2012 Fiscal Year Research-status Report
哺乳類卵の減数分裂制御に対するLTRトランスポゾンの関与の検討
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24658232
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
内藤 邦彦 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (20188858)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2013-03-31
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Keywords | 応用動物 / 畜産学 / 卵成熟 / レトロトランスポゾン / MAEL |
Research Abstract |
本研究では、哺乳類ゲノム中に多数存在し、通常は寄生遺伝子として我々に害を与えると考えられている内在性レトロウイルス由来のLTR転移因子(LTR-Te) が、実は害を与えるのみではなく哺乳類がこれを利用し、我々の生理作用に関与しているとの報告に注目し、予備実験の結果も踏まえ、LTR-Teと減数分裂再開に関連があるとの仮説を立て研究を行った。具体的には人為的にLTR-Teの量をさせた卵に起こる変化を詳細に調べること目的とした。 ブタ卵を材料に用い、LTR-Teの量を変化させる方法として、当初はLTR-Te抑制に関与するpiRNA合成系の因子であるPIWIの人為的変化を計画した。しかしPIWI発現量の人為的変化では期待通りのLTR-Teの変動を得ることができなかった。 そこで当初の予定を変更し、同じpiRNA合成系への関与が雄で示されているMaelstrom(MAEL)を用いることにし、ブタMAELの遺伝子をクローニングした。その結果、遺伝子バンクに登録されているブタMAELの遺伝子配列は1塩基間違っていることを見出した。また、哺乳類卵におけるMAELの存在、変動等を調べた。その結果、哺乳類卵には2種類の分子量のMAELが存在し、そのいずれも精巣内のMAELとは分子量が異なること、卵の成熟開始とほぼ同時に恐らくリン酸化されSDS電気泳動ではシフトアップが起こること、成熟に伴い発現量が減少することを哺乳類卵で初めて明らかにした。なお、免疫染色によるMAELの局在の解析も試みたが信頼のおけるシグナルが得られなかった。 今後MAELのmRNAとアンチセンスRNAを in vitro合成し、ブタ卵への注入実験を行いLTR-Te量を変化させ、減数分裂進行に対する作用を調べていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
LTR-Teの量を変化させる方法として、当初はLTR-Te抑制に関与するpiRNA合成系の因子であるPIWIの人為的変化を計画した。すなわちブタPIWIであるpPIWIL1およびpPIWIL2の遺伝子をクローニングし、この発現を抑制してpiRNA合成系を阻害することによってLTR-Teの発現を高める予定であった。しかしPIWI発現量の人為的変化では期待通りのLTR-Teの変動を得ることができなかったことは誤算であり、そのため順調に推移しているとは判断し難い状況である。 なお上にも記したが、当初の予定を変更し同じpiRNA合成系への関与が雄で示されているMAELを用いることにして、ブタMAELの遺伝子クローニングにとりかかった。これは既に終了しており、遺伝子バンクに登録されているブタMAELの遺伝子配列が1塩基間違っていることを見出すに至っている。さらに、哺乳類卵におけるMAELの存在、変動等も既に調べ、結果を得ているため、達成度としてはやや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後MAELのRNAを in vitro合成し、ブタ卵への注入実験を行いLTR-Te量を変化させ、減数分裂進行に対する作用を調べていく予定である。なお、作成するRNAは全長のmRNAおよび部分配列に対するアンチセンスRNAとする。全長mRNAは過剰発現に、アンチセンスRNAは発現抑制に使用する。また、免疫染色によるMAELの局在解析では信頼のおけるシグナルが得られなかったため、FLAGをタグを付加したMAELを発現するmRANの合成も行い、抗FLAG抗体を用いてMAELの局在解析も行う予定である。 MAELの発現量を人為的に変化させLTR-Teを操作できるかを確認した上で、卵の減数分裂の進行を核相観察と免疫ブロットによる減数分裂関連因子の動態解析により、また紡錘体の形態などについて、光学顕微鏡による染色体の状態観察と紡錘体構成因子の免疫染色と通して詳細に調べていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究材料のブタ卵は屠場(東京芝浦臓器:品川)より購入した卵巣(1個250円)より採取する。試薬としては遺伝子工学用の各種制限酵素、DNA/RNAの合成/分解酵素、PCR用プライマーが主で、卵培養、免疫ブロット、免疫染色、酵素活性測定の試薬が加わる。またキットとしてRNAのin vitro合成、免疫ブロットのバンド検出などが必要になる。 抗体は、減数分裂の状態を調べるための細胞分裂関連因子、およびタグに用いるFLAGに対する免疫ブロット用、免疫染色用の一次抗体、および検出用の二次抗体である。 プラスチック器具としてはチップ、各種チューブ、培養シャーレ、ろ過滅菌フィルター、注射筒、ポリ手袋等で、多くは使い捨てとせざるを得ず、毎月大量に消費する。さらに顕微注入用のピペット作成、および卵操作用のキャピラリーピペットの作成用にガラス器具としてガラス管、パスツールピペットも必要になる。 以上、次年度の研究費は大部分がお消耗品費とする必要があり、本研究で得られた結果を国内の学会で公表するための国内旅費を5万円、また、本実験の遂行にあたり、実験補助をお願いする場合があり謝金を5万円計上し、残りを消耗品費とする。
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