2012 Fiscal Year Research-status Report
硫化水素はEDRFか?:モデル動物としての深海性海洋動物の可能性を探る
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24659102
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Research Institution | Dokkyo Medical University |
Principal Investigator |
瀬尾 芳輝 獨協医科大学, 医学部, 教授 (90179317)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 内皮細胞性血管弛緩因子 / 深海性海洋生物 / 化学合成共生動物 / MRI / 血流測定 / 循環器 |
Research Abstract |
内皮細胞性血管弛緩因子(EDRF)として、一酸化窒素(NO)に続き硫化水素(H2S)が提案されている。しかし、H2Sの高い毒性から、その生理的意義については確定していない。申請者は、熱水域や湧水域に生息しH2Sを主たるエネルギー源とする化学合成共生動物では「H2Sが主たるEDRFとして働いている」という作業仮説をたて、有用な実験モデル動物となると考えた。 平成24年度は、シンカイヒバリガイのコントロール動物として、同じイガイ類のムラサキイガイを用い、1) 内径20 mmの生体測定用MRプローブとイガイ固定システムを構築した。また、10℃から25℃の範囲での温度制御も可能とした。2) イガイの循環器系の構造について、空間分解能35-100ミクロンで測定し、10ミクロンの連続組織標本と対照させて、MRIマップを完成させた。3)位相情報を用いたMRI法により、海洋生物の心拍数、血流速度、心拍動の測定法を世界で初めて確立した。4) シンカイヒバリガイやシロウリガイなどの深海生物の固定標本を用い、その3次元構造データを収集した。 以上の結果を、第16回NMRマイクロイメージング研究会(2012年8月、大津)、およびブルーアース2013シンポジウム(JAMSTEC主催、2013年3月、東京)で発表し、海洋生物の新しい研究方法として注目を集めた。1)から3)の結果について、論文準備中である。また、海洋性軟体動物の研究者から様々な共同研究の提案があり、順次取り進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度実施計画には、1) 環形動物や二枚貝の生体測定用のMRプローブと灌流システムを構築する。2) 7 T MRマイクロイメージング装置を用い、脈管系の三次元構築を確認し、3) モデル系を用いて位相エンコードMRI法による血流速度測定法を確立し、生体で測定精度を確認する、の3点を掲げた。 1) 二枚貝や環形動物の生体測定用のMRプローブと灌流システムの構築:海洋生物測定用の内径20 mm H-1測定用RFコイルは12月に納品され(設備費)、非磁性部品などを用い現有のプローブを改造し、人工海水環境用のMRプローブを完成することができた。灌流システムの構築には、温度管理が困難であり、また、非灌流システムでも温度管理が十分であれば12時間以上安定に測定できることが確認できたので、経費節減のために非灌流系で10℃から25℃の範囲で温度調節可能な測定システムを構築した。 2) 環形動物や二枚貝の脈管系の三次元構築の測定: 固定標本を用い、空間分解能35-100 μmで、二枚貝や環形動物の脈管系の三次元構造を測定した。脈管系の構築を確認し、ムラサキイガイについては全身の連続組織切片を作成し、MRI画像のマップを作成した。また、シンカイヒバリガイやシロウリガイについても、組織切片との比較検討を進めている。 3) 位相エンコードMRI法による血流速測定法の確立: 位相エンコードMRI法により血流の方向と速度を画像化した。ムラサキイガイでは流速 2 mm/secから50 mm/secまでの範囲で再現性良く測定が行えることを確認した。また、心拍動に伴う位相変化を利用して、心拍数の連続測定が可能となった。さらに、IntraGate法と呼ばれる位相情報を用いた心拍動の測定にも成功し、心拍動時の心室・心耳の容積変化を測定することができた。 以上のように、実施計画は、ほぼ順当に達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に得られた結果を基にして、深海性二枚貝や環形動物の測定を進める。幸いにも平成25年3月末から4月に3回の研究船利用航海研究が行われ、シンカイヒバリガイとヘイトウシンカイヒバリガイの生体標本が採取された。この標本を用い、4月初めから、正常個体の構造と循環機能の測定を行っており、心拍数、血流、および心拍動について基礎データの収集を行うことができた。ムラサキイガイと異なる部分も明らかとなったので、早急に差違を踏まえてデータをまとめる。 コントロールとしてのムラサキイガイについては、硫化ナトリウム添加による循環器系への影響について実験を進める。同時に、軟体動物一般への麻酔薬として用いられている高濃度Mgイオンの効果を測定し、positive controlとして用いる。 今年度も研究船利用航海研究は震災対応が中心となるので、次回のサンプル採取がいつになるかは不明であるが、万全の準備をしておく。また、実験室での飼育が可能な、ハオリムシについて、海洋研究開発機構の丸山正プロジェクトリーダー(連携研究者)のサポートを得て、実験の準備を行う。初回実験は6月末から7月を予定している。 できれば、シンカイヒバリガイで、採取できなければ、ハオリムシを用い、 H2S濃度を変えて循環動態を測定し、その循環制御機構において、「H2Sが主たるEDRFとして働いている」という作業仮説を実証しすることを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究で、唯一の誤算は、平成24年6月に生理学研究所4.7 T MRI装置の超伝導磁石がクエンチし、使用できなくなったことである。このため、少し大きな個体の測定が不可能となった。このため、4.7 T MRI用の実験経費が未使用となった。 獨協医大の7 Tマイクロイメージング装置で、大きめの個体が測定可能なRFコイルの調達を先行させることも考えたが、まずは20 mm径のRFコイルの調整を行い,性能を評価することを優先した。幸い、予想以上の性能が確認された。3-4月に採取された生体で、20 mm径RFコイルにはいらないものは、当座の対応として、25 mm径RFコイルを用いて測定を行った。しかし、このRFコイルは、人工海水環境下で、なんとか調整が可能であったが、元々Na-23測定用のRFコイルであり測定感度が低く、最高レベルの画像データは得られなかった。以上の結果、測定可能な個体を増やし、測定精度を上げるために、計画を変更し、平成25年度研究経費で、海洋生物測定用の内径25 mmH-1 RFコイルを調達することとした。
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Research Products
(3 results)