2012 Fiscal Year Research-status Report
体液性調節因子の支配を受けない肝臓の自律的血糖調節機構と新規降血糖薬の開発
Project/Area Number |
24659448
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Osaka Medical College |
Principal Investigator |
渡邊 房男 大阪医科大学, 医学部, 講師 (40183719)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | glucokinase / 細胞内局在性 / グルコースセンサー / 肝細胞 / HEK293 / HepG2 |
Research Abstract |
グルコキナーゼ(GK)の細胞内局在性をハイスループットに測定するために、GKと蛍光蛋白質である単量体型Kusabira-Orange(mKO)との融合蛋白質を安定に発現する細胞株を作成した。ラット肝臓からGKのcDNAをPCR法で調製し、そのC-末端でmKOが融合する組換えDNAを作成した。これを真核細胞の発現ベクターであるpEBMulti-Hygにサブクローニングした後、ヒト肝臓由来のHepG2及び腎臓由来のHEK293細胞に遺伝子導入し、Hygromycinを用いて形質転換株を選択した。この結果、融合蛋白質を発現するHEK293細胞株を樹立したが、HepG2細胞においては、その発現量が極めて少ないため蛍光顕微鏡を用いた写真撮影の露光時間が著しく長引き、測定が行えなかった。この細胞において蛍光蛋白質の発現量が少ない原因は、おそらくHepG2の異種蛋白質の分解活性が高いためであると思われる。今後、GKとmKO間のリンカーの構造等を変えて分解を受けにくい融合蛋白質を設計することで、HepG2における蛍光蛋白質の発現量の増加させる。 次に融合蛋白質の発現に成功したHEK293細胞を用いて、培地中のグルコース濃度の変化によるGKの細胞内局在性を観察した。この細胞株においては、意外なことにGKの核-細胞質間での局在性の変化が見られなかった。さらにこの細胞に、グルコキナーゼ調節蛋白質(GKRP)を共発現させても、同じ結果であった。このことは、通常の肝細胞に存在するグルコースの濃度変化を感知してGKの細胞内局在性を変化させる機構が、HEK293細胞では欠如していることを意味している。この知見を利用して、肝細胞のcDNAライブラリーをHEK293に発現させ、グルコース濃度の感知能が回復する細胞株をクローニングすれば、肝細胞のグルコースセンサーの正体を明らかにすることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来はGKの細胞内局在性を測定するために、毎回ラットから初代培養肝細胞を調製していた。しかし、初代培養肝細胞を用いる実験系には、(1)細胞を固定した後、免疫染色しなければならないため、継時的測定やハイスループットな測定が行えない、 (2)初代培養肝細胞は、通常の条件では増殖しない上に、すぐに脱分化しGKの発現が低下するため、安定な測定系を構築する材料には適さない、(3)初代培養肝細胞を調製するために、時間と手間がかかるなどの欠点があった。これらの初代培養肝細胞を用いる方法の欠点を克服するために、蛍光蛋白質と融合したGK及びGKRPを安定に発現するヒト肝臓由来のHepG2細胞株の樹立を試みた。ところが、このような融合蛋白質を遺伝子導入したHepG2では、細胞内の蛍光蛋白質の蓄積がほとんど見られず、当初の目的を達することができなかった。 しかし、形質転換のポジティブコントロールとして用いていたHEK293では、融合蛋白質の蓄積が見られた。この細胞を用いてGKの細胞内局在性の変化を観察したところ、グルコース濃度を低下させてもGKの核移行は観察されなかった。この現象は、GKRPを共に発現させても、同様であった。このことは、初代培養肝細胞が有しているグルコース濃度の感知機構が、HEK293においては機能していないことを意味している。もし、この機能欠損が、初代肝細胞のcDNAの発現で相補されるならば、そのcDNAクローンこそグルコースセンサーとして働いている蛋白質である。今年度はHepG2を用いたハイスループットな測定系の開発は確立できなかったが、HEK293細胞を用いたスクリーニング法の発想を得たために、肝臓のグルコースセンサーの正体を突き止めるための予期しない近道を見つけられたと自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
【HepG2を用いた測定法の確立】GKと蛍光蛋白質との融合蛋白質の発現量は、HepG2細胞では著しく少なく、ハイスループットなスクリーニングを行うに堪えない状況である。同じ発現ベクターをHEK293に遺伝子導入した場合には融合蛋白質の十分な発現が見られることから、発現ベクターとしてのプロモーター活性や複製開始点oriP活性などには欠陥はなく、むしろ原因はHepG2内での本融合蛋白質の分解が昂進しているためであると考えられる。これは、比較的大きく固い構造をもつmKOがGKとペプチドのリンカーを介さずに直接結合していることが、蛋白質分解系の標的になっているものと思われる。そこで、その対策として、(1)GKとmKOとの間にグリシンやアラニンに富む柔軟な構造をもつペプチドリンカーを挿入して、融合蛋白質のHepG2内での安定性を増す、(2)FLAGタグやHaloタグなどの小分子のペプチドをGKに付加し、GKのマーカーとする、の2点を計画している。 【HEK293を用いたGKの細胞内局在性を制御するグルコースセンサーのクローニング】今回の実験でHEK293細胞では、GKやGKRPを発現させても、その細胞内局在性はグルコース濃度に反応しないことが明らかになった。この知見を利用して、「研究業績の概要」の欄で述べた方法で、GKの局在性のグルコース依存性を相補することを指標として、肝細胞のグルコースセンサーのクローニングを行う。発現ベクターpEBMultiでは、pEBMulti-Hyg、pEBMulti-neo、pEBMulti-puroなどの薬剤耐性の多様性を利用した複数の発現ベクター系の多重形質転換が可能である。このベクターを用いてGK、GKRPを共発現させたHEK293細胞に、さらに肝細胞のcDNAライブラリーを発現させた細胞で、グルコースセンサーのクローングを行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用する研究費が生じた状況及び理由は、以下に示す2点である。(1)HepG2におけるGK-mKO融合蛋白質の発現が著しく低かったことで、当初予定していたGKの局在性に影響を与える化合物のスクリーングが行えなかったこと。(2)本学内での業務と米国細胞生物学会大会との予定が重なったために、研究発表のための外国出張が行えなかったこと。第1番目の状況に関して、繰り越した研究費をHepG2におけるGKの発現ベクターの開発及びHEK293細胞を用いたグルコースセンサーのクローニングの経費に充てる計画である。第2番目の状況に関しては、国外のみならず国内の学会における研究発表のための経費として使用する予定である。 また、平成25年度の研究費については、生細胞中でのGKとGKRP及びホスホフルクトキナーゼと亜鉛結合蛋白質の相互作用をFRET蛍光法で解析する実験に使用する予定である。具体的に述べると、ハイコンテンツ蛍光顕微鏡に装着する光学フィルターや細胞培養のための消耗品等を購入する。
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