2012 Fiscal Year Research-status Report
首尾一貫感覚とは異なる心理的健康増進要因の探索的研究
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24659329
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
湯浅 資之 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30463748)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
星 旦二 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 教授 (00190190)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 社会医学 / 健康教育 / 首尾一貫感覚 |
Research Abstract |
ヘルスプロモーションの基本概念を構成する健康生成論は、ユダヤ人大量虐殺生還者の調査を通して見出した心理特性を「首尾一貫感覚(Sense of Coherence; SOC)」と命名し、自律的理性的な自己を基盤にリスク/ストレッサーに抵抗する活動的な心理的健康増進要因を提唱している。 一方、日本人の健康的な長寿高齢者に共通する心理特性(くよくよ考えない、穏やか、陽気、包容的)は、長年に亘る無数のリスク/ストレッサーを処理して長寿を得たことから、SOCと同様の心理的健康増進要因と考えられる。我々はこのストレス対処心理能力を「受容的感覚(Sense of Acceptance; SOA)」と命名した。SOAは調和的感性的な自己を基盤とし、運命に従順的で自然や周囲の調和を優先し、SOCとは明らかに異なる特性を持つと考えられる。そこで本研究は、SOAを概念化し尺度を開発して、東洋的人生観世界観を反映した新概念の提唱を目的とする。 平成24年度は、最初、SOCの理解を深めるために勉強会を継続して行った。その後、東洋的世界観人生観と西洋的それとの比較を行い、両者の差異を整理した。次に、東洋的価値観の考察、ストレスを克服した映画の視聴、2名の日本人被検者のストレス対処の聞き取り結果を基に、SOAの下部構造となる複数の概念を考案した。さらに、下部概念が適切かどうか確かめるために、自治体職員8名と東日本大震災の津波被害者4名を対象に、心理的ストレス対処の聞き取り調査を行い、下部概念の定義および分類の精度を高めた。得られた下部概念から質問票を作成するために、Facet法を用いて可能性のあるすべてのストレス対処の組み合わせを考えながらマッピングセンテンスをつくり、下部概念に適合する質問文を考案した。この質問票の内容が理解しやすいかを検討するために15名の被検者に回答してもらい、質問文の校正を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
西洋由来の世界観・人生観は、外界世界への関心が強く、主体と客対が明確に二分されている。主体の理想世界(イデア)実現すべく、客体(自然)を変形、支配する志向性が強い。自然や死に対して毅然と立つ(カント哲学)。内的倫理基準すなわち罪の文化ともいわれる。左脳的、言語的、論理的で、顕在意識に特徴を持つ。自己肯定感が強いのも特徴である。父性愛的であり、正義、自立を重視し、同時に科学や法制が進歩する素地を与えると考えられる。他方の東洋由来の世界観・人生観は、内向性で人格形成や道の探求に強い関心を向ける傾向にある。主体と客対は未分化で、客体(自然=おのずから)への随順志向がある。生も死も未分化な点も特徴である(生死一如)。外的倫理基準すなわち恥の文化とも指摘される。自然との一体感を強調し、右脳的、感覚的、潜在意識的傾向が強い。母性愛的で包容的である。 得られたSOAの下部概念は、(1)脱執着感(ストレス状態の思いにとらわれない、過度に反応しない感覚のことで、典型的な表現は「くよくよ考えない」「水に流す」「気分転換する」など)、(2)脱同一化感(ストレス状態にあることを能動的に客観視する感覚 のことで、「自分の気持ちと距離を置いてみる」「こんなものだ」という表現であらわされる)、(3)包容感(ストレス状態にあることを物事の道理として受け入れる感覚 であり、典型的には「仕方ない」「諦めるしかない」「だめなら駄目でいい」「やるだけのことはやった」「何とかなる」などが挙げられる)、(4)被包容感(ストレス状態にあることが第三者に受入れられていると思える感覚のことで、「ひとりじゃない」「有難い」「お陰さまです」「大きな見えない存在に支えられている」などと表現される)の4つに分類された。
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Strategy for Future Research Activity |
得られた質問票は、脱執着感、脱同一化感、被包容感が6問ずつ、包容感のみ8問から構成された。質問票は計26問から成り、各問4つの選択肢から回答し、合計点は26~104点となった。 平成25年度は、この質問票を用いて、5月に地方自治体職員約100名を対象に予備調査を実施する。その結果から、結果の分布を確認し、反応傾向項目・ネガティブ項目・冗長性項目を除外する。また、主成分分析もしくは探索的因子分析法を用いて質問項目の絞り込みを行う。 次に、1000人程度の大規模集団を対象に本調査を実施する。関連尺度(外的基準)も同時に測定し、基準関連妥当性を検討する。回答分布の確認と反応傾向項目・ネガティブ項目・冗長性項目を除外する。続いて主成分分析または確証的因子分析にて測定項目の絞り込みを行い、適合度検定、クロンバックα係数の算出による信頼性を検討する。次に、構成概念妥当性、基準関連妥当性および内容妥当性を検討し、最後に有用性の検討も行い、SOAに関する尺度を開発する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、個人を対象とした聞き取り調査の謝金程度の支出しかなかったが、平成25年度は予備調査および大規模な本調査に要する支出が必要となる。
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Research Products
(1 results)