2012 Fiscal Year Research-status Report
炎症性サイトカイン受容体の糖鎖修飾を標的とした新規抗炎症治療法の開発
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24659183
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
田中 信之 日本医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80222115)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 炎症 / 炎症性サイトカイン受容体 / 糖鎖修飾 / 抗炎症治療 / 炎症性腸疾患 / 関節炎 / 脳梗塞 / マクロファージ |
Research Abstract |
我々は、解糖系阻害剤2-Deoxy-D-glucose (2-DG)が、炎症を抑制することを発見した。その機構は解糖系の阻害ではなく、マンノース代謝からタンパクの糖鎖修飾(N-結合型鎖)を抑制することで、炎症性サイトカイン受容体の糖鎖修飾が抑制され、そのことで炎症反応が抑えられるという全く新しい機構によるものと考えられた。そこで、実際に糖鎖修飾阻害がこの炎症阻害を引き起こすかを検討した結果、2-DGによるIL-6, TNF-α等の炎症性サイトカインのシグナル阻害効果や個体での抗炎症効果はマンノース過剰投与によって解除されること、他の糖鎖修飾阻害因子であるツニカマイシンでも抗炎症効果が得られる結果が得られた。更に、炎症性サイトカインのシグナル阻害効果が個体内でも見られるかを検討した結果、2-DGを投与したマウスではIL-6, TNF-αを注射したときの各組織での誘導遺伝子の発現は抑制されていた。更にこれらのサイトカインの受容体への結合が糖鎖修飾阻害によって抑制されることを見いだした。これらの結果から、炎症性サイトカイン受容体の糖鎖修飾の阻害が抗炎症効果を発揮すると考えられた。次に、2-DGがどのような炎症疾患の治療に有効かを検討し、炎症性腸疾患モデル、慢性関節炎モデル、敗血症モデル等の治療に有効であること、実際にこれらの疾患モデルマウスでのマクロファージの活性化や炎症性サイトカインの産生等が抑制されていることを見いだした。更に、RANKの糖鎖修飾とシグナルが抑制されることを見出し、骨粗しょう症や乳癌の発症モデルを用いた解析を行っている。また、脳虚血再潅流による脳組織の損傷が2-DGによって軽減されることも見いだしている。今後は、多くの疾患に対する有効性を検討すると共に解糖系を阻害しないマンノースの修飾分子で糖付加反応の阻害分子を探索することで、有用な炎症治療法を開発していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
我々は、2-DG処理細胞は細胞内にGDP-mannoseの蓄積がみられるものの糖鎖修飾が抑えられていることから、mannosyltransferaseによる糖付加の段階が抑えられていると考えられ、これを解析した。その結果、D-mannose過剰投与によって、解糖系の阻害は変わらないが糖鎖修飾の阻害が特異的に解除されることと、抗炎症効果が減弱することを見いだした。この結果から、2-DGによる糖鎖修飾阻害効果が実際の抗炎症効果を発揮していることを証明した。この結果は当初の予定を更に前進するものである。また、炎症性腸疾患モデル、慢性関節炎モデル、敗血症モデル等の解析では、特に初期のマクロファージの活性化の段階が抑制されることを見いだしている。更に骨粗しょう症や乳癌の発症モデルに加えて脳虚血再潅流による脳組織の損傷を回避できる可能性を見いだしており、大きく前進した点であると評価できる。また、なぜ初期のマクロファージの活性化が阻害されるのかを検討した結果、LPSによるTLRの活性化が阻害されること、IL-23や12等のサイトカイン刺激を抑制することも見いだしており、マクロファージ活性化の段階で2-DGが阻害することを見いだしていることが進展したところだと考えられる。更に、炎症と発癌の実験から、2-DGが効果的にp53欠損マウスの腫瘍発生を抑えること、炎症がp53-p21経路を阻害して癌化に促進的に働くことを見いだしている。実際、p21欠損マウスは変異原を投与しただけで、炎症を起こさなくても大腸腫瘍が発生することをみいだしている。このことは当初の予定を大きく上回る成果であり、炎症と発癌の新しいメカニズムを提唱するものとして更なる解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方向としては、まずマクロファージの活性化抑制に対する詳細な分子機構を解析することを考えている。実際、様々な要因によって炎症が起こるが、そのどの段階から2-DGが抑えているのかを明らかにすることで、治療効果を検討する以上に、疾患の発症機構そのものにせまることが出来ると考えている。炎症性疾患の治療に関しては、関節炎等の慢性疾患に有効であることは見いだしているが、その副作用についてはまだ解析の途中である。長期投与による体重の減少や血清の生化学的な解析では影響は見られていないが、全体的な免疫系への影響をしらべていくことを計画しており、骨粗しょう症や動脈硬化といった慢性疾患に安定に投与出来るかを検討する。また、急性期疾患の治療では、LPSによるマウスの急性死を効果的に回避できることを見いだしており、脳梗塞モデルでの脳損傷の回避にどれだけ有効かを、投与方法の検討を含めて解析を進めていく。これと平行して、新しい炎症治療薬の開発については、各種マンノースの修飾分子を解析することを目的としている。実際、入手可能なマンノース・グルコースの立体異性体を検討した結果、イドースが炎症性サイトカインシグナルを抑制する可能性を示した。この結果を更に解析すると共に、新たなマンノース修飾分子を検討することで、より副作用の少ない抗炎症治療薬の開発を目指すことを目的とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究に関しては、マウスを用いる実験が多くなり、教室の人員ではとても全ての計画を遂行することが出来なくなっている。そこで、研究を進めるために、実験補助員による人件費が必要となっている。
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Research Products
(10 results)