2012 Fiscal Year Research-status Report
サツマイモの「つるぼけ」特性を活用した土壌セシウムの吸収浄化と回収植物体の処理
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24658279
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
増田 泰三 県立広島大学, 生命環境学部, 准教授 (30347611)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 環境浄化 / 土壌セシウム / サツマイモ / つるぼけ |
Research Abstract |
原発事故により放出された放射性物質で問題視されているのは半減期が比較的長いセシウム(Cs)-137であり、農地土壌等からの除去が必要でCs集積植物栽培による吸収浄化が有望と考えられる。サツマイモは窒素(N)やカリウム(K)の土壌からの収奪量が大きく、N吸収が増大すると茎葉生育が促進されて根は細根になる「つるぼけ」特性を持ち塊根肥大のためにK要求性が高くなる。この特性を活用して吸収ではKと競合するが、よく似た性質を持つCsの土壌からの吸収浄化を行うことができると考えられる。 砂質と粘土質の圃場で、N(3、10、20、30g/m2)とK(5、10g/m2)の施肥レベルを組み合わせ、非放射性の塩化セシウム試薬を50g Cs/m2表層施用した。茎葉生育が旺盛で多収のコガネセンガンのつる苗を30cm間隔で植え付け、栽培後の植物体と土壌を分析した。また、真砂土のポットで 3、10g N/m2と5、10g K/m2の施肥で非放射性Csを50g/m2表層施用してベニアズマのポット苗を植え付けて栽培し、Cs動態を調査した。さらに、圃場栽培植物体の茎葉を用いて植物体の交換態イオン抽出法を適用し、試料の性状や形状によるCs抽出を検討した。 圃場ではCs吸収は砂質土で高く、粘土ではK等の他の陽イオン吸収量が多く競合によりCs吸収量は低かった。粘土ではビニールマルチでCs吸収が増加し、マルチ下の表層土に根の密生が認められた。ポットでは栽培後に大部分のCsが土壌に残留し、固定態80%、交換態20%で、水溶性はごくわずかであった。圃場栽培植物体茎葉からのK抽出割合は全て100%であったが、Csは新鮮物細断と乾物微粉砕が最大で67%で、抽出でもKとの競合があると考えられた。 サツマイモの「つるぼけ」は認められず、Cs施用量が多過ぎたため、植物体移行係数は圃場0.01、ポット0.03の最大値であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
農家や家庭菜園では窒素肥料を与え過ぎてイモの収穫が不十分であったという話を聞くことがあるが、サツマイモ栽培の標準施肥は3g N/m2と10g K/m2とされている。これまでに「つるぼけ」を起こさせる実験が行われたことはなく、今回の実験で試みた施肥レベルの30g N/m2と5g K/m2でも「つるぼけ」を起こさせることができなかった。また、つる苗移植栽培と直播栽培との比較のためにコガネセンガンの種イモを採取しガラス温室で保存していたが表皮層が凍結後に解凍して直播利用不可能となった。 九州沖縄農研サツマイモ育種グループでの情報収集では、「つるぼけ」という性質は育種の過程で排除され、すでに「つるぼけ」しやすい系統などは保存されておらず入手することはできなかった。また、今回用いた茎葉の生育が旺盛で多収のコガネセンガンは「つるぼけ」し難い品種で、近年はしっかりと茎葉を生育させ、塊根収量を確保するという考えで8g N/m2で行われているということ、また種イモ保管庫の適温は13~15℃でコガネセンガンは保管し難い品種であること等をはじめとして多くの有用な情報を入手することができた。これらの情報をサツマイモの「つるぼけ」特性を活用した土壌セシウムの吸収浄化の向上の実験に活用していく。
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Strategy for Future Research Activity |
サツマイモの「つるぼけ」特性を活用した土壌Csの吸収浄化のため、「コガネセンガン」を用いる実験では「つるぼけ」をさせて吸収と地上部への移行を促進するために窒素施肥量を50や100g N/m2に増加させ、また、カリウムは必須栄養素であるため0g K/m2の無施肥は行わなかったが、土壌からの供給量のみに依存する施肥区も設定して競合を減らし、さらに、放出され飛散したCsの放射性物質としての強度は高かったが物質量としては非常にわずかであったため、施用量を減らして土壌Cs吸収の促進について検討する。 九州沖縄農研サツマイモ育種グループで育成された茎葉を食用とする葉取りサツマイモの「ヘルシー菜・すいおう」という品種は茎葉の再生能が高いということから、この品種のポット苗を購入して実験を行う。 サツマイモ栽培の作業体系ではつる苗の作製に多大の労力を要し、省力化のためには直播栽培が考えられるが、種イモを直接または適当な大きさに分割してジャガイモのように植え付けると、親イモが肥大して子イモの生育は抑制されるため、つる苗移植栽培が行われている。直播栽培でのこの現象は「つるぼけ」症状と同様であると考えられるため、つる苗移植栽培と種イモ直播栽培でのCsの吸収および移行の効率を比較検討する。貯蔵に失敗したコガネセンガンの種イモの購入は困難であったため、市販されているサツマイモの鳴門金時を購入し、また鳴門金時のつる苗も入手して実験を行う。 回収される多量の植物体の処理や処分に関しては、Csを吸収させた圃場栽培植物体の茎葉を用い、焼却による減容化におけるCsの飛散などのフローを解析し、植物体の交換態イオン抽出法を用いた抽出割合の向上では酸の種類や濃度について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
植物体や土壌のCsやK等の分析における前処理の時間効率向上のために、初年度にマイクロウェーブ分解・反応装置の購入を予定していたが、間接経費が差し引かれた配分額では、販売されている多くのメーカーの機種を比較検討し、業者に最大限の値引きで見積もりを依頼したが、購入金額が物品費の90%を超えるために購入をすることができなかった。前処理には時間を要するが従来通りグラファイトブロック酸分解システムを用いる。 次年度以降は、サツマイモつる苗の購入や直播栽培との比較のための塊根の採取と保管等の経費を含めた種イモの購入や栽培用資材および分析と研究成果発表のために研究費を使用していく。
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