2012 Fiscal Year Research-status Report
セルロースを触媒とする新規イオン重合による材料の創製
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24658157
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
坂口 眞人 静岡県立大学, 環境科学研究所, 教授 (40113328)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2013-03-31
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Keywords | セルロース / メカノイオン / ESR / イオン的切断 |
Research Abstract |
再生可能資源であるセルロースを触媒とし、重金属触媒を使用しない、カウンターイオンが存在しない、有機溶媒を使用しない低環境負荷固相反応による新規イオン重合法の開発を目指した。具体的には、セルロースの機械的破壊により主鎖のβ-1,4結合がイオン的に切断し、セルロースメカノイオンが生成すること、このメカノイオンがイオン重合の触媒となり、新規化合物が生成することを立証するとともにその反応機構を明らかにすることを目的としている。 ① セルロースβ-1,4グルコシド結合の不均一切断によるセルロースメカノイオン生成の立証 セルロースのモデル化合物として微結晶セルロース(MCC)を用いた。ガラス製粉砕子の入っている特注のガラス製ボールミル中に前もって真空乾燥したMCCと強力な電子捕捉剤であるテトラシアノエチレン(TCNE)を共存させ、これを真空中77 Kにおいて自作の振動型ボールミル装置を用い、機械的破壊を行った。粉砕後の試料から観測されたESRスペクトルを自作のコンピュータープログラムによる解析からTCNEアニオンラジカル(TCNE-•)が同定できた。即ち、MCCの機械的破壊によりセルロースメカノアニオン(Cell-)が生成されたことが実証できた。 ② セルロース触媒;Cell-によるアニオン重合性モノマーの重合開始能と重合体の評価 ガラス製ボールミル中でε-カプロラクトン存在下MCCを真空中77Kで機械的破壊後、粉砕試料のESR観測を行った。ESRスペクトルの解析からラジカル重合は起こっていないことが確かめられた。FT-IR観測からは明確な高分子重合体は確認できなかった。今後、ε-カプロラクトンばかりではなくスチレンを用い、Cell-のイオン重合触媒としての性能を検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
セルロースの機械的破壊により主鎖のβ-1,4結合がイオン的に切断し、セルロースメカノイオンが生成すること、このメカノイオンがイオン重合の触媒となり、新規化合物が生成することを立証するとともにその反応機構を明らかにすることを目的としている。 そこで、まず、セルロースβ-1,4グルコシド結合の不均一切断によるセルロースメカノイオン生成の立証とその生成機構の解明を試みた。 セルロースのモデル化合物であるMCCを真空中373 Kで7時間真空乾燥し、水分を除去した。ガラス製粉砕子の入っている特注のガラス製ボールミル中にMCCとTCNEを共存させ、77 Kで2時間真空に引き、酸素を除去した。真空中77 Kにおいて自作の振動型ボールミル装置を用い、TCNE存在下MCCの機械的破壊を21時間行った。観測されたESRスペクトルを自作のコンピュータープログラムによる解析からTCNEアニオンラジカル(TCNE-.)が同定できた。即ち、MCC主鎖のβ-1,4グリコシド結合が不均一に切断して、Cell-が生成し、TCNEがCell-から電子を引き抜 TCNE-.となったことを実証できた。 次にセルロース触媒;Cell-によるアニオン重合性モノマーの重合開始能と重合体の評価を試みた。 ε-カプロラクトン中の酸素を除去した後、ガラス製ボールミル中でMCCを真空乾燥し水分を除去したMCCと接触させた。これを真空中77 Kで21時間機械的破壊を行った後、粉砕試料のESR観測を行った。ESRスペクトルの解析からラジカル重合は起こっていないことが確かめられた。FT-IR観測からは明確な高分子重合体は確認できなかった。今後、ε-カプロラクトンばかりではなくスチレンを用い、Cell-の触媒としての性能を検証する。
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Strategy for Future Research Activity |
研究目的の1:セルロースβ-1,4グルコシド結合の不均一切断によるセルロースメカノイオン生成の立証とその生成機構の解明は進捗し、成果をJ. Phys. Chem. A, 2012, 116, 9872-9877に発表できた。 しかし、研究目的の2:Cell-によるε-カプロラクトンの重合開始、高分子体の合成の確認には至らなかった。今後は、Cell-によるスチレンのアニオン重合の開始、重合体の生成を試みる。また、Cell+によるイソブチルビニルエーテルのカチオン重合を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本申請研究は24年度単年度であったため、Cell-あるいはCell+開始剤によるイオン重合体の合成とその反応機構解明のために基金の一部を繰り越した。Cell-およびCell+を減衰させないとともに副反応等を抑制する為に77Kでの条件で実験を行う必要がある。このため1回の実験に30Lの液体窒素(\6,000/L)が必要であり、その費用に充てるとともに特注ガラス製ボールミル等の購入費用に充てる。
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