2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24658109
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
近藤 竜彦 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (30362289)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ネコブセンチュウ / 誘引物質 / 生物間相互作用 |
Research Abstract |
(a) 線虫誘引物質の同定 線虫感受性のトマト根およびネコブセンチュウに対する生理活性が報告されていたアルファルファの根を材料として、線虫誘引活性を検出する手法について検討した。専用に設計したゴムパッキンを2枚のスライドガラスで挟んだ容器を作成し、被検定試料を直径約2mmの寒天玉(2%寒天)に浸透させたものをその容器中に固定し、これを軟寒天(0.5%寒天)で包埋した。この装置中に200頭程度のネコブセンチュウを放ち、被検定試料の浸透した寒天玉に誘引されるネコブセンチュウの割合を算出することで誘引活性を評価した。アルファルファ根の破砕液を用いた生物検定では、50%以上の誘引率が観測されたことから、誘引活性を検出する生物検定系を確立することができたと判断した。種子の調達と栽培が容易なアルファルファの根を被検定試料として、誘引物質の物性の検討を行った。種々の検討を行う過程で、アルファルファ根の破砕液を0.2umのフィルターを用いて濾過滅菌すると活性が失われることが明らかになった。この結果から、この系において観測される誘引活性はアルファルファ根試料中に含まれる細菌に起因する可能性について検討した。アルファルファ水耕栽培液から細菌を単離し、その培養液を用いて誘引活性検定を行った結果、誘引活性を示す複数の菌を発見し、さらに16sRNA配列の解析により菌種を同定した。 (b) 感染時に機能するCLEペプチドの同定 本研究では水耕栽培トマトを用いてネコブセンチュウを連続的に培養し、研究に用いている。このときに得られるトマトの水耕液を回収し、陽イオン交換および逆相のオープンカラムで粗精製して粗ペプチド画分を得た。さらにこの画分を逆相HPLCで細かく分画し、各画分をMALDI-TOFMSで解析した。しかし、現在のところ目的とするペプチドを検出することには成功していない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
線虫誘引物質の研究に関しては、線虫誘引活性を高感度かつ定量的に検出する手法の確立を主目的の一つとしていた。今回確立した系は、透明な軟寒天中で線虫の運動を経時的に観察することができ、被検定試料の浸透した寒天玉の周囲に誘引された線虫を計数し、その割合を誘引率として数値化することで定量的な解析も可能となった。 確立した誘引活性検定法を利用して、もう一つの研究目標である誘引活性物質のキャラクタリゼーションを行った。アルファルファ根の破砕液および根の浸出液には明確な線虫誘引活性が認められたが、この誘引活性(物質)が0.2umのフィルターを通過しないことを見いだした。この結果は、誘引活性がアルファルファ根から調製した試料中に存在する微生物に由来する可能性を示唆していると考え、アルファルファ水耕液の希釈液を平板培地に塗布して単離した細菌の線虫誘引活性を検討したところ、複数の菌に誘引活性が認められた。これまでの類似研究においては、線虫が感染ターゲットとする植物根から誘引活性物質が分泌されると考えられており、線虫の誘引現象に細菌が関与するという報告は我々の調べた限りにおいては見いだされなかったことから、この結果は予想外ではあるが非常に新規性の高いものである。以上の点から、線虫誘引物質に関する研究に関しては、予想外の発見があり研究計画に若干の変更があったものの、全体として研究目的を達成することができたと考える。 また、ネコブセンチュウの生産するCLEペプチドに関しては、ネコブセンチュウに感染したトマト水耕液を出発原料とした精製を試みたが、ペプチドの同定には至らなかった。ペプチドの精製法に関しては、他の植物生理活性ペプチドの精製、同定にも用いているすでに確立された手法を用いていることから、問題は精製出発原料の量、もしくは後に述べるようにCLEペプチド自体にあると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度の研究から、複数の細菌が線虫誘引活性を示すことを明らかにした。今後は、培養した細菌の培養上清または菌体から誘引活性物質の抽出を行い、これを精製出発原料として活性物質の単離、同定を目指す予定である。 また、これと並行して、細菌が線虫誘引活性を示すことの生物学的意義についても検討を行いたいと考えている。我々は生物検定法の検討の過程で、アルファルファ根の浸出液と蒸留水でよく洗浄したネコブセンチュウをインキュベートすると、未同定の細菌が著しく増殖するという現象を見いだした。この結果は、アルファルファ根の浸出液の刺激により、おそらくネコブセンチュウ近傍(おそらく付着している)の細菌の増殖速度が大きく上昇するということを示している。もし、この時に増殖する細菌の中に線虫誘引活性を示す菌が存在するとすれば、ネコブセンチュウは根を直接関知するのではなく、根の浸出液によって増殖する細菌を感知することで感染ターゲットである植物根の存在を認知するという興味深い機構の存在を示すことができるのではないかと考えている。そこでまず、ネコブセンチュウに付着している細菌のうち、アルファルファ根浸出液によって増殖速度が大きく上昇する菌の単離を行い、単離した菌の線虫誘引活性について検討する。 一方で、ネコブセンチュウが感染時に生産すると予想されているCLEペプチド(16D10)に関しては、本研究と並行して行っている研究において、過剰発現株から誘導したカルスにおいて16D10遺伝子に由来するペプチドが検出されない(同様の実験をダイズシストセンチュウのCLE遺伝子で行った場合にはこの遺伝子産物に由来する修飾ペプチドが検出される)という結果が得られたことから、生理活性ペプチドの存在自体に疑問が生じており、こちらの研究を停止して、線虫誘引物質の研究に注力したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
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