2012 Fiscal Year Research-status Report
インフルエンザウイルスポリメラーゼの構造変化抑制を作用原理とした新奇阻害剤の同定
Project/Area Number |
24659139
|
Research Institution | Microbial Chemistry Research Foundation |
Principal Investigator |
山崎 学 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 研究員 (50442570)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | RNAポリメラーゼ / インフルエンザウイルス / 構造変化 / 抗ウイルス薬 |
Research Abstract |
インフルエンザウイルスがもつRNAポリメラーゼはゲノムの転写において特異な反応を行う。具体的には、本酵素は宿主mRNAからキャップ構造を含むRNA断片を切り出し、これをプライマーとしてRNA合成に利用することでウイルスmRNAにキャップ構造をもたらす。この過程において、酵素活性の発現には基質認識に伴うアロステリック効果による酵素サブユニット間の構造変化が重要と考えられている。本研究課題は、ウイルスポリメラーゼの基質認識に伴う構造変化を明らかにした上で、この構造変化を抑制する化合物を探索・同定し、これを用いて酵素活性の阻害を達成することを目的する。本年度は以下の研究成果を得た。 1.質量分析フットプリント法を用いてウイルスRNAポリメラーゼの構造変化を解析した。具体的には、酵素「そのまま」と「キャップ化RNAを結合させたもの」を調製した後、溶媒に露出(=酵素表面に存在)しているリジン残基を化学修飾し、これを質量分析法により同定した。両者の差異を比較した結果、キャップ化RNAの結合によって表面露出が低下する4つのペプチドを見出した。既知の結晶構造や一次構造の機能マップから、これらのペプチドがマッピングされた個々の領域は、RNA結合または構造変化を通して機能発現に関わる可能性が示唆される。現在、欠失変異体の作製を試みており、遺伝学的な検証を進めている。 2.ウイルスポリメラーゼのRNA合成を指標にした酵素阻害アッセイを構築し、所属機関が所有するケミカルライブラリー3万化合物をスクリーニングした。その結果、約100化合物からなる小規模ライブラリーを作製した。今後、構造変化を抑制する化合物を探索する上で、スクリーニングの迅速化とヒット率の向上が強く期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
質量分析フットプリントに供するタンパク質として、当初は組換え3量体を作製して用いることを計画していたが、質・量ともに目的の分析を満たす発現は困難であった。そこで、発育鶏卵にて培養したウイルスから、ネイティブな酵素を精製して用いることにした。酵素反応および化学修飾処理の詳細な検討から、本酵素への質量分析フットプリント法の適用を達成できた。同定されたペプチドのいくつかは、機能発現における役割について詳細な知見はなく、本研究によって初めて見出した領域である。一方、構造変化の仮説モデルをより正確に構築するためには、獲得する構造情報をさらに拡大する必要があることから、現在、アルギニン残基を化学修飾する手法の適用を進めている。 組換え体の検討に時間を費やしたため、構造解析の後に計画しているスクリーニング開始の遅延が懸念された。そこで、目的の阻害活性が期待される化合物からなる小規模ライブラリーを予め作製し、スクリーニングの迅速化とヒット率の向上を図ることにした。具体的には、RNA合成を指標にした酵素阻害アッセイを構築し、ケミカルライブラリー3万化合物についてスクリーニングした。阻害のしきい値を低く設定して化合物を抽出した結果、約100化合物からなる小規模ライブラリーの構築を達成した。今後、構造変化を抑制する化合物の探索を効率的に進めることが可能になったと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初計画した研究の推進方策に大きな変化は無く、以下の3つの推進方策のもとに本研究課題を進める。 1.ウイルスRNAポリメラーゼの基質認識に伴う構造情報の拡大を目指して、リジン残基以外のアミノ酸残基についても化学修飾し、本酵素への質量分析フットプリント法の適用を進める。 2.上記において同定するペプチドを既知の結晶構造や一次構造の機能マップにマッピングし、酵素反応における構造変化の仮説モデルの構築を進める。そして、当該領域の酵素反応における役割を、欠失変異体を用いたリバースジェネティクスにより解析して検証する。 3.構造変化する領域を認識するペプチド抗体の作製を試み、これを用いて構造変化を簡便に検出するアッセイ系の構築を進める。最後に、構築したアッセイ系を用いて、本年度の研究成果により得られた小規模ライブラリーをスクリーニングする。 得られたヒット化合物の酵素阻害活性を検証することで、「酵素特有の構造変化を阻害することにより、酵素反応を阻害する」という阻害剤探索ストラテジーの有効性を明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度も質量分析法を駆使した構造解析を引き続き実施するが、これに係る酵素、試薬やカラムなどの購入に研究費を使用する。また、当初の計画では、ペプチド抗体の作製を委託する費用を本年度に予定していたが、やや遅れていることから、次年度にその費用を計上する。一方、次年度に予定しているスクリーニングに係る費用については、本年度に小規模ライブラリーを作製するための大規模スクリーニングを完了したことから、当初の概算よりも少ない費用で計画している。さらに、日常的に酵素化学的および分子遺伝学的な実験を行う。そこで、合成DNA・RNAや酵素、試薬、放射性核酸、細胞培養用の培地、器具などが多岐にわたって必要であり、その費用を計画している。そのほか、国内学会での発表のための旅費と、学術誌への掲載のための外国語論文校正費および論文投稿費を計上した。以上を本研究課題の次年度に使用する研究費として計画している。
|