2014 Fiscal Year Research-status Report
サツマイモの「つるぼけ」特性を活用した土壌セシウムの吸収浄化と回収植物体の処理
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24658279
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
増田 泰三 県立広島大学, 生命環境学部, 准教授 (30347611)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 環境浄化 / サツマイモ / つるぼけ特性 / 土壌セシウム吸収 |
Outline of Annual Research Achievements |
サツマイモの茎葉はつる性であるがバイオマス生産は大きく、広い環境適応性を持ち、土壌の窒素(N)やカリウム(K)吸収能が高い収奪型で、施肥N増加に伴って吸収も増大して地上部の生育が促進され、塊根は肥大しない「つるぼけ」特性を持ちK要求が高くなる。この特性を活用して化学的性質が類似する原発事故での放射性物質の飛散により土壌を汚染したセシウム(Cs)吸収が可能ではないかと考え、砂質と粘土質土壌で非放射性Csを1g/m2表層施用し、5g K2O/m2でN施肥を変えて葉取りサツマイモのヘルシー菜・すいおうを栽培した。N(g/m2)は基肥5、50、100とし、砂質土壌でのみ50と100を4等分した3回刈取の追肥区を設定した。 全区で塊根が形成されたが、砂質土壌でN施肥の増加に伴い茎葉生育が促進され、塊根肥大は抑制されたため、つるぼけ状態となった。地上部の茎葉生育とNおよびKの吸収は全量基肥100N区で最大で、刈取追肥区は刈り取った茎葉を加えた合計の生育量でも小さかったがN吸収は同等でCs吸収は刈取追肥区で大きく、地上部移行集積割合も高かった。茎葉の再生のために養分吸収等が活発に行われるためと考えられたが、繁茂した葉身と葉柄のつるからの刈取は手間と時間を要する作業であった。砂質土壌の多N区ではCs吸収と茎葉への移行割合は高く64~79%が地上部に集積し、栽培後土壌のCsの交換態/全量の割合は30~35%であった。 粘土質土壌でもN施肥の増加に伴って茎葉の生育は増大したが塊根も肥大し、つるぼけは認められなかった。NとKおよびCs吸収も生育と同様でK供給能が高いことが示され、Cs吸収は収支(吸収量/施用量)が0.14~0.21で砂質土壌よりも小さく、地下部の塊根に83~85%が集積した。Csの全量-交換態の割合は85~88%と高く、植物が吸収できない粘土鉱物による固定の多さが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
サツマイモはつるぼけしやすいといわれ、農家や家庭菜園等ではN肥料を与え過ぎてイモの収穫が不十分であったという話を聞くこともあるが、これまでに「つるぼけ」を起こさせた栽培実験の報告は無く、標準施肥の3~5g/m2より多いN施肥で栽培したことが無かったため、目的とする適切な実験条件の設定に手間取った。標準施肥の10倍量等でバイオマス生産量の大きい茎葉が繁茂する品種を用いたがつるぼけし難く、サツマイモでは新たな子イモが肥大しないといわれる種イモ直播を試みたが親イモの肥大が著しく大きかった。また近年の多用途な品種育成の過程でつるぼけし易いという特性は望ましくないので排除されるため、目的に合う品種や系統等を探し出して利用することができなかった。 試行錯誤の結果、茎葉利用品種として近年育成された繁茂し再生能等の高い葉取りサツマイモのヘルシー菜・すいおうのメリクロンポット苗を用い、標準施肥Nの20~30倍量施用が実験の目的に有効であると考えられた。利用可能な砂質または粘土質の土壌で栽培実験を行い、分析によって基礎的なデータや知見を、ようやく得ることができた。期間延長を申請し、繰り越して頂いたので再現性確認のための追加実験等を行う。また、この間に土壌中でのCsの動態に関する研究報告等で、様々な困難な状況や実態が明らかになり、汚染原因物質のCsを土壌中から植物を用いて吸収除去することの困難さが示されているが、それらの対策について考察を続けるとともに、これまでに実施してきた実験結果を用いて学会発表等をはじめとした研究報告を行う計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
サツマイモのつるぼけ特性を活用した土壌Csの吸収に関して、塊根も形成されて肥大するが茎葉利用品種である葉取りサツマイモのヘルシー菜・すいおうのポット苗を用い、標準施肥Nの20~30倍量である50~100gN/m2の施用が実験に有効であることが明らかになった。多量のNを施肥してもサツマイモの吸収能は高いのでNは吸収されるが、硫酸アンモニウムを用いると土壌に残る硫化物イオンによって栽培後土壌の生理的酸性化の悪影響が考えられるため、緩効性の化成肥料や被覆尿素を用いた砂質土壌のポット栽培で再現性等の確認実験を行う。 放出され飛散して集積したCsの放射性強度は高いが物質量は非常に少ないことが明らかにされ、土壌中のCs動態の研究報告等によって汚染原因物質のCsを土壌中から植物を用いて吸収除去することの困難な状況や実態が明らかにされている。福島県の主な耕地土壌はグライ土、灰色台地土、黒ボク土、黄色土等で、使用可能な粘土質のグライ台地土と砂質の黄色土圃場で実験を行ってきた。土壌に集積したCsのサツマイモのつるぼけ特性による吸収は、砂質土壌での効果は降下初期には期待できると考えられるが、粘土質土壌での効果はほとんど期待できず、砂質土壌の少ない粘土鉱物量でも土壌表層に集積するCsは粘土鉱物層間のフレイド・エッジ・サイトに吸着して固く保持されることにより、植物による吸収は困難になるという報告もある。イネの栽培では多量のK施肥で競合させることによるCs吸収抑制が可食部の放射性物質による汚染を防ぐためには最も効果的で実践されている。固定態のCsに対しては植物による酸等の分泌による風化の促進も考えられ、植物によっては鉱物の構成成分(ケイ酸)ごと溶かしてK獲得が可能であるという報告があり、サツマイモはこの能力が高いと考えられる。課題に対する考察を継続するとともに、実施してきた実験結果の報告を行う。
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Causes of Carryover |
サツマイモはつるぼけしやすいと言われるが意図して行ったことが無いため、数品種のつる苗移植や種イモ直播で標準の10倍量等のN施肥を行ったが、つるぼけ状態にはならず想定通りの実験を行うことができなかった。検討の結果、26年度に行った葉取りサツマイモ・ヘルシー菜メリクロン苗の30倍量多Nと低K施肥が有効と考えられた。25年度には学会で研究発表をしたが、十分な研究成果報告を行うことができなかったため、未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験の供試材料や条件設定等について確実な見通しが付いたので、処理区やサンプル数を絞ったポット栽培で十分な解析と検討を行い、再現性等についても確認する。26年度の研究結果を次年度の学会で発表して、次年度の実験結果も加えて論文の作成や投稿を行うことにし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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