2012 Fiscal Year Research-status Report
糸状菌の環境認識シグナルと接着に関する、表面工学手法を利用した解析
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24658087
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Research Institution | National Institute of Agrobiological Sciences |
Principal Investigator |
西村 麻里江 独立行政法人農業生物資源研究所, 植物科学領域 植物・微生物間相互作用研究ユニット, 主任研究員 (30370670)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 美紀 独立行政法人産業技術総合研究所, 先進製造プロセス研究部門 表面機能デザイン研究グループ, 研究員 (20415722)
三宅 晃司 独立行政法人産業技術総合研究所, 先進製造プロセス研究部門 表面機能デザイン研究グループ, グループ長 (30302392)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | バイオフォルム |
Research Abstract |
糸状菌バイオフィルムの制御は食品産業、工業、医療現場さらには住環境の衛生管理において重要な課題である。真核微生物のバイオフィルム形成は対象物を「認識」して「接着」することにより開始されるが、糸状菌では酵母等とは異なる独自の環境認識機構により接着が誘導されていることが遺伝学的解析およびゲノム情報から示唆されている。しかし、糸状菌の接着を誘導する環境認識機構や接着機構は殆ど明らかになっていない。 Magnaporthe oryzaeはゲノム情報を利用した様々な解析が可能な糸状菌である。当研究グループでは表面工学技術により作製された分子修飾基板を用いた研究から、M. oryzaeをはじめとする様々な糸状菌において基板表面の分子特性により接着が制御されていることを示唆する結果を得た。そこで本研究ではM. oryzaeをモデルとして用いて、糸状菌における「環境認識シグナルによる接着制御」を明らかにすることを目的として研究を行った。 昨年度は、M. oryzaeの環境認識に関わるシグナル伝達に関わる遺伝子の変異株の中から糸状菌の接着を阻害する分子修飾基板に対して接着性を示す菌のスクリーニングとその接着時の遺伝子発現解析を行った。その結果、M. oryzaeにおいて表面接着を制御するシグナル伝達経路が明らかになった。さらにそのシグナルにより接着時に発現が制御されている遺伝子の絞り込みを行い、接着に関わると考えられるいくつかの候補遺伝子を見出した。そのうち分泌タンパク質をコードする1遺伝子については破壊株を作出し、この遺伝子が発芽直後の接着(初期接着)に必要な遺伝子であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、M. oryzaeをモデルとして用いて表面工学的及び分子生物学的手法を融合することにより、糸状菌の接着因子遺伝子や環境認識シグナルによる接着因子の発現制御機構を解明することを最終目的としている。 昨年度は、そのうち接着因子の解明を目標として挙げた。今年度の成果として、接着を制御するシグナル伝達経路の特定と初期接着に必要な接着因子遺伝子の解明を挙げることができ、おおむね順調に進展していると評価している。また、いくつかの接着因子の候補遺伝子には共通した機能があり、最終的に目標とする菌の接着機構のモデル構築の手がかりを得たと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は糸状菌における環境認識と表面接着制御機構のモデル構築を目標として、研究を進める。 昨年度までに機能解析が終了していない接着に関連する遺伝子候補については引き続き遺伝子破壊等で機能解析を進める。さらにこれらの接着関連遺伝子のM. oryzaeの形態形成や感染への関与を解析し、形態形成や植物寄生性への関与を解析する。また、どのような環境因子を認識したときに接着誘導シグナルが活性化されるのかについても、接着因子遺伝子の発現を指標に解析を進める。 また当初の研究計画を拡大し、昨年度使用した修飾阻害分子とは化学特性が全く異なる修飾分子で修飾した接着阻害基板に対する接着誘導シグナル伝達経路の変異株の接着性および遺伝子発現を解析する。この解析により特定分子の認識による接着誘導や、修飾阻害分子と接着因子の相互作用による接着阻害などの可能性を検討することができ、糸状菌の接着誘導の機構の解明に資することができる。計画当初、表面の接着阻害分子の存在比が異なる基板を用いる実験を計画していたが、作製した基板が化学的に不安定であるため実験に用いることができなかった。技術的にこの問題が解決された場合には、構築された接着モデルの検証実験に利用する。 昨年度、M. oryzaeで初期接着に関わる遺伝子を見出した。そこで、この初期接着に関わる因子の異なる生活様式の糸状菌における保存性について解析する。さらに、糸状菌の接着誘導時や接着阻害時における本接着因子の発現の変化を解析する。 以上の解析から得られる結果を総合して、環境認識シグナルにより糸状菌が接着を接着する機構についてモデルを構築する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度用いたものと化学特性が全く異なる接着阻害基板上での接着誘導シグナル伝達経路の変異株の遺伝子発現解析に35万円(マイクロアレイ解析費30万円、mRNA抽出5万円)、環境因子認識による接着誘導シグナル活性化の解析に20万円(RT-PCR解析費)、接着因子候補子の遺伝子機能解析のための試薬費として30万円(DNA関連解析費用 15万円;PCRスクリーニング関連費用 15万円)、分子修飾基板作製のための基板代および修飾試薬費として60万円を計上した。成果発表、情報収集のための旅費として15万円(3人)、また最終年度であることから論文発表関連費として10万円計上した。
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