2012 Fiscal Year Research-status Report
視細胞を守護する網膜色素上皮細胞の恒常性維持機構の解明
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24659123
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
柴原 茂樹 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00154253)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
武田 和久 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30311559)
古山 和道 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80280874)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 網膜色素上皮細胞 / 転写因子 / メラニン / L1エレメント / MITF / 生体防御 / ストレス応答 / 回避行動 |
Research Abstract |
我が国における成人失明の主要な原因疾患は糖尿病性網膜症と加齡に伴う網膜変性症であり、それらの病態には網膜色素上皮細胞(RPE)の機能低下・障害が関与する。小眼球症関連転写因子(MITF)は、神経堤由来のメラノサイトと脳由来のRPEの分化に必須であり、アミノ末端が異なる複数のアイソフォームから構成される。MITFの変異マウス(black-eyed white, bw) の分子病態は、MITF遺伝子のイントロン内へのL1エレメント (レトロトランスポゾン)の挿入であり、選択的にメラノサイト特異的なMITF-Mの発現低下をきたすが、RPEで機能する他のアイソフォームの発現は維持される。その結果、bwマウスはメラノサイトを欠損するため白毛と難聴を呈するが、RPEの分化は維持されるため黒眼を呈する。興味深いことに、bwマウスは低酸素と高炭酸ガス換気応答の亢進(中枢性の化学感知機構の異常)を呈するため、他にも中枢性の異常がある可能性がある。そこで、平成24年度には、bwマウスの行動解析により、MITFに関する以下の結果を得た。 1. 自発運動と学習能力(回避行動試験)の解析により、bwマウスは概日リズムを維持しており、学習能力も野生型マウスと同等であることが判明した。一方、bwマウスは、ストレスに満ちた新規環境に対する感受性あるいは恐怖の程度が低いと推定された。 2. L1エレメントの挿入により産生されるMITF-Mの異常スプライシングmRNAを同定した。さらに、ARPE-19ヒトRPE細胞における各MITF-M選択的スプライシング産物の機能解析により、MITF-Mの選択的スプライシング産物の転写活性化能の低下、及び正常なMITF-Mの機能を抑制する作用を確認した。なお、この解析には、メラニン合成系の律速酵素であるチロシナーゼの遺伝子プロモーターを用いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
bwマウスに自発運動の異常を発見したため、L1エレメント挿入によるMITF遺伝子転写産物のスプライシング異常に関する計画を優先的に実施した。 1. bwマウスの行動様式の解析:学習能力(回避行動試験)の解析により、bwマウスの学習能力は野生型マウスと同等であることが判明した。しかし、最初の回避行動試験に際し、初めて明るい場所に置かれたbwマウスは、隣接する暗い小部屋に移動するまでの時間が有意に長かった。なお、暗い小部屋では電気ショックが与えられるため、2回目以降の試験では、野生型マウスでも明るい場所での停留時間が長くなる。よって、bwマウスは、ストレスに満ちた新規環境に対する感受性あるいは恐怖の程度が低いと推定され、bwマウスの高次脳機能に障害があることが示唆された。 2. L1エレメントによるMITF遺伝子転写産物のスプライシングへの影響:bwマウス特異的なMITF-Mの選択的スプライシング産物を同定した。さらに、各MITF-M選択的スプライシング産物のcDNAを作製し、その機能をARPE-19ヒトRPE細胞における一過性発現系により解析した。すなわち、ヒトチロシナーゼ遺伝子プロモーターの制御下にあるレポーターを用いて、MITF-Mの選択的スプライシング産物の転写活性化能の低下、及びMITF-Mの転写活性化能の抑制作用を検出した。 3. マウス脳とヒト脳におけるMITF-M mRNAの発現: bwマウスの行動異常に着想を得て、マウス脳の種々領域における、MITF-M mRNAの発現を定量し、視床下部での発現が高い事を明らかにした。また、ヒト脳での発現も確認した。 現在、上記結果を英文専門誌に投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
先進諸国における失明の主要な原因は、糖尿病性網膜症と加齡黄斑変性症であり、それらの危険因子として喫煙が知られている。特に、加齡黄斑変性症は喫煙者に多く、網膜におけるカドミウム含量の増加を伴う。平成24年度には、bwマウスに関する研究を優先的に実施した。そこで、今後は、ヒトRPE細胞を用いた計画に力点を置き、以下の研究を推進する。 1. ヒトRPE細胞の恒常性維持機構の解析:ARPE-19ヒトRPE細胞を1)高グルコース、2)低グルコース、あるいは3)カドミウムに曝露し、アポトーシスへの影響を解析する。同時に、MITF、ドーパクロームトートメラーゼ (DCT)、6-phosphofructo-2-kinase/fructose-2,6-bisphosphatase 4 (PFKFB4)の発現(mRNAとタンパク)に与える影響を解析する。DCTはメラニン合成系の酵素であり、抗酸化的に機能する防御因子でもある。PFKFB4は解糖系の促進因子であるfructose-2,6-bisphosphate (F2,6BP)の生成と分解を担う酵素であるが、phosphatase活性が優位である。なお、PFKFB4は細胞の生存に必須である。さらに、網膜形成に関与するシグナル分子NOTCHの関与を検討するため、ARPE-19細胞をγ-セクレターゼ阻害剤(Notchの活性化を阻害)、あるいはNOTCH に対するsiRNAを用いて内在性NOTCHの機能あるいは発現量を減少させ、上記指標の変化を解析する。 2. ヒトRPE細胞におけるWntシグナルの意義:ARPE-19細胞をWntシグナル系を活性化するリチウム(Li)で処理し、上記指標の発現への影響を調べる。なお、Liは躁鬱病の治療薬として頻用されている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額(460円)であり、平成25年度請求額とあわせ、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)