2013 Fiscal Year Research-status Report
深海性二枚貝類の生存戦略 -硫化水素応答機構の解明-
Project/Area Number |
24658187
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
小糸 智子 日本大学, 生物資源科学部, 助手 (10583148)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
牧口 祐也 日本大学, 生物資源科学部, 助手 (00584153)
|
Keywords | セロトニン受容体 / シチヨウシンカイヒバリガイ / 心電図 |
Research Abstract |
深海熱水噴出域は他の深海底に比べて非常に高濃度の硫化水素が存在するが、そこに生息する無脊椎動物の多くは、細胞内外に硫黄酸化細菌などの化学合成細菌を共生させ、共生菌が産生する有機物に依存している。しかし、これらの生物が環境中の硫化水素の存在や濃度を認識しているかは明らかにされていない。 本研究では、深海性二枚貝であるシチヨウシンカイヒバリガイと浅海性二枚貝のムラサキイガイの環境中の硫化物に対する応答機構を比較するため、体内でセロトニンを受容するセロトニン受容体遺伝子の動態と心拍数について実験を行なった。試料は2013年4月に伊豆・小笠原海域の明神海丘から採集したシチヨウシンカイヒバリガイを用いた。比較に用いたムラサキイガイは、広島県の養殖個体を購入した。両種の鰓から全RNAを抽出したのち、セロトニン受容体cDNAを単離後配列決定し、TaqManプローブを設計した。飼育実験は、水温を10L水槽に15個体のシチヨウシンカイヒバリガイもしくはムラサキイガイを入れ、毎時5mlの硫化ナトリウム溶液(25mg/ml)あるいは海水(対照群)を添加した。24時間、48時間後に6個体ずつ解剖し、鰓から抽出したRNAを用いてリアルタイムPCRを行なった。また、同条件下で貝に双極電極を装着し、心電図を導出した。 シチヨウシンカイヒバリガイ、ムラサキイガイ両種の鰓から約500塩基のセロトニン受容体cDNAを得た。リアルタイムPCRの結果、両種とも対照区ではほぼ増減がなかったが、硫化物添加条件ではセロトニン受容体mRNAが経時的に減少する傾向がみられた。一方、心電図の解析結果において、シチヨウシンカイヒバリガイはムラサキイガイに比べ馴致中の心拍数が少なかったものの、シチヨウシンカイヒバリガイは硫化物添加によりさらに心拍数が減少し、ムラサキイガイでは若干増加する傾向がみられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で得られたシチヨウシンカイヒバリガイとムラサキイガイセロトニン受容体mRNAの発現動態と心電図は2種間で異なる応答を示した。この原因を解明するには、まず心電図を測定する個体を増やして再現性を確認することが肝要である。また、異なる応答を示す理由として、セロトニン量の多寡が考えられるため、鰓以外の組織での発現定量を行なうとともに、直接定量を行なって種間比較する必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
カテコールアミン類は、セロトニン以外に、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどが知られている。無脊椎動物はアドレナリンベースの神経制御ではなく、セロトニンやドーパミンを多量に分泌することで制御していることが示唆されてきた。セロトニンとドーパミンは興奮と抑制という、相反する作用があることから、ドーパミン量やその輸送体の動態についてもセロトニンと併せて明らかにすることで、より神経制御を詳細に解明できる可能性がある。特にセロトニン輸送体とドーパミン輸送体は溶質キャリヤータンパクがミリー6(SLC6)ファミリーという同じ輸送体ファミリーに属することが知られているが、無脊椎動物から単離され、輸送特性などの機能まで明らかになっている輸送体はほとんどない。したがって、今後これらの輸送体を単離し、SLC6ファミリーの分子進化を解明したい。 二枚貝類において、組織中のカテコールアミンを定量した研究はあまり多くないが、HPLC-ECDを用いて採集直後のシチヨウシンカイヒバリガイ組織中のカテコールアミン類を定量したところ、ノルアドレナリンは外套膜に最も多く、それ以外の組織ではほとんど検出されなかった。アドレナリンは概ねどの組織でも同じ量が検出された。そしてドーパミンは鰓と外套膜に多く、足からはほとんど検出されなかった。しかし、硫化物添加個体群の定量を行なっていないので、今後継続して組織中からの定量を行なっていく予定である。さらに、生物の神経制御には前述のGABAを介する制御に加え、グリシン作動性ニューロンによる制御も存在する。グリシンは特に海洋無脊椎動物が多量に蓄積していることが知られており、浸透圧調節のために用いられていると考えられてきたが、神経制御に関与している可能性も十分考えられるため、HPLCによる低分子アミノ酸の定量を行ない、浅海性二枚貝類と比較したい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では飼育条件の検討等に必要なシチヨウシンカイヒバリガイの個体数を確保できなかった。また、研究の遅延により、助成金を確保していたセロトニンの直接定量が行なえなかったため、約500千円の未使用額が生じた。しかし、研究遂行中、次年度にセロトニンの直接定量の実験系を確立できる見通しがついたため、試薬や消耗品を購入するための費用として次年度に使用したいと考えた。 次年度は調査研究旅費(200千円)および対照となるムラサキイガイの購入費(3千円)を計上する。また、セロトニンのECD-HPLCによる直接定量、リアルタイムPCRによるセロトニン受容体遺伝子の発現定量に係る薬品代(200千円)および消耗品代(100千円)を計上する予定である。
|