2012 Fiscal Year Research-status Report
多角的アプローチによる副腎白質ジストロフィーの脱髄発症・病型規定因子の同定
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24659492
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
下澤 伸行 岐阜大学, 生命科学総合研究支援センター, 教授 (00240797)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 副腎白質ジストロフィー / 白質変性症 / 病型規定因子 / 疾患モデル / マイクロアレイ / エピゲノム解析 |
Research Abstract |
本研究は患者ゲノム比較解析、モデルマウス発症実験、iPS細胞によるエピゲノム比較解析の3つのアプローチにより、副腎白質ジストロフィー(ALD)の脱髄発症・病型規定因子の解明を目指しており、今年度の成果として: ①患者ゲノム比較解析による候補遺伝子の探索:ペルオキシソーム病診断センターとして当施設で診断した国内100家系に及ぶALD患者のうち、50歳までに大脳症状を呈していないAddison病またはAMNの患者群と、小児または思春期大脳型の患者群の両群のサンプルから、マイクロアレイ解析により網羅的遺伝子発現データを得た。 ②ABCD1ノックアウトマウスの脱髄発症実験:極長鎖脂肪酸の異常など生化学的にはALDと同様の異常を呈するものの、脱髄所見も含め神経症状を呈さないABCD1遺伝子欠損マウスに、ALD患者が移植前処置にて神経症状が急速に悪化するエビデンスをもとにアルキル化剤を投与した。同様に患者において頭部外傷後に脱随所見を発症するエビデンスをもとに、再現可能なマウス頭部外傷モデル作成系を構築した。現在、ALDモデルマウスと野生型マウスで同時に行い、定期的に採血して血球成分、極長鎖脂肪酸値をモニタリングしながら、神経症状を観察している。最終的には中枢神経の病理学的変化について比較検討を予定している。 ③ 病型の異なるALD患者細胞よりiPS細胞の樹立、分化:小児または思春期大脳型ALD と50歳までに大脳症状を呈していないAMN またはAddison病の病型の異なるALD患者の培養皮膚線維芽細胞に山中4因子を導入して、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)化した細胞株の樹立を検討している。24年度に対照線維芽細胞からのiPS細胞は樹立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ALDの国内診断中核施設として今年度の1年間 に小児大脳型5例、成人大脳型1例、AMN 1例、アジソン病1例、女性保因者12例、発症前患者4例を診断するとともに、ベトナムハノイ小児病院との診断支援により、送付された患者血清、ゲノムDNAを用いて1年間に7例のALD患者と1名の女性保因者を遺伝子診断している。さらに本邦初のペルオキシソーム病患者としてABCD1遺伝子を含めた隣接遺伝子症候群の症例を論文発表した。脱髄発症・病型規定因子の解明についても、以下の3つのアプローチで解析を進めている。 ①患者ゲノム比較解析による候補遺伝子の探索:50歳までに大脳症状を呈していないAddison病またはAMNの患者群と、小児または思春期大脳型の患者群の両群のサンプルから、マイクロアレイ解析による網羅的遺伝子発現データを解析した。 ②ABCD1ノックアウトマウスの脱髄発症実験:移植前処置薬投与については、現在ではALD患者に対する中枢神経への影響から使用されない傾向にあるブスルファンを致死量まで増量してマウスに投与したが、明らかな中枢神経症状の発症は認めていない。頭部外傷については、weight-drop方式の頭部外傷実験系を構築し検討を進めている。 ③ 病型の異なるALD患者細胞よりiPS細胞の樹立:小児または思春期大脳型ALD と50歳までに大脳症状を呈していないAMN またはAddison病の病型の異なるALD患者の培養皮膚線維芽細胞に山中4因子を導入して、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)化した細胞株の樹立を検討し、今年度は対照ヒト線維芽細胞よりiPS細胞の樹立は成功している。
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Strategy for Future Research Activity |
①患者ゲノム比較解析データより候補遺伝子の同定:24年度に得られた網羅的遺伝子発現データからバイオインフォマティクスを駆使して、病型を規定する候補遺伝子群を絞り込み、病型の異なる両群の多数例の患者リソースを用いてRNAの定量PCRおよびDNAシークエンスを行い、両群間の遺伝子発現、遺伝子多型の相違を検討することにより、病型規定因子を同定する。 ②ABCD1ノックアウトマウスの脱髄発症実験:24年度に引き続き、炎症性サイトカインやLPS、アルキル化剤、さらに頭部外傷をABCD1ノックアウトマウスと野生型マウスに負荷して、神経症状を含めて両者間の反応に差を認める外的要因を探索する。該当するマウスにおいて中枢神経の病理学的検討に加えて、負荷前後の血中あるいは髄液中の極長鎖脂肪酸やサイトカイン等の推移を検討することにより、外的刺激により生じた内因性の変化を明らかにして、本症における脱髄発症のメカニズムを解明する。 ③ ALD患者細胞よりiPS細胞の樹立、分化:24年度の対照線維芽細胞に引き続き、病型の異なる患者よりiPS細胞を樹立し、ニューロン、グリア系に分化させた両群の細胞を用いて、形態や各種抗体による免疫組織化学的検討に加えて、脂肪酸代謝系を含めた代謝産物や免疫・炎症に関わるサイトカイン等の比較検討、mRNAおよびmicroRNAの網羅的発現解析による比較検討及びDNAメチル化解析によりエピゲノムも含めた両者間の差異を網羅的解析にて解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
患者ゲノム比較解析データより候補遺伝子の同定、ABCD1ノックアウトマウスの脱髄発症実験、対照線維芽細胞からのiPA細胞樹立は24年度、順調に推移した。引き続き、次年度使用額と25年度請求の研究費を用いて、ALD患者細胞からのiPS細胞の樹立、分化も含めて研究を進め、ALDの脱髄発症・病型規定因子の解明に繋げていく。
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