2012 Fiscal Year Research-status Report
げっ歯類の超音波コミュニケーションに着目した社会性の発達神経毒性試験法
Project/Area Number |
24659296
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
和田 博美 北海道大学, 文学研究科, 教授 (90191832)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | USV / ラット / 母子分離 / 甲状腺ホルモン |
Research Abstract |
【目的】母ラットは、新生児の超音波発声(USV)を聞きつけると、新生児の体に接触したり、巣に連れ戻したりする。そこで正常ラットと発達障害モデルラットを用い、USVの発達過程を明らかにする研究を行った。 【方法】妊娠ラットに対し妊娠15日目から出産後21日目まで、甲状腺ホルモン阻害剤メチマゾール(MMI)を飲料水に混入して投与した。投与濃度は0%(統制群)、0.01%(低濃度群)、0.015%(高濃度群)とした。USV測定の手順は次の通りであった。①仔ラットを母親から分離し5分間放置。②一旦母親に戻し5分間放置。③2度目の母子分離を5分間行い、USVを記録。USVは生後3、6、9、12、15、18、21日目に測定した。 【結果と考察】①USVは生後3日目までに発達し、6~15日目にかけて増大、その後、18日目から減少し、21日目には消失した。USVは生後間もなく発達し、10日目前後にかけて増加、その後減少して21日目(離乳時)には消失すると考えられる。②USVの周波数帯は、生後3~6日は40~50kHz、9日目以降は35~50kHzが増大した。新生児のUSVは40kHz前後であることが確認できた。③高濃度群のUSV周波数は、生後3日目に40~45kHzが減少し、45~50kHzが増加した。生後15日目に40~45kHz、18日目に35~50kHz、21日目に35kHz以下と40~45kHzのUSVが増加した。MMI投与により離乳前1週間のUSVが増加した。MMI投与は体重増加や発毛などの身体発達に遅滞を引き起こす。そのため母親のケアをより長く必要とすると考えられる。これが母親を求めるUSVの増加に関連している可能性がある。しかしMMI投与群を含めすべての新生児が無事成長していくことから、USVの変化が母親の育児行動に影響を与えたとは考えられない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目(H24年度)の研究計画は、正常ラットを用いて超音波コミュニケーションの発達過程を解明することである。この研究は2つの実験から構成されている。実験1では正常ラットの新生児を母子分離して、母ラットを呼びよせるコミュニケーション手段としての超音波発声(USV)が生後何日目に発達するのか、USVの周波数はどのように変化するのか、USVを聞いた母ラットに育児行動が起こるか等について解明する。実験2では成熟後に異性のラットと対面させ、交尾行動に至るコミュニケーション手段としてUSVが対面何日目に起こるのか、実際に交尾が起こるのか等について解明する。2年目(H25年度)は発達障害モデルラットを用い、1年目と同様の実験を行う計画である。 しかしラットの交尾実験を行うため予備的な実験を行ったところ、交尾場面を捉えるには終夜に及ぶ長時間の観察を連夜続けなければならないことがわかった。このため効率的に交尾を引き起こすような場面を設定する必要性がわかった。 そこで、今年度は正常ラットと発達障害モデルラットの両方の新生児を用い、すでに実施した経験のある母子分離実験のみを行い、USVの発達過程について研究した。つまり当初予定していた1年目と2年目の実験1を実施し、加えて効率的な交尾場面設定について検討した。これを元に、次年度は残りの実験2を正常ラット及び発達障害モデルラットを用いて実施し、交尾場面でのUSVについて研究する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
効率的な交尾場面を設定するために次のような方策を取る。①成熟ラットを1週間飼育し、ケージ内の床敷きを回収する。②この床敷きを対面相手となる異性ラットの飼育ケージに入れて臭いを嗅がせる。③雄ラットは発情した雌ラットの臭いに対して超音波発声(USV)を行う。USVが起こるのを確認した上で、当該雌ラットと対面させる。④対面実験は金網越しに終夜3日連続で行う。⑤4日目の対面では、USVが測定された後に金網を取り除き、15分間交尾が可能な状態にする。この時ビデオ撮影を行う。⑥交尾が起こらなかった場合には、④⑤を繰り返す。 母子分離手順に関して、今年度の実験では、1回目の母子分離→母親の元に戻す→2回目の母子分離という方法を取った。これは2回の母子分離により、より確実にUSVを引き起こすことができると考えられたためである。しかし結果は、母親に余分なストレスを与えたように思われる。母親は新生児をくわえて逃げ回り、母子分離が困難になる場面も見られた。新生児をくわえて逃げ回るといった母親の行動が、その後の新生児のUSVに影響を与えた可能性は容易に想像できる。次年度から母子分離は1回のみとし、このときのUSVを測定するように改善する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
B-A=103円となっているが、昨年度3月中に103円支出しており、実際には0円である。
|