2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24658109
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
近藤 竜彦 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (30362289)
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Keywords | 植物寄生性線虫 / ネコブセンチュウ / 生理活性物質 |
Research Abstract |
前年度までの研究によって、ネコブセンチュウの大量培養法および、寒天玉に染みこませた試料へのネコブセンチュウの誘引を観察する線虫誘引活性の生物検定系を確立した。さらに、ネコブセンチュウに対する生理活性が報告されていたアルファルファの水耕液を材料とした生物検定から、この試料に有意な線虫誘引活性を見いだした。さらに、この活性は植物由来ではなく試料中に含まれている細菌が生産する物質であることを明らかにした。本年度は、この細菌が生産する線虫誘引活性物質のキャラクタリゼーションおよび精製法についての検討を行った。活性物質は細菌の培養上清に多く含まれていたことから、この培養上清を用いて種々の予備的な精製実験を行った。逆相オープンカラムを用いた精製実験から、活性物質は逆相樹脂にほとんど吸着しない高極性化合物であることが明らかになった。さらにMWCO 30kの限外ろ過膜を用いた実験から、活性物質がこの膜を通過しない高分子であることが強く示唆された。また、エタノール沈殿を行った結果、活性物質は沈殿物中に回収された。以上の結果から、活性物質は細菌の生産する菌体外多糖であることが示唆された。そこで、培養上清を限外ろ過によって精製しNMRスペクトルを測定した結果、この画分の主成分はアセチル基を複数含む多糖であることが明らかになった。この生理活性多糖は0.1mg/ml以下の濃度で寒天玉に加えることにより有意な線虫誘引活性を示した。現在、酸加水分解物の詳細な解析を通じてこの生理活性多糖の構造解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず、本研究の大目標である、宿主根へのネコブセンチュウの誘引に関与する活性物質を明らかにするという点について述べる。宿主根ではなく宿主根の周辺に生息する細菌が線虫誘引活性物質を生産し、さらにその活性物質が高分子化合物であるという予想外の発見とそれに伴う計画変更があったものの、現時点で活性物質を単離することができたという点については当初の計画以上に研究が進展していると考えている。現在、この生理活性多糖の構造解析を進めており、一般的な細菌の菌対外多糖と同様に4~5糖からなるユニットの繰り返し構造をしていること、ユニット内にN-アセチル糖、デオキシ糖を含むことなど、部分的な構造情報が得られている。しかし、多糖に特有の問題として、高分子であることや水溶液の粘性が非常に高いことなどに起因して、NMRのシグナルがブロードになる傾向があり、この問題が詳細な構造解析を困難にしている。そこで、H26年度には、この生理活性多糖を部分的な加水分解によって低分子化し、より詳細なNMR解析を行いたいと考えている。この解析を通じて、期間内に活性物質の構造を明らかにすることができるだろう。 また、宿主根ではなくその周辺に生息する細菌が線虫誘引物質を生産しているという実験結果から、「土壌中で本当にこの種の細菌が根の周囲で増殖し、活性物質を生産することで線虫誘引という現象に寄与しているのか」という、解明すべき新たな課題が生じた。この点に関してはH26年度の課題として、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)などの土壌微生物学的手法を用いることで明らかにしていきたいと考えている
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Strategy for Future Research Activity |
1) 線虫誘引物質の構造解析:研究実績の項で述べたように、線虫誘引活性を示す物質としてアルファルファ水耕液中より単離した細菌が生産する菌体外多糖を単離した。現在までに酸加水分解物の解析などから多糖の構成糖についての情報は得られているが、多糖の全体構造については決定できていない。これは、高分子であることや水溶液の粘性が非常に高いことなどに起因して、NMRのシグナルがブロードになることが主な原因である。そこで、適切な加水分解条件を見いだすことで、多糖の部分構造を保持したまま低分子化し、良好なNMRスペクトルを得てより詳細な構造解析を行いたいと考えている。予備実験として、生理活性多糖を強陽イオン交換樹脂と50℃で4時間インキュベートすることで、ある程度の低分子化が起こり、NMRスペクトルの改善が見られた。今後、温度や反応時間を最適化し、得られた低分子化多糖の構造を明らかにする予定である。 2) 線虫誘引物質生産菌の動態解析:前年度の研究から、アルファルファ水耕液中には本研究で取り上げている細菌の他にも線虫誘引活性を示す複数の細菌が存在することが明らかになった。そこで、以下の2点について検討を行う。 2a) 線虫誘引活性を示す細菌の菌体外多糖のキャラクタリゼーション:複数の線虫誘引活性を示す細菌から菌体外多糖を単離し、その線虫誘引活性について調べることで、細菌の菌体外多糖への線虫誘引という現象が一般的な事象なのかどうかについて明らかにする。 2b) 根圏の菌叢解析:実際に線虫誘引活性を示す細菌が根の周辺(根圏)に多く存在するのかについて、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)などの土壌微生物学的手法を用いて明らかにする。
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