2012 Fiscal Year Research-status Report
脳死ミニブタドナー肺への間葉系幹細胞移植による新規臓器保護戦略:臨床応用への挑戦
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24659637
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
佐原 寿史 鹿児島大学, 医用ミニブタ・先端医療開発研究センター, 特任准教授 (90452333)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 和彦 鹿児島大学, 医用ミニブタ・先端医療開発研究センター, 教授 (40241103)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 移植・再生医療 / トランスレーショナルリサーチ / 肺移植 / 脳死ドナー / 臓器保護 / 間葉系幹細胞 / ミニブタ |
Research Abstract |
肺は感染だけでなく、豊富な血管内皮・上皮細胞や炎症細胞を有することから、脳死状態で障害が強く惹起されうる。ドナー拡大および移植後成績の更なる向上を目指したドナー臓器保護戦略として、組織障害部位に集積する走化性を持ち、局所の炎症や免疫反応を抑制する性質を持つ間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell: MSC)に着目し、脳死ドナーへのMSC投与による効果を明らかにする研究を立案した。H24年度はこれらの実験を進めるにあたり、最も重要となるミニブタ脳死ドナーモデルの確立と、脳死ドナーを用いて肺移植を行った際に起こる現象(例.ドナー臓器内での炎症反応更新や移植後成績に及ぼす影響)を評価した。 ①脳死モデルの確立:硬膜外でバルーンを拡張することにより脳死を誘導した。バルーン拡張後、血圧上昇・脈拍増加などのCushing反応を生じることを確認し、更に、瞳孔散大・無呼吸・アトロピンテスト陰性などの確認を脳死の定義とした。6例に対しこの手技により脳死を誘導したところ、全例同一の経過をたどり脳死が確認された。更に脳死誘導後3時間後には、IL-1β、TNF-αを代表とする炎症性サイトカインのRT-PCRによるmRNA発現上昇が肺内で起こることが確認された。②脳死臓器内での炎症反応亢進が移植後成績に及ぼす影響:脳死6時間を経たドナー臓器を用いてMHC完全不適合肺移植を、短期間の免疫抑制剤投与下に行ったところ(n=3)、非脳死ドナーでの平均移植肺生着期間47日に対し、脳死ドナー肺移植では生着期間が26日と有意に拒絶反応が促進され、脳死時に生じる炎症反応亢進が移植予後に及ぼす影響が明らかとなり、脳死ドナーで生じる炎症反応を標的とする治療法によって、移植成績の改善に結びつく可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H24年度は、本実験で最も重要となる、①ミニブタ脳死モデルの確立、②脳死ミニブタでは脳死後わずか3時間後には肺内で炎症反応が亢進すること、③脳死ミニブタの臓器を用いた移植を行った場合、非脳死ドナーからの移植に比べ、拒絶反応が有意に促進することを示すことができ、実験の評価系を確立するという重要な成果を得ることができ、これらを国際学会で報告することができた。更に、脳死ミニブタに対して、ドナーに対する臓器保護作用を持つ薬剤治療を行うことによって(一酸化炭素の投与)、MHC完全不適合肺の術後早期の虚血再灌流障害が抑制されるとともに、長期的にレシピエント肺の生着効果が得られるという実験結果を得ていることから、間葉系幹細胞投与による脳死ドナー保護作用の結果、移植肺生着が得られる可能性が十分示唆されている。一方で、MHC確立ミニブタを用いた間葉系幹細胞の樹立という点において、H24年度は実験の進行に遅れを生じることとなった点が、H25年度の課題となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、組織適合性抗原MHC確立ミニブタ間葉系幹細胞の確立およびその性質に関して実験を進め、表面マーカーの解析や、分化度等に関して実験を進めている。H25年度は、MHC確立ミニブタからの間葉系幹細胞の樹立が達成されたのち、H24年度に確立した脳死ドナーを用いたMHC完全不適合肺移植実験系に対して樹立した間葉系幹細胞を投与することによって、1)脳死ドナー内で、投与した間葉系幹細胞の動態を評価し、脳死後に起こる様々な生体内の生理学的反応、特に炎症反応亢進をが生じた臓器に間葉系幹細胞が集簇するかという点について明らかにする(目的1)。2)間葉系幹細胞を脳死ドナーに投与することによって、MHC完全不適合移植肺の拒絶が抑制され、肺移植後成績の向上に結び付くかについて明らかにする(目的2)。(目的3)脳死ドナー臓器内に体外循環回路(EVLP:ex-vivo lung perfusion)を用いて選択的に間葉系幹細胞を投与することによって、ドナーに対して関与系幹細胞を投与した場合と同等の治療効果を得ることができるかという点を評価する実験を推進する。これらの実験を推進し、脳死ドナーあるいは脳死ドナーからの臓器に対する間葉系幹細胞投与が、障害ドナー臓器の修復につながり、更にその修復臓器を用いた移植によって、長期的な移植後成績が改善するか、という点を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H25年度は、現在進めているMHC確立ミニブタ間葉系幹細胞の樹立(間葉系幹細胞としての表面マーカーの解析や、分化度等に基づく性質評価)の後に、H24年度に確立した脳死ドナーを用いたMHC完全不適合肺移植実験系を基にして、樹立した間葉系幹細胞を同一MHCドナーへ投与とによって、(目的1)間葉系幹細胞の脳死ドナー内での動態を評価し、障害ドナーへ間葉系幹細胞が集積すかを明らかにする、(目的2)脳死ドナーへの間葉系幹細胞投与によって、MHC完全不適合肺移植後成績が改善するかを評価する、(目的3)脳死ドナー臓器内に体外循環回路(EVLP:ex-vivo lung perfusion)を用いて選択的に間葉系幹細胞を投与することによって目的2と同様の治療効果を得ることが可能であるかを評価する実験を推進する、という3つの目的に対する実験を計画している。そして、これらの成果を国内外の学会および論文報告する予定である。 従ってH25年度は、H24年度と同様に、細胞培養実験およびIn-vivo動物実験進行に伴う物品費(消耗品の購入)や各種外注検査に発生する費用に加え、学会発表に伴う旅費等、申請計画書に記載したように、物品費、旅費、その他の経費等の使用を予定している。
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