2012 Fiscal Year Research-status Report
絶滅危惧動物の飼育集団に関するDNA多型と血統の情報による集団構造解析手法の開発
Project/Area Number |
24658235
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
祝前 博明 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00109042)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 絶滅危惧動物 / コウノトリ / 人工飼育集団 / 一塩基多型 / 次世代シークエンサー / 遺伝的多様性 |
Research Abstract |
国内コウノトリ集団への貢献度の高い個体に対して、大規模シークエンサーを利用したreduced representation library (RRL) 法を適用し、一塩基多型(SNP)候補を検出するとともに、各個体のマーカー型を決定した。 まず、1羽の血液サンプルから、高品質のゲノムDNAを精製し、様々な4塩基認識の制限酵素でゲノムDNAを切断して、その電気泳動パターンから適切と考えられる制限酵素を選択した。次に、選択した制限酵素で切断したゲノムDNA断片を電気泳動し、サイズフラクションごとにゲノム断片を精製して、ライブラリー作製の最適条件として制限酵素とサイズフラクションの組み合わせを決定した。続いて、国内コウノトリ集団の家系情報をもとに寄与率の高い5羽の基礎個体を選定して、決定した条件に従ってライブラリーを作成し、ライブラリーに含まれる全ゲノム断片の両端100bpの塩基配列をイルミナ社のシークエンサーHiSeq2000を用いて決定した。 HiSeq2000によるシークエンスデータの概要は、全体での総リード数、トリミング後の総リード数およびフィルタ済み総リード数は、それぞれ約1億8千6百万、約1億7千6百万および1億2千7百万であった。5 羽の個体ごとのフィルタ済み総塩基数に占める高品質塩基数の割合は、いずれも約93%であり、個体ごとのフィルタ済み総リード数は約3千万から2千2百万の範囲であった。SNP候補の検出では、全体で約6千4百万のリード・ペアデータから約1千万のコンセンサス配列が作成された。バイオインフォマティクスを使用して必要な編集を行った結果、最終的に5羽の個体のすべてについてマーカー型データが得られたSNP候補として、ゲノムの全域にわたる約3万5千箇所を検出した。コウノトリについてのこのような多量のSNP候補の検出は、世界で初めての成果と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、国内コウノトリ集団への貢献度の高い個体について、大規模シークエンサーを利用してゲノムの全域にわたる多量のSNP候補を検出し、各個体のマーカー型を決定するとともに、それらのマーカー型の情報を用いた個体間のゲノム配列の類似性とゲノム関係行列の評価を目的とした。これらのうち、予定課題の9割を占める最も重要な課題である多量のSNP候補の検出と各個体のマーカー型データの取得に成功した。取得した多型データによる個体間のゲノム配列類似性とゲノム関係行列の評価は目下実施中であり、4月末には完了する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で解析の対象とした5羽の基礎個体の後代群の血統データを取り上げ、血統解析により、各後代個体の近交係数、個体間共祖係数などの基本的パラメータの値を評価するとともに、ゲノムに関する有効数などの集団遺伝学的パラメータを算出する。次に、平成24年度に取得した多量のSNP候補のマーカー型データから、5羽の基礎個体間の複数の遺伝的関係行列を評価し、これらの遺伝的関係の情報を後代群の血統情報と統合した集団遺伝学的解析を実施して、血統解析による結果と比較する。また、国内コウノトリ人工飼育集団の遺伝的多様性の評価を行う。 さらに、5羽の基礎個体についての多量のSNP型データをより有効に利用するため、当初の研究計画では挙げていなかった主成分分析を追加的に実施して、多変量解析の観点からの基礎個体間の遺伝的関係の情報も得ることとする。また、RRL法に関わるライブラリーの作製条件すなわち制限酵素とサイズフラクションとの組み合わせに関して、追加実験を行い、先に決定した組み合わせが最適であることを再確認する。 なお、本研究での一連の数値解析に係る演算プログラムについては、絶滅危惧動物の人工飼育集団における公式利用に供するため、当初はパッケージ化を図ることを目的としていたが、平成24年度において数値解析の組み立ての観点から検討を加えた結果、既存の複数のプログラムを賢明に組み合わせることにより実施可能と考えられた。そこで、既存のどのようなプログラムをどのように組み合わせることによって実施できるか、その仕様をまとめ、提供することとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「次年度使用額」の約60万円は、平成24年度に配分を受けた総研究費が申請額を下回ったため、研究の対象個体数、すなわちライブラリー作成や次世代シークエンサーによる解析の対象個体数を減らさざるを得なかったことに依る。 結果的に、平成25年度においては、概して120万円の研究費を使用する。平成25年度には、平成24年度に取得したSNPマーカー型データの数値解析研究が主体となるが、素データ量が多量であるため、適当なパソコンとワークステーションの購入を予定し、合わせて60万円を充てる。また、ライブラリー作製の最適条件の検証実験および数値解析に関わる消耗品費として30万円、研究成果の学会発表等のための旅費として30万円を充てる予定である。
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