2012 Fiscal Year Research-status Report
イカ肝に含まれるカドミウム結合物質の構造解析とそのカドミウム集積への利用
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24658108
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉村 悦郎 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (10130303)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | カドミウム / イカ肝 |
Research Abstract |
イタイイタイ病の原因物質として知られるカドミウム(以下Cd)は、亜鉛の精錬等によって環境中に放出される。Cdは多くの生物にとって有害であるため、生物は生体内で何らかのCdに対する代謝機構を有している。代謝機構の1つであるとされているのは、Cdキレーターを用いてCdを無毒化する方法である。哺乳類は低分子量でSH基を持つメタロチオネイン(以下MT)と呼ばれるタンパク質がCdと結合することで代謝していると考えられている。スルメイカは日本で漁獲量が最も多く親しみの深い魚介類であると同時に、肝臓にCdを高濃度に蓄積することで知られている。しかし、スルメイカの肝臓ではMT以外のタンパク質と結合し、Cdを無毒化していると考えられる。そこで本研究では、スルメイカ肝臓中のカドミウム結合タンパク質を分離、特定することを目的とした。 スルメイカは福井県沖で採取し、船内で急速冷凍されたものを供試した。摘出したスルメイカの肝臓にpH 7.4に調整したHEPESバッファーを重量比が1:2になるように加えてからポリトロンを用いてホモジナイズした。このスルメイカの肝臓中のCdは43.4ppmと非常に高濃度含まれていた。ホモジネートを100,000gで1h遠心後、上清をサンプル溶液として用いた。サンプルはFPLCを用いたゲル濾過クロマトグラフィーとイオン交換クロマトグラフィーにより精製を試みた。各フラクションのCd濃度をICP発光分析法で測定し、Cd濃度を指標とした。ここで得られた画分をNative-PAGEによってタンパク質を分離した。分離後、タンパク質が含まれる画分を切り出し、HEPESバッファーに抽出後、CdをICP-MSで測定した。その結果、Cdが高濃度含まれるピークを特定することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イカ肝に含まれるCd結合物質がSDS-PAGEでシングルバンドになるまでに精製できた。今後、この物質のアミノ酸配列を決定することにより、当初予定していたCd集積大腸菌の開発につながるものと期待されるから。
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Strategy for Future Research Activity |
単離したCdBSのアミノ酸配列をアミノ酸シークエンサー(専攻共通設備)を用いて決定する。また、イカ肝からmRNAを抽出しcDNAを作成する。これをテンプレートとしてPCR法によりCdBSのアミノ酸配列を明らかにする。なお、N-末端のアミノ酸がブロックされている場合には、プロテアーゼで処理した後に同様の操作を行う。 Cd集積大腸菌の作成には外膜タンパク質LamBを利用する。LambのBam HIサイトを利用してCdBSを結合させたコンストラクトを大腸菌内で発現させ、表層にCdBSを提示させる。CdBSの大腸菌表面への発現の評価は、CdBSに対する抗体を用いて行う。すなわち、ウサギ抗CdBS抗体を用いて大腸菌の形質転換体の表層タンパク質の1次抗体反応を行う。その後、非特異的に吸着した1次抗体を洗浄し、遠心により大腸菌ペレットを回収する。そこへ蛍光色素フィコエリスリンを修飾させたヤギ抗ウサギポリクローナル抗体を用いて2次抗体反応を行う。遠心により大腸菌ペレットを回収し、フローサイトメトリー(専攻共通機器)で菌体表面に目的タンパク質の発現を分析する。 CdBSを提示している形質転換を取得しCd吸着能を調べる。すなわち、大腸菌をCd溶液に懸濁した後遠心で菌体を回収する。菌体は硝酸を用いて分解し、また上静はそのままCdの分析に供する。Cd濃度の測定にはICP発光分析計(専攻共通機器)を用いる。大腸菌をCd溶液に懸濁する場合には、溶液のpH、共存する金属イオン等を変化させることでこれらの影響を調べ、この吸着体のCd特異性を評価する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
取得したCdBSのアミノ酸配列決定のためにはアミノ酸シークエンサーの使用料とPCRに必要なプライマーの作成費が必要になる。また、Cd集積大腸菌の作成では、それに必要な生化学試薬ならびに評価のための抗体作成費が主なものである。最後に、Cd集積大腸菌の機能評価では、金属分析ために装置使用量ならびに分析試薬類を見込んでいる。
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