2012 Fiscal Year Research-status Report
脳老化を防止する高機能食品成分の効果を検証する高感度試験法の開発とその応用
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24658117
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久恒 辰博 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (10238298)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 高機能食品成分 / 脳老化の予防 / アルツハイマー病モデルマウス |
Research Abstract |
高機能食品成分の脳老化に対する予防・改善効果を調べるために、アルツハイマー病マウスに高脂肪食を投与する糖尿病併発型認知症モデルマウスを用いて、各種の抗酸化作用を有する高機能食品成分の効果を調べた。その結果、まずは、抗酸化作用に加えて抗炎症作用を有する畜肉食品に高含する高機能成分であるカルノシン(β-Alanyl-L-Histidine: 生体内イミダゾールジペプチドの一種)に、当該モデルマウスの記憶機能低下に対する改善作用を認めた。そして、このカルノシンに加え、カテキン類の一種であるエピガロカテキンガレート(EGCG)や米ぬか中に含まれるフェルラ酸にも、同じような効果があることが示唆された。一方で、このマウスモデルにおいて、DHAの効果は見られなかった。 食品成分の作用機構を明らかにすると共に、将来的に実施する予定のヒト試験における評価指標を得るために、マウスあるいはヒトを対象としたMRI画像試験を実施した。マウスの実験のために、既存のNMR装置内にMRI計測用ユニットを組み入れることにより、超高性能動物用MRI装置を組みあげて、マウスの脳のMRI画像解析を開始した。この装置の高い磁場性能(国内最高レベルの14.1テスラ)を利用することにより、マウスの各脳領域の高精細イメージング解析を実現した。そして、アルツハイマー病モデルマウスのイメージング解析を開始した。ヒトの脳老化を評価するために中高齢者ボランティアの参加によるヒトMRI画像研究を実施し、加齢に伴い縮小する脳領域を描出することに成功した。次年度以降、このMRI画像試験を併用して、脳老化に対する高機能成分の効果を明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
脳老化を防止する機能性食品成分を特定することが求められている。そこで、本研究では、申請者が新規に開発したアルツハイマー病マウスに高脂肪食を投与する脳老化早期誘導動物モデル(糖尿病併発型認知症モデル)を用いて、食品成分(DHA・カテキン・カルノシン・フェルラ酸、等)の効果を、記憶行動試験を用いて比較解析した。その結果、最も効果のある成分としてカルノシン(イミダゾールジペプチド類の一種)を特定することができた。また、カテキンとフェルラ酸についてもその効果を認めることができた。 その後、当該マウスの脳切片を作成し、老人斑の蓄積を含めて、脳組織の変化に関する免疫組織化学解析を実施した。その結果、これらの食品成分の当該モデルマウスの老人斑の蓄積に対する抑制作用は認められなかったものの、脳組織内に生じる炎症反応を抑える作用があることが見出された。おそらく、食品成分は、モデルマウスの脳組織内に生じる炎症反応を抑えることにより認知機能の低下を防いでいると思われる。 つぎに、ヒト試験への橋渡しのために動物MRIを用いた高感度脳画像解析を実施した。14.1T-MRI装置を用いて、アルツハイマー病モデルマウスの脳変化を高精細に描出することができた。現在、食品成分の効果をMRI画像試験を用いて明らかにしている。 さらに、将来的なヒト介入試験の実施に備えて、健高な中高齢者の参加によるヒトMRI画像試験を実施した。そして、食品成分の効果を検証するために3種類の脳MRI画像法(構造MRI・拡散MRI ・機能MRI)を確立した。そして、イミダゾールジペプチドを一日あたり1g、1ヶ月間連続摂取するヒト試験(10名参加)を行い、脳MRI画像上で、脳老化に対する改善傾向を見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究題目である「脳老化を防止する高機能食品成分の効果を検証する高感度試験法の開発とその応用」を推進するために、高感度試験法の開発に主軸をおき研究を推進していく。動物モデルを用いた高感度試験法の開発に関して、記憶機能の評価のために、これまでにも実施してきた文脈恐怖条件付け学習に加えて、水迷路学習課題を実施するための装置を導入し予備的な検討を開始した。この学習課題も加えて、高感度かつ総合的に食品成分の記憶機能改善に対する効果を検証するシステムを整えていく。 また、動物MRI画像解析に関しては、モデルマウス(糖尿病併発型アルツハイマー病モデル)とコントロールマウスの比較解析を進め、脳のどの部分に変化が生じているのかについて、MRI画像の観点から明らかにしていく研究を進める。そのためには、マウスの脳MRI画像(構造MRI画像、拡散MRI画像、そして機能MRI画像)を統計学的に比較解析するシステムを整備する必要性があり、そのための情報収集ならびに、画像解析用コンピューターソフトの開発を行う。既に、関連研究者との連携体制を構築しており、世界的な研究者間ネットワークを通じて、研究手法の開発を進める。 さらに、食品成分の効果を検証するためのヒト介入試験に関しては、マウス試験からその効果が立証されたイミダゾールジペプチドについて、この成分を多く含む食品素材を製造する食品メーカーと協力体制を築き、予備的なヒトMRI画像試験を実施することにより、この食品成分の脳老化に対する予防・改善効果を認めることができた。今後は、MRI試験に加えて認知機能検査を行うと共に、プラセボ試験食摂取群を加えることによりRCTに準拠したヒト試験を実施して、イミダゾールジペプチドの脳老化に対する改善効果を確かめていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
食品成分の脳老化に対する予防・改善効果を明らかにしていくためには、最終的には試験食群に加えプラセボ食摂取群を設定したヒト介入試験を実施していかなければならない。そのための準備として、動物モデル試験を用いた食品成分の効果検証ならびにその作用機能の解明、そして試験食群のみを設定した予備的なヒト試験をこれまでに実施し、イミダゾールジペプチドに関しては、脳老化の予防・改善を示唆する多くのデータを得ることができた。 食品成分の脳老化の予防・改善に対する確かな結果を得ていくために、研究計画においては試験食群のみを設定したヒト試験を実施する予定であったが、この計画を発展的に見直し、試験食群のみの研究データを既に得られたこともあり、RCTに準拠したヒト試験を実施する方向で、研究計画を改定した。そのためには、ヒト試験の予備的検討など、十分な準備を必要としたために次年度に経費を留保した。
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