2012 Fiscal Year Research-status Report
脂肪細胞の脂肪分解により放出される新規インスリン分泌刺激物質の探索
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24659443
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡崎 啓明 東京大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (80610211)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | インスリン / 脂肪細胞 / 脂肪分解 / インスリン分泌刺激物質 |
Research Abstract |
カテコラミン刺激によるインスリン分泌という生理現象があるがその分子機構は未解明である。申請者らは、脂肪細胞における脂肪分解を担うリパーゼであるホルモン感受性リパーゼ(HSL)の欠損マウスにおいて検討を行った結果、野生型マウス(WT)では認められるカテコラミン(イソプロテレノール)によるインスリン分泌が、HSL欠損マウス(KO)では全く認められないことを見出した。この現象の分子メカニズムを明らかにするため以下の検討を行った。 イソプロテレノール刺激によるインスリン分泌について、イソプロテレノールの投与量およびタイムコースの検討を行った。その結果、イソプロテレノール0.3mg/kgの腹腔内投与により、投与後10分において、血中のインスリン濃度が最大となる(6.3 ng/ml)ことが分かった。この条件で、WTとHSLKOにおいて改めて検討を行い、現象の再現性を確認した。 次に、この現象が、インスリン分泌、インスリン感受性などに関連する既知のホルモンに起因するかを検討した。GLP-1、GIP、グルカゴン、グレリン、レプチンなどの血中濃度測定の結果、イソプロテレノール刺激10分後の血清においてグレリン、レプチンの増加を認めた。しかし、グレリンの増加はWTとHSLKOで同程度(WT:2.2倍; HSLKO:2.0倍)、レプチンはWTのみで増加を認めたものの程度が弱く(WT:1.3倍; HSLKO:1.0倍)、またタイムコースの検討では5分では増加せず、ピークは30分以後であり、これによるインスリン分泌促進の説明は困難であった。 カテコラミン刺激はHSLを介した脂肪分解を亢進させる。そこでHSLの代謝産物がインスリン分泌を促進する可能性を考えin vivoの検討を進めている。 またこのin vivo現象をin vitroに還元するための実験系のセットアップも精力的に進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カテコラミン刺激によるインスリン分泌という分子機構の明らかでない現象のメカニズムを解明することが本研究の目的であり、まず最初に既知のホルモンの挙動で説明可能であるかを検討した。その際に、カテコラミンの濃度と反応のタイムコースの詳細な検討を行い、この系におけるインスリン分泌を起こすのに相応しい変化を示す既知のホルモンをスクリーニングした。その結果、検討した範囲では既知のホルモンでは説明が困難であることが分かった。 これらの結果をもとに、現在、カテコラミン刺激によるHSL依存性脂肪分解の代謝産物がインスリン分泌を促進させる可能性を検討している。上述のin vivoの実験条件(0.3mg/kg体重のイソプロテレノールを腹腔内注射し、10分後に採血)で、イソプロテレノール刺激後の血清をWT、HSLKOから採取、これらのサンプルを用いてメタボロミクス解析を行い、インスリン分泌を促進するHSL依存性脂質水解代謝産物を同定/解析する実験が現在進行中である。複数の代謝産物が候補として得られ、絞り込みが必要となった際には、これまで検討したイソプロテレノール投与量やタイムコースに応じたインスリン分泌の挙動の情報が参考になる。 このように、可能性を順に調べ尽くしており、研究は順調に進展している。また、これらのin vivo現象をin vitroに還元するための実験系のセットアップも進行中であり、研究達成度としておおむね順調と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討結果から、カテコラミン刺激によりインスリン分泌を促す物質は既知のホルモン以外の物質であることが推察され、今後は脂肪分解に伴い放出される未知の代謝産物の同定のための実験を更に進めて行く。今後の研究の推進方策は下記の通りである。 まず、in vivoでのカテコラミン刺激後のWTとHSLKOの血清サンプルを用いたメタボロミクス解析を行う。これまでに詳細に検討を行ったin vivoでのカテコラミン刺激の実験条件を用いてサンプルを採取し、インスリン分泌を促進すると考えられる代謝産物の絞り込みを行う。 このin vivoでのスクリーニングと並行して、この現象をin vitroに還元するため、カテコラミン刺激によるインスリン分泌のin vitro系の確立を目指す。具体的には、脂肪細胞(初代培養、あるいは3T3-L1細胞)をin vitroでカテコラミン刺激し、得られた培養上清を膵島あるいは膵β細胞の細胞株(INS-1細胞など)の培養液に添加し、インスリン分泌反応を検討する。あるいは、脂肪細胞ー膵β細胞の共培養系を確立し、カテコラミン刺激によるインスリン分泌をin vitroで再現する。これまでの予備的検討では、白色脂肪組織のカテコラミン刺激後の培養上清を用いて、インスリン分泌反応を検討しているが、今のところin vitro還元には成功しておらず、今後は、脂肪組織の部位別の検討、別の細胞株の使用、単離膵島の利用、脂肪細胞と膵島の共培養系の確立を進めていく。 またこのin vitroの還元系が確立された際には、この系を用いてin vivoのメタボロミクス解析で得られた候補物質の検証を行う。 以上が今後の研究の推進方策となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上述の推進方策に沿った研究を進めて行くため、以下の用途の経費が必要である。 主要な用途は、遺伝子改変動物のための動物維持費(1系統、毎年50万円)、メタボロミクス解析のための費用(1サンプル5~20万円;in vivo検討に50万円、in vitro検討に50万円)の他、インスリンなどのホルモン・代謝指標測定試薬(30万円)である。 その他、細胞培養に必要な培地、抗生物質、ウシ血清、培養用デッシュ、ピペットなどの消耗品、有機溶媒、TLCプレート、シリカゲルカラムなどの脂質生化学実験のための研究試薬や消耗品のための費用(合計約50万円)が必要である。 また、情報交換や研究成果を公表するための国内外の出張経費、論文発表に必要な諸経費(合計5万円)を予定している。 これらを本研究費補助金から支出することは関連法規などに照らして妥当であると考えている。以上が次年度の研究費の使用計画である。
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