2012 Fiscal Year Research-status Report
廃棄される柿の蔕の天然資源としての可能性に関する研究
Project/Area Number |
24659056
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
石井 康子 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (00106436)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梅原 薫 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (40185070)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 薬用資源学 |
Research Abstract |
吃逆(しゃっくり)に有効であるとされる柿の蔕は、その有効成分も作用機序も全く分かっていないが、民間薬としてばかりでなく臨床現場でも使用されている。しかし、その調製の煩雑さから、抗てんかん薬や抗精神病薬が代用されることが多く、持続性・難治性吃逆が高齢者やがん患者などに多く発症するため、より安全で有効性の高い治療薬の開発が望まれる。そこで、吃逆治療薬の開発を最終目標とし、柿蔕の天然資源としての可能性を明らかにするため、神経伝達物質に及ぼす影響を指標として、柿蔕中の生理活性成分を探索する。 1.探索の指標となる神経伝達物質の選択のために、柿蔕の対象症例や治療経過を臨床現場で調査を行うことにした。沼津市立病院にて吃逆を発症し、柿蔕液を処方される入院患者を対象に、自己評価表を用いて、柿蔕液服用による治療効果の前向き調査を開始した。調査が可能であった症例は3例のみであったが、このうち2例で柿蔕の有効性が認められた。 2.探索の指標となる神経伝達物質の特定を行うため、脳内GABA抑制系、ドパミン神経系に及ぼす影響を検討することにした。脳脊髄液(CSF)中アミノ酸やカテコールアミンの測定系を確立し、臨床現場で吃逆の治療に適応外使用されている抗てんかん薬であるガバペンチン(GP)を対照とし、ラットを用いて柿蔕液の影響を検討した。GPにCSF中Asp濃度を低下させる傾向を認めたが、柿蔕についてはバラツキが大きくその影響を確定できていない。また、ドパミンの代謝物であるHVAのCSF中濃度が、柿蔕により上昇し、GPでは逆に低下する傾向を認めた。 3.より活性が高い柿蔕から活性物質を単離するために、探索の対象試料として様々な産地・品種の柿蔕を収集することにした。柿は完全甘柿・完全渋柿・不完全甘柿・不完全渋柿の4種に分類される。これらグループに属する1種以上の柿を選択し、未熟期と完熟期の蔕の採取を完了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
1.沼津市立病院にて柿蔕液服用による治療効果の前向き調査を開始することは出来たが、24年度に、吃逆を発症し治療を受けた入院患者数が少なく、自己評価表を用いて追性調査が出来た患者が3名だけであったため、その評価には至らなかった。 2.柿蔕投与により、対照としたGPでは認められないCSF中HVA濃度の上昇を認めたが、脳内アミノ酸については再現性の良い結果が得られず、柿蒂の活性成分を分離するための指標を確定するには至っていない。これは、時間的な制約から期間内に行えた例数が限られていたことも大きな原因であるが、柿蔕には血圧等に影響を及ぼす成分も含まれている可能性が指摘されており、高濃度の柿蔕液を投与することで、麻酔下でCSFを採取する際に、実験系に何らかの影響を与えた可能性がある。また、臨床における事前調査で柿蔕に著効を示した患者では即効性が認められたため、探索のための作用時間を1-2時間としたが、効果を確認するには不十分であった可能性もあり、正確なアッセイには実験系を見直す必要がある。なお、当初測定予定のサブスタンスP (SP)については、簡単な前処理で測定が可能との情報から測定を試みたが、共雑物質が測定を妨害することが判明し、前処理方法を検討中である。 3.探索の対象試料とするために、様々な品種の採取時期の異なる柿蔕を収集出来たが、抽出エキス調製には至らなかった。柿の蔕の入手については、予定していた静岡県農林技術研究所 果樹研究センターの協力が得られず、各柿の産地のJA等に協力を依頼して得た柿から蔕を採取したため、柿の収集とその後の処理に、当初考慮していなかった多大な時間を費やし、他の実験の遂行に影響をもたらした。
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Strategy for Future Research Activity |
1.例数の確保のために、柿蔕液の臨床における治療効果の前向き調査を、研究期間内は引き続き継続することにした。また、本研究に先立って行われた聖隷浜松病院における「吃逆発症患者背景と柿蒂液使用実態のレトロスペクティブなカルテ調査」結果と比し、柿蔕処方全患者における有効率に差がある可能性が認められた。これには、施設により柿蔕液調製法に差があることが原因している可能性もあるため、柿蔕液の調製法と効果との関係についても検討を行う予定である。 2.探索の指標となる神経伝達物質の特定を行うためには、まだ十分な例数が無く、指標を確定するには至らなかったが、現在までの結果を踏まえ、CSF中HVAとAspが探索の指標となり得るかを研究協協力者と評価する予定である。また、予備実験の段階で、柿蔕のCSF中Asp濃度に及ぼす影響を認めていることから、活性成分探索の指標を特定するための実験系を、より鋭敏で正確かつ簡便なアッセイを行い得る方法とするために、血漿中アミノ酸濃度の測定や作用時間も含め実験条件の再検討をする予定である。なお、最適な実験条件の選択のために、柿蔕の既知成分についてもその作用を並行して検討することを計画している。これら結果を踏まえて、柿蔕中活性成分の探索を定法に従って遂行する予定である。 3.探索の試料とする柿蔕の抽出エキスを調製する際に、研究に遅延を生じないようにするために、抽出溶媒による効果の差も予め確認する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の試料である柿蔕を得るために、柿の入手とその後の処理に、予定していなかった多くの時間を費やすことになった。さらに、最適な実験条件を設定できなかったことから、研究全体に遅れを生じてしまった。今後、実験条件の再検討を行い、当初の予定通り実験を行うが、研究全体が遅れていることと、柿蔕の既知成分やその効果についても検討を加えるため、研究期間を2年から3年に延長し、対処する予定である。それに伴い、「収支状況報告書」の「次年度使用額」と次年度請求研究費を25-26年度の2年間で使用する予定である。
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