2012 Fiscal Year Research-status Report
漢方薬の薬効を利用したADHD発症因子の探索同定と機能解析
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24659347
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
松本 欣三 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 教授 (10114654)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
常山 幸一 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 准教授 (10293341)
李 峰 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 助教 (80623016)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 隔離飼育ストレス / ADHD動物モデル / 初期増殖応答タンパク質1 / 潜在学習 / 注意力 / 攻撃性 / 長期記憶 / 漢方薬 |
Research Abstract |
本研究は,隔離飼育ストレス負荷動物の示す異常行動が症状,雌雄差,成長後の持続性の点でADHDと良く類似する点に着目し,隔離飼育動物のADHD様症状発症機構と原因分子を明らかにするとともに,漢方薬の作用機序から有効な治療標的同定と治療薬開発の迫ることを目的とする。初年度は,以下の成果を得た。 1.ADHD様症状発現に関わる脳内因子候補を探索する目的で定量的遺伝子解析法,蛍光免疫組織法及びウエスタンブロット法を用いて検討した結果,隔離飼育動物では異常行動の発症と平行して脳内初期増殖応答タンパク質1(Egr-1)の発現量は低下したが,他のEgrファミリー蛋白の発現量には変化がなかった。Egr-1と精神疾患との関連性が示唆されていることから,Egr-1がADHD様症状の発現の少なくとも一部に関わる可能性が推測された。 2.潜在学習行動試験で認められる隔離飼育動物の注意力の低下には雌雄差がなかったが,隔離飼育動物の攻撃性亢進は雄マウスでのみ観察された。この結果,注意力低下と攻撃性亢進は発症する神経機構が異なると考えられた。これらに加え,隔離飼育動物では長期の文脈的記憶及び条件付け記憶の障害も明らかとなった。 3.ADHD治療薬メチルフェニデートは隔離飼育動物の注意力を改善したが,長期記憶には無効であった。他方,コリンエステラーゼ阻害剤タクリンは長期記憶の障害を改善したほか,海馬内Egr-1発現量も回復させた。漢方薬酸棗仁湯(400 - 800 mg/kg, 経口)の効果を検討した結果,単回投与は注意行動の低下には無効であったが,2週間の反復投与により改善された。 これらの成績から,(1)隔離飼育動物のADHA様症状のうち,注意力低下,攻撃性亢進,及び学習記憶能の低下はそれぞれ異なった神経機構が関与していること及び(2)酸棗仁湯をADHD様症状の発症因子探索に応用できることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は隔離飼育マウスに観られるADHD様症状として当初解析対象として取り上げた注意力,攻撃性,多動性に加えて明確な長期記憶の保持で障害が見出されたことは新たな進展と言える。更に性差を含む相関性や薬理学的応答性の違いから,各症状の発症に関わる神経機構が明確に異なることも明らかになり,特に長期記憶の障害では中枢アセチルコリン神経系と初期増殖応答タンパク質1(Egr-1)系の機能低下が関与する可能性を明らかにできた。 Egr-1はマイクロアレイ解析で隔離飼育により変動する遺伝子として申請者らが検出した因子である。実際にEgr-1の発現抑制により長期の恐怖記憶が障害されることが報告されているので,少なくともEgr-1の関与を示唆することができたことは,予定以上の進展とも言える。また予備的試験では隔離飼育ストレス負荷により社会性の低下を示唆する成績も得られつつあるので,ADHD様病態モデル動物としての適切性を更に示すことができると期待される。 一方,酸棗仁湯をはじめとする漢方薬の効果は注意力低下について基礎的データが得られた段階であり,当初計画からは若干の遅れがある。さらに上記の成果を踏まえると学習記憶障害,多動性および攻撃性,Egr-1発現に及ぼす影響等を検討する必要がでてきた。 酸棗仁湯等の漢方薬の脳内移行成分・代謝物の探索同定については,他の漢方薬を用いて脳組織及び血液サンプルから高分解能質量分析装置で検出するまでのプロトコールを作製することができた。 以上を踏まえて,現在までの達成度を自己評価すると「おおむね順調に進んでいる」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の成績から隔離飼育ストレス負荷によって発現するADHD様症状として特に,注意力,攻撃性,運動量亢進,学習記憶能の低下が認められ,それらに関わる神経機構が異なる可能性が示されこと,さらに社会性の低下も生じる可能性が示唆された。 そこで今後はそれらの症状に焦点を当て,酸棗仁湯や躁的症状に適用される甘麦大棗湯,抑肝散等の漢方薬の効果を解析する。各症状に関わる脳部位として前頭前皮質内側部,中隔,海馬,及び扁桃体が推測されることから,それらの部位をレーザーマイクロダイセクション法等で切り出してADHD症状に関わる因子の探索を行う。 注意力および社会性に関しては特に,前頭前皮質内側部に焦点を当てる。記憶能の障害については初年度にEgr-1系のダウンレギュレーションとコリン神経系機能の低下が示唆されたので,この障害に関わる可能性の高い脳部位として,中隔,海馬,扁桃体に注目し,Egr-1発現量を調べると共に,発現量が低下する機序を解析する。これをマーカー蛋白として酸棗仁湯をはじめとする漢方薬のEgr-1発現量変化に対する効果を精査する。 漢方薬で有効性が認められた場合には血清及び脳組織をサンプルとし,初年度に確立したプロトコールで漢方薬由来成分を高分解能質量分析装置で検出し,脳内へ移行する成分若しくはその代謝物の探索・同定を進めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(3 results)