物体は側根数が減少)とARF8(ARF8が欠損している植物体は側根数が増加)のホモログをクローニングし次年度に、それらの遺伝子発現量が疑似微小重力環境でどのように変化するかを検討する。また、微少重力下でダイズと根粒菌の応答の可視化のためのDs-Red組換え根粒菌を作成した。これらは、H25年度の研究に使用する。 また、クリノスタットの稼働に関して、検討を行い、以下の改良を行った。 ●クリノスタットの改良:クリノスタットは、自然光ガラス室に設置しており、光源として自然光を利用している。そのため、植物体を回転させることにより、得られる積算照度が減少してしまう。そこで、装置周辺に補光用蛍光灯を設置し、さらに装置下部に反射板を敷いて正常区の75%の積算照度が得られるよう改良した。 ただ、現在、クリノスタットは7日間連続運転すると、回転軸にひずみが生じ、モーター等が焼き付く事故が複数回起こっている。そこで、クリノスタットの植物体を保持する部分の形状と材質を変えて、重量を軽くする改修を行っている。この改修により、7日以上の安定的な長期運転が可能になると期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)微少重力下で植物根に生じる新規変異の形態学的・分子生理学的解析:複数の作物に対する微少重力の影響をさらに観察すると共に、ダイズに関しては、再現性が確認されているので、微少重力の影響で変異が明瞭に出現する時間までダイズを静置し、網羅的なダイズcDNAの発現解析を行う。得られたデータから、微少重力処理で発現が促進・抑制された遺伝子の発見及び、根の側根形成関連遺伝子群等も併せて解析し、それらの転写推移から変異を誘導する分子機構を推定する。 (2) 微少重力下で伸長した根が、マメ科植物の養分吸収や根粒菌との共生に与える影響の評価: 微少重力下で根粒が形成することはミヤコグサを用いた実験で報告されているが、共生過程への微少重力の影響に関しては全く不明である。そこで、Ds-Red標識ダイズ根粒菌を接種したダイズを微少重力下で生育させ、経時的に植物体を採取し、FAA固定後組織切片を作成し、共焦点レーザー顕微鏡で、感染の進行状況・根粒原基形成等を観察し対照区のそれらと比較することで、共生過程や根粒数等への微少重力の影響を評価する。 (3)根伸長状況を3次元的にモニターできる、根伸長計測アルゴリズムの開発を引き続き行い、根の発達状況から得られたデータと比較することで、インピーダンス測定に最適な電極構造などを最終決定する。最終調整したインピーダンス根伸長計測装置を設置した小型ポットを、クリノスタット装置に設置し、微小重力環境で育成中のダイズの根伸長・側根形成状態を定期的に土中計測し、根状態の時間変化のモニタリングの可能性を検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
クリノスタットのモーター交換部品代に用いる予定であったが、モーターの故障が1回回避できた。次年度への繰り越した予算は、クリノスタットの7日以上の長時間運転が可能な改良の消耗品資材の購入に用いる。
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