2013 Fiscal Year Research-status Report
安定同位体比情報を用いた森林土壌中の総硝化量の原位置推定
Project/Area Number |
24658133
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大手 信人 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (10233199)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
徳地 直子 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 教授 (60237071)
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Keywords | 森林生態 / 生態系保全 / 窒素循環 / NO3- / 総硝化量 / 安定同位体比 / 同位体希釈法 |
Research Abstract |
森林生態系では、硝酸(NO3-)態窒素は植物や微生物にとっての可吸性が高く、これを中心に内部での循環が発達している。土壌中でのNO3-の現存量(プール)の消長には微生物による生成、大気降下物による流入、植物や微生物による吸収、水移動に伴う溶脱が関わる。従来からの培養実験では求められなかった総硝化速度(生成速度)を、NO3-の酸素安定同位体の自然存在比(δ18O)の変化から推定する方法を提案することを目的とする。大気降下物由来NO3-のδ18Oは、土壌中で生成されるNO3-のそれより著しく高く、これをトレーサとしてモニターすることによって循環の速さを推定することができる。本年度は、千葉県南部の東京大学附属千葉演習林、袋山沢水文試験地と、東京都中部の東京大学附属田無演習林に調査地を設け、土壌、土壌水等、試料の採取、分析を行った。大気降下物としてのNO3-のインプットは前者に比べて後者で著しく高く、土壌溶液中のNO3-濃度が常に前者の数倍~数10倍あることがこれまでの調査で明らかになっている。この2つの異なる条件下で、田無では上記の方法を適用した。、方法の妥当性を検証しつつ、総硝化量の推定に必要なデータの収集をおこなった。 この結果、桐生と田無の両方で、NO3-のδ18Oは土壌中で低下し、降水で供給されたNO3-が、土壌中で不動化され、新たに硝化菌によって生成されたNO3-に置き換わっていることが明らかになった。また、桐生の土壌中では深さ50cmまでの間でNO3-のδ18Oは緩やかに 低下するのに対し、田無の土壌では、A0層近くの浅い部位でδ18Oが急激に低下することがわかった。このことは、土壌中でのNO3-の 鉛直輸送の相違が影響していると考えられ、上記の浸透過程における土壌の物理特性の違いを把握する必要があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画において設定した野外実験サイトにおける試料の採取やそれらの分析は計画通りに進んでいる。前年、二つのサイトにおける大気降下物由来のNO3-の取り込みの状況に相違があることを見出したが、本年、土壌中における微生物による窒素形態変化に土壌の物理性が強く影響していることが確認された。 また、両サイトにおける表層土壌における総硝化速度を、15Nトレーサーを用いたプール・ダイリューションメソッドを用いて測定を行った。この結果、窒素の降下物量が少ない桐生では、有機態窒素の無機化の結果生成されるNH4+は、ほぼ全量不動化され、ほとんど硝化されないのに対し、窒素降下物量が多い田無では生成されたNH4+の半分以上が硝化され、また、NO3-の不動化量は総硝化量を下回っていた。この結果、桐生で、通常土壌中のNO3-のプールがわずかであるのに対し、田無では土壌溶液のNO3-濃度が極めて高いことのメカニズムが明らかになった。以上のように、フィールでのデータ収集と、実験室における総硝化量推定の測定は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度までに実施した野外観測は平成26年度まで継続し、データセットを作成する。 1)平成25年度に実施した、桐生試験地と田無試験地における15Nプール希釈法による総硝化量の推定に加えて、千葉県南部に位置する東京大学千葉演習林内の斜面試験地で新たに、無機化・硝化量の測定を実施する。これは、斜面部位における水分等の環境条件の相違が窒素形態変化動態にどのように影響するかを明らかにするためである。これまでの2サイトと同様に15Nプール希釈法による推定を実施する。 2)桐生、田無サイトのデータを整理し、水移動に伴うNO3-の鉛直方向の溶脱の効果の検討を行う。土壌中の雨水の鉛直浸透に伴うNO3-の移動を考慮するため、まず、コンパートメントモデルを作成し、飽和-不飽和浸透理論に基づいた数値計算モデルで鉛直一次元の水移動を計算する。モデルは申請者の研究室で現有のコードを用いる。入力データとしては、測定されている林内雨量を用いる。この水移動に従い、NO3-イオンが流下すると仮定し、マスバランスの計算を下層方向に拡張する。これによって、NO3-濃度、安定同位体比の鉛直プロファイルをシミュレートし、同位体比の鉛直分布の形成における水移動による溶脱の効果を評価する。 3) 千葉サイトの総無機化量、硝化量のデータを、関連微生物の活性の面から検討するため、総硝化量・無機化量測定を実施したポイントの土壌からバクテリア、アーキアの遺伝子を抽出し、アバンダンス、多様性を評価する。
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